第3次スーパーロボット大戦J   作:YSK

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ヒロインズエピソード 03 イヤホンと夜食と文化祭

 

──イヤホン──

 

 

 これは、碇シンジが仲間になってすぐのお話である。

 

 

カティア「あれ? 統夜君」

 

統夜「ん?」

 

カティア「ポケットからヒモが出てるわ。なにかに引っ掛けたら危ないわよ」

 

統夜「ヒモ……? ああ、確かに」

 

 

 言われ、出ているヒモに気づいた統夜は、ポケットの中からそれをとりだした。

 とりだした物は、携帯型の音楽プレーヤー。

 

 カティアが見つけたのは、そのイヤホンコードである。

 

 改めて統夜は、コードをまとめる。

 

 

統夜「ありがとう。引っ掛かっても落ちるのはこれだったろうけど、落として壊れたらショックも大きいからな」

 

カティア「いいのよ。でも、今まで持っていなかったわよね」

 

統夜「ああ。つい、懐かしくなって昨日探してきたんだ」

 

カティア「懐かしくて?」

 

統夜「この前入ったシンジがポータブルカセットレコーダーを持ってたろ? それを見てさ」

 

カティア「ああ、確かに彼も、だいぶ古いのを持っていたわね」

 

 

 それは、印象的なものだった。

 シンジが外と自分とを隔絶するかのように、装着していた代物だからだ。

 

 

カティア「少し、心配よね。彼」

 

統夜「……俺は、あまり心配していないかな」

 

カティア「どうして?」

 

統夜「俺も、シンジと似たような経験があるからさ」

 

カティア「え?」

 

統夜「俺もさ、父さんが事故で死んだとなって、知り合いのところに預けられたことがあるんだ」

 

 

 統夜の父であるエ・セルダ=シューンは地球とフューリーの未来のため、死を偽装して姿を隠したことがあった。

 母は彼が幼いころに病でなくなっており、統夜はその時、天涯孤独の身になったのである。

 

 

統夜「その時、俺もシンジみたいに人が怖くなって、周囲から少し距離をとっていたんだ。シンジと同じく、これで耳を塞いで」

 

 

 と、統夜はさっきとりだした携帯型音楽プレーヤーをもち上げる。

 

 

統夜「高校に入って、一人暮らしをはじめたころには多少マシになって、これを使うことはなくなったけど、それでも一人でいることの方が多かった……」

 

 

 そうした中、はじまったのが第一次地球圏争乱だ。

 

 

統夜「でもそこで、俺はお前達に出会った。弓教授と、光子力研究所のみんなに。分艦隊のみんなにあった。そこで俺は、変われた。これを逆に、懐かしいと思えるくらいに」

 

カティア「……」

 

統夜「ここには、変われた俺がいる。変えてくれたみんながいる。だから、きっとシンジも大丈夫だよ」

 

カティア「そうね。統夜君がそう言ってくれるなら、私も安心だわ」

 

統夜「それに、こうして心配して気にかけてるカティアもいるしな。安心だ」

 

カティア「わ、私をもち上げてもなにも出ないわよ」

 

統夜「そうか?」

 

カティア「そんな大したことできた覚えはないもの」

 

統夜「そうでもないと思うけどな。俺は、いつも助かってる」

 

カティア「そ、それは、ありがとう」

 

統夜「ここで礼を言うなら俺の方じゃないか?」

 

カティア「そうでもないわよ。私だって、いつも統夜君には助けられているもの」

 

統夜「そうか?」

 

カティア「そうよ。だから、お互い様ね」

 

統夜「そっか」

 

 

 二人は顔を見合わせ、笑いあった。

 

 

カティア「ところで、その中にはどんな曲が入っているの?」

 

統夜「ん?」

 

カティア「心配事がなくなったら、気になって。そのころの統夜君が、なにを聞いていたのか」

 

統夜「ええと、なにを入れていたっけな。そもそも曲名を言って、カティアが知ってるか……」

 

 

 プレーヤーを動かし、中身を確認しようとする。

 昨日ひさしぶりに引っ張り出してきたものだが、充電は切れておらず、問題なく起動を果たした。

 

 

カティア「確かに、曲名を言われてもわからないかも。でも……」

 

 

 カティアが、イヤホンの片方を手にした。

 

 

カティア「一緒に聞かせてもらえれば、問題ないわ」

 

統夜「え?」

 

カティア「聞きながら名前を教えてもらえれば、手間が省けるでしょう?」

 

統夜「そりゃ、省けるけど……」

 

カティア「駄目かしら?」

 

統夜「駄目じゃないけどさ……」

 

カティア「変な統夜君ね」

 

 

 二人は、イヤホンから流れる曲を聞きはじめる。

 当然だが、その距離は、肩を寄せ合うほどに近い。

 

 

統夜「……」

 

カティア「……」

 

統夜(やっぱり近い。近いって!)

 

カティア(ちょっと大胆だったかしら)

 

 

 二人で平静を装いながら、イヤホンから流れる音楽を聞き入ったそうな。

 

 

──夜食──

 

 

 これは、期間を指定しないエピソードである。

 

 夜。

 消灯時間を過ぎた今は、当直の者達以外はおやすみをして明日へ備えなければいけない時間である。

 

 そんな中、休んでなければいけない筆頭のパイロットの一人である統夜は、夜中目がさえた上、お腹もすいたので自動販売機のコーナーにてカップ麺をこっそり食しているのだった。

 

 

統夜「なんだろうな。この、夜中に隠れて食べるカップ麺てのは、どうしてこんなに美味しいんだろう……」

 

 

 ちゅるちゅると、麺をすすりながら、統夜はひとりごちた。

 

 

???「あー、いけないんだー」

 

統夜「っ!」

 

テニア「もう消灯時間過ぎてるぞー。寝ないとダメだぞー」

 

統夜「なんだ、テニアか」

 

テニア「なんだとはなんだー」

 

統夜「いや、カティアだとこんな時間に食べちゃ駄目でしょと注意されただろうし、メルアには示しがつかないからな」

 

テニア「そうだね。テニアちゃんならそこの一番高いヌードルで秘密にしてあげるもん」

 

統夜「あれ? 結局誰に見つかっても駄目だな。むしろ叱ってくれるカティアが一番マシまである」

 

テニア「なぜに!」

 

統夜「そもそも秘密にするならテニアも一緒だろ。そっちも寝てなきゃダメじゃないか」

 

テニア「統夜くん。それは言ってはいけないことだよ」

 

統夜「なぜくんづけ」

 

テニア「なんかノリで」

 

統夜「ノリか」

 

テニア「というか統夜はなんでこの時間に起きてるの?」

 

統夜「いろんな博士からおススメの機械工学やロボット工学の本を借りたんだ。それを読んでいたらうっかりこんな時間になって眠れなくなった。だから、腹を膨らませて眠気を誘おうかと思ってさ」

 

テニア「へー」

 

統夜「サイトロンがあるからって、やっぱり基礎や理論を理解していないと意味がないからな」

 

 

 サイトロンがあれば、そこにあるものの構造や使い方は理解できる。

 だが、それを実際に自分で作ろうとする時、そこになにもない状態ではサイトロンも教えてくれない。

 

 知ろうとするものが、なにを知りたいのかすらわからなければ、知りたい情報も引き出せないのだ。

 

 ゼロからなにか新しいものを生み出すためには、それ相応の知識が必要なのである。

 

 

テニア「あー」

 

 

 テニアもサイトロンをあつかえるので、それに心当たりがあり声をあげた。

 サイトロンは相互理解を促進させるが、万能ではないのだ。

 

 

統夜「ものを作るってのは難しいよな」

 

テニア「だね」

 

統夜「それで、テニアは?」

 

テニア「ん? なにかね?」

 

統夜「いや、テニアはなんでこんな時間に?」

 

テニア「あー、それ聞いちゃう? 聞いちゃうかー」

 

統夜「どうせだしな」

 

テニア「聞いて驚くなかれ。なんとただお腹がすいただけなのだ!」

 

 

 まいったか! と胸をはった。

 

 

統夜「なんてこった。負けた……」

 

テニア「はっはっは」

 

 

 一体なんの勝負をしているのよ。

 カティアがいたら間違いなくそう言っていただろう。

 

 

テニア「まー、ここでアタシもなにか意識の高いこと言えればかっこよかったけど、そんな見栄はってもしかたないしね」

 

統夜「そうだな。素直なのはいいことだ。それはテニアの美点だと思う。ただ……」

 

テニア「おっと。この時間に食べたら太るとか言い出したら許さないよ。それ以外ならばーんと言いなさい!」

 

統夜「……」

 

テニア「よろしい!」

 

統夜「なにもなくこの時間に食べるのは体に悪いぞ」

 

テニア「言ったー。言ってくれたなー」

 

統夜「太るとは言ってない。体に悪いと言っただけさ」

 

テニア「屁理屈をー」

 

統夜「自覚したなら我慢しよう」

 

テニア「無理! 目の前でそんないい匂いされたら無理ー!」

 

統夜「しかたないな。なら、俺の半分食べるか?」

 

テニア「はへっ?」

 

統夜「今食べると体に悪いと言った手前、俺もこれを全部食べるのもどうかと思うし」

 

テニア「い、いや、それはどうかと、アタシは思うなー」

 

統夜「遠慮するなよ。このままだと残すことになるし」

 

 

 テニアは統夜を見る。

 カップ麺を見る。

 統夜を見る。顔を。

 カップ麺を見た。

 統夜を見る。その唇を……

 

 

テニア「と……」

 

統夜「と?」

 

テニア「統夜のバカー!」

 

 

 テニアはその場から逃げ出した!

 

 

統夜「……流石に、人が食べたのは嫌だったか」

 

 

 悪いことをした。

 そう思う統夜であった。

 

 ……これは、サイトロンだけに頼っていると、いざという時ダメになるぞ。という教訓も秘めた小話なのだ。

 だから都合悪くサイトロンが働かなかったのである!

 

 わかったかな!?

 

 

 ちなみに残すのももったいないので、結局全部食べたそうな。

 

 

──文化祭──

 

 

 これは、文化祭の時に挿入されるお話である。

 

 統夜達の高校での文化祭において、クラスの出し物はメイド喫茶。いわゆる飲食店である。

 

 メイド喫茶となった理由は、統夜や甲児達ロンド・ベル隊に参加していて準備に参加できない者でもメイドの恰好をすればそれだけで元がとれ、厨房担当なら学校以外でも練習できるなど、当日時間を作るだけで出し物に参加できるからである。

 という建前。

 

 本音は本編で甲児とクルツが語っていたように、可愛い女の子のメイド服姿が見たいというだけだが!

 

 ちなみにカードゲームでメイド服姿を披露した三人娘(カティア、テニア、メルア)以外にもフルメタルパニックのテッサとマジンカイザーの弓さやかも原作中でメイド姿(さやかはメイド風の衣装だが)を披露していたりする。

 

 ロンド・ベルに参加し、準備に加わることのできない統夜は、自炊をしたことがあるという理由から、文化祭当日は調理係として参加することになっていた。

 裏方として材料を運んだりするのは甲児やボスがやるので、役割分担でもある。

 

 

統夜「……意外に忙しいな」

 

 

 担当時間内、受けた注文を次々とさばいていく中、統夜は思わずつぶやいた。

 

 それもそのはずで、この時ちょうどヒロイン三人娘やシャナ=ミアにロゼ=リア、テッサ達が給仕を担当していたからである。

 見目麗しい彼女達が表に出ているのだから、このメイド喫茶がはやらないわけがなかった!

 

 

統夜「なのに調理担当が今俺しかいないって、完全に配分間違えただろ。誰だこれ配置設定したの」

 

 

 さらなる注文が押し寄せ、手一杯になりそうになれば、愚痴も出るというものである。

 

 

メルア「統夜さん、調理のヘルプに入りますね」

 

 

 メルアはお菓子を自給自足するようになったので、喫茶の料理もお手の物である。

 むしろ文化祭の練習と称して、統夜が作るのを指導し、一緒に食べていたまであるくらいだ。

 

 

統夜「助かった。今なら少しくらいのつまみ食いも見逃すぞ」

 

メルア「ふふっ。それなら心配にはおよびません」

 

 

 得意げな顔をしたメルアは、メイド服のポケットに手を入れた。

 

 

メルア「こうしてつまみ食いをするために昨日から準備をしておきましたから!」

 

 

 そう、彼女は自信満々にポケットの中から喫茶であつかっているお菓子類のミニ版(つまんで一口で食べられるサイズ)をとりだした!

 万全です! と、その顔は満点の笑顔である。

 

 

メルア「これでつまみ食いをせずに堂々とつまみ食いができます! だから見逃してもらう必要はありません!」

 

統夜「確かに怒る理由はないなぁ……メルアは、凄いな」

 

メルア「えへへー」

 

 

 そこまでしてつまみ食いをするメルアに呆れつつも、その情熱には感心する統夜であった。

 

 

統夜「まあいい。そっちの注文、頼めるか?」

 

メルア「はい。まかせてください!」

 

 

 こうして二人は、手分けして調理にとりかかった。

 狭い厨房の中、二人は息の合った動きでてきぱきと注文を完成させてゆく。

 

 

統夜「メルアこっちの仕上げ頼む」

 

メルア「はい。統夜さんはこれのカットを」

 

統夜「まかせろ。2番テーブル、できた」

 

メルア「こっちは四番です」

 

さやか「息がぴったりね。二人共」

 

 

 できた品物をトレイに乗せたさやかが関心したようにうなずく。

 

 

統夜「そりゃな」

 

メルア「二人で一つの機体を動かしてますから!」

 

テッサ「では、二人でなんとかなりそうですね。追加の注文です」

 

メルア「まかせてください!」

 

統夜「ついでに、これを5番テーブルに」

 

テッサ「はい」

 

メルア「私が追加を担当しますね」

 

統夜「まかせた」

 

 

 さらに二人で注文をさばいてゆく。

 一方教室では、問題を起こした客をボン太くんが制裁している音が響いていた。

 

 

メルア「ふふっ」

 

 

 手を動かしながら、メルアが楽しそうに笑った。

 

 

統夜「どうした?」

 

メルア「なんだか、みんなでお店をやるの、楽しいな。って思って」

 

統夜「確かにな。忙しいけど、やりがいはある」

 

メルア「そのうちまた、みんなでこんなことができるといいですね」

 

統夜「そうだな。そのためにもこの戦いを一刻も早く終わらせないといけないな」

 

メルア「そうですね」

 

統夜「まあ、それより前に、まずはこの戦場を無事切り抜けないとな」

 

メルア「はい!」

 

 

 ふふっ。と、二人は視線をあわせず笑いあった。

 

 

 目が回るような忙しさ。

 でも、とても楽しい一日でした!

 

 またこうして、一緒に戦い以外のことができるといいな。

 

 

 そのために彼等は、明日も戦い続ける。

 

 地球の平穏を取り戻すために!

 

 

 ヒロインズエピソード その3 終わり


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