ボンドルドクター   作:杜甫kuresu

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今日面白かったこと:お気に入りユーザーにウボ=サスラがいた事。
「人間でなければ生き物であれ器物損壊罪ですが、生憎と彼は持ち主も居ない神の様子。どんな”取り扱い”をしようと、法には問われませんのでどうとでも実験が可能です」


対峙する枢機

「私はロドスの悲願に沿った行為しかしていませんよ」

「明らかに行き過ぎ。感染者も人間だって分かってる?」

 

 ブレイズとドクターが当然のように揉めていた。ドクターに対して反感を持つオペレーターに関しては、前線を主とするなら非常によくある話であるし、彼女の言い分もスタンダードなそれである。

 

 爪を剥ぐ、指を折る、オリパシーの強制共鳴。彼のやっている非倫理的行為は枚挙に暇がない、勿論賛否両論だが、ならば否も存在する。

 とりわけブレイズは筆頭だった。感染者のために戦う彼女が、このやり方を安易に許容するかと言えば否だ。彼女の感情は、あまりに熱く厚すぎる。

 

 やいのやいのと言っているさなかもモスティマは暢気に煎餅をかじっている。ドクターにとっては秘書は誰でもいいようで、日替わりだったりも多いし、それこそ此方に良くも悪くも不干渉な彼女が選ばれることは多々ある。

 

「当然、理解があります。ロドスアイランドの目的は感染者問題に対する対処、これに尽きる事を私は常に大前提に立案と行動をしていますので」

「じゃあ少数は虐げていいって? それはレユニオンや差別主義者と同じ発想、同じ土俵で戦ってちゃ意味がないわ」

 

 同じ土俵、と疑問符がついた。ドクターの疑問符の意味がモスティマは分かったが、些か無茶がある。

 椅子から立ち上がったドクターが、書類を取り分け始める。片手間、とでも言わんばかりだ。

 

「ブレイズは優しいですね。信頼も私より篤く、きっとその言葉は多くのオペレーターを突き動かせることでしょう。とても良い点だ、感情が正しさを帯びている。素晴らしい……」

「話聞いてるの?」

 

 ブレイズがあからさまに顔を顰めると、ふと。ブレイズの顔を見る。

 見ているのだろうか、その仮面の裏の視線はブレイズにも、ましてやモスティマにも理解できない。この生き物は常に何処を見ているのかわからない、見た目通りの生命体だからだ。

 

「ですが我々は手を緩めてはなりません、私はアーミヤと、他の方々の夢を評価している。それに加えて協力してくださっていることに、お礼すら申し上げたい。止まることは最も憂慮すべき事態、貴方達の協力を無駄にしない為に私は最善を尽くしていますよ」

 

 平然と言い切るドクターの姿に、ブレイズが苦虫を噛み潰したような顔をする。

 その言葉から嘘が感じ取れない。というより、実際嘘など付いていないらしい。彼はそもそも嘘など付く意味がない、彼は本気で協力したいと願い、本気で助力を感謝し、本気で返礼をしているつもりなのだ。

 

 ブレイズでも分かる。頭に血が上っても、分かる。

 それは紛れもない”善意”だ。荒唐無稽だが、彼の在り様はそういうものである。

 

「アンタ、それ本気で言ってるわけ…………」

「私もブレイズの熱意に応えたい。ですから冗談も、嘘も意味がありません。事実、感染者も慈しむのは当然の事です」

 

 ブレイズは軽蔑したような目つきをして、それから少しだけ。迷う顔をして、出ていった。

 

 煎餅をくわえたまま歩いてきたモスティマが、ドクターの前でパリッと砕く。

 

「君は本当に説明をしないねえ。戦略が突飛すぎるよ、しかも損ばっかりだ」

「損? 損などしていませんよ、我々は確かに一歩を踏み出している。彼女の葛藤も、その人情も、実力も、全て大事な道具ですので」

 

 また説明が足りてない。モスティマは薄ら笑いをしているが、呆れている。という方が近いかもしれない。

 

「もっと説明してもいいんじゃない? どうせ不評は買うよ、理屈しか理解できないしさ」

「ブレイズは理解していますよ、心が追いついていないだけでしょう。そういった在り方が新人オペレーターのケアや、モチベーションの維持に繋がります。曇らせる意味もありませんので」

 

 そうとは言うけどねえ、とモスティマは肩を竦めていた。

 ブレイズという人物に関して、ドクターは特段否定などはしていない。というより、実のところ彼のやり方というのは”平等”と言えば平等である。

 

 法は遵守しないが、道理は遵守する。そういった戦略が多い。

 爪を剥ごうが指を折ろうが実のところ、治る。

 オリパシーの強制共鳴をしようが、直接的な死因になるほどではない。

 

 選ぶ感染者も戦略的意図からオペレーターを選出しないだけであり、平等なものだ。彼の行動において、実は本当に咎められるべき事というのはあまりない。

 どうせ傷つけるなら爪を剥ごうが、骨を折ろうが、大差ない。

 

「言ってることは分かるんだけどなぁ…………彼女にとっては無用なストレスなんじゃない? 身内が敵ってさ」

「怒りは法的に違反しない麻薬です。私に憤る間は、感染者を傷つける罪悪感を持つこともありません。実際それで良いのですが…………しかし、支えることも指揮の一つです」

 

 モスティマはとうとう目をそらして取り付く島もない、という顔つきになる。

 

「いや、まあそうだけど。君は良いの? 嫌われ役も楽じゃないでしょ」

「…………?」

 

 ふと、モスティマを見る。

 何を考えているかわからないが、いつもの予感が脳裏を走る。

 

「興味がありませんので。私が動かないように尽力してくださるのなら仕事に専念出来ます…………作戦への反感は小隊編成により希釈済み、となっておりますが」

「んー、話が通じてない。分かった分かった、私の負けだよドクター」

「ところで以前から思っていましたが、ロドスアイランドは性質上、ドクターが無数に居ます。やはりボンドルド、と固有名詞で呼んでいただけると有り難い」

「話が通じてないんじゃなくて聞いてないのね。はいはい…………」

 

 

 

 

 

 

 

「そう言えばドクターの素顔ってどんなの? 地味に興味あるんだよね」

「普通の顔ですよ、モスティマが取り立てて興味を持つほどのものでもありません」

 

 そう言われたら気になるのが人情だ。

 という訳で検証の手始めとして用意されたのが、食事である。

 

 ドクターは基本的に食事を一人で摂る。いや、摂っているらしい。あまり食事に興味がないという発言から聞くにはまあ、ろくなものは食べていないとオペレーター全体で認識されている。

 だがこの仮面。これを取るには食事をさせるのが手っ取り早いと誰もが気づいていた。

 

 が、実際難しい。気づいたら消えているからだ。

 

「まあいいや、今日は一緒に御飯食べようよ。君と食事したい子は沢山いると思うよ?」

「そういうものですか。別に構いませんよ、あまり需要もないかとは思われますが」

 

 今回、それは成功した。

 これがどれくらい異例の事態かと言うと、これまでにモスティマにわざわざ直談判して協力を頼んだエクシア、焚き付けたクロワッサン、聞きつけたオペレーターと言う名の野次馬多数という結果を引き起こし。

 

 食堂がパーティー会場と見間違う賑やかさになる程度である。

 ドクターは満足げに頷いていた。

 

「皆さん、規則正しく食事をしているようだ。好ましいことです、パフォーマンスに於いては非常に重要な要素なんですよ」

 

 いつもはこんなにごった返していない。ドクターが食事をするとあってゾロゾロ集まっただけである。

 意外なことに、彼の言動に反感を持つものの姿もチラホラと見受けられる。敵愾心と好奇心は両立する一例である、彼も実のところそういうもので出来ているのだが、理解される日はまだまだ遠い。

 

 野次馬の中には意外なメンツも居て、フロストリーフなんていうのも居る。

 彼女は比較的彼の思想には理解が有る――――というよりは慣れている方で、ひょいひょいと人混みを抜けるとドクターの傍までやってきた。

 

「ドクター。食堂に来るとは珍しいな…………」

 

 白々しいが、彼女も見物客である。

 

「えぇ、珍しいですね。フロストリーフもご一緒にどうですか?」

「偶には人と食事をとっても悪くないだろうな。そうしよう」

 

 孤独を嗜む彼女にしてはあっさりとした承諾、どうしたことだろうかとドクターも少しだけ考え込みはした。

 

 方針として、彼はあまり強い干渉を好まない。というよりは、彼は他者が何をしようが原則として毅然とした態度を崩すことがない。

 一見すると冷たいようにも見えるが、つまり相手が何をしても彼の態度はそのまま維持されるということ。他人と変わった具合の距離感を持つオペレーターにとっては、彼との関係は存外に悪くないらしいのだ。

 

「そう言えばモスティマとフロストリーフは何を食べるんですか?」

「え~。私は、そうだな…………たこ焼き」

「言うこともない定食だ、何だかんだとバランスが良いからな」

「要望通り、食堂のバリエーションは豊かに保たれているようです。活用されていて何より」

 

 モスティマとフロストリーフが思わずドクターの方を見る。

 

「えっ、君そんな要望出してたの?」

「何かおかしいでしょうか。患者の生活は医者にとって、至極当然に干渉しうる要素です」

 

 そういう話ではない。あいも変わらずズレていた。

 

 さっさと歩いて注文をするドクター。意外なことに注文は”うどん”、というより彼が何かを食べるの自体がオペレーターからすれば想像がつかないので、何を頼んでも意外性しか無い。

 お盆を手にとって並ぶ姿がどうにも奇妙で仕方ない。フロストリーフは首を傾げる。

 

「ドクターが食事に頓着するとは意外だな」

「意外ではありませんよ。私はオペレーターの皆さんの健康とモチベーション、どちらに関しても軽視しておりません」

 

 それは普段から言っていると言えば言っているのだが、それはそうとやっぱりイメージと何処か噛み合わない感じはしてしまう。

 

「特に食のバリエーションは重要な観点です。それぞれ好きなもの、嫌いなものが存在する。尊重するべきであり、また重視するべき点でしょう」

「でも君は何食べてるか分からないけど、どうせ栄養食とかでしょ?」

「私にも食の好みはありますよ」

『は?』

 

 各地のオペレーターが一斉に振り向く。ドクターは一望して、首を傾げた。

 

「当然でしょう。私は人間なのですから」

「人間なのか、ドクター」

 

 咄嗟にフロストリーフが聞いてしまった。誰もが聞こうと思っても聞かなかったのに。

 当然といえば当然だが、ドクターは色々な妙な噂が流れがちだ。本人も多少は把握しているようだが、やはり多い意見として「実はエイリアンなのでは?」というのは結構な割合である。

 

 オカルトをオカルトに出来ない非現実的な思想で動いているのだから、仕方ない。

 

「おやおや、フロストリーフは失礼ですね。子供の特権でしょうか」

 

 ドクターはそう言いながらフロストリーフの頭をガシガシと撫でる。手袋越しだが、フロストリーフはあまり抵抗しなかった。どうやら口で言うほどどうこう思ってないらしい。

 

 席につくと、もう誰もが隠すわけでもなくドクターに視線を向けていた。

 食事の瞬間なら仮面を外す。そんな淡い展望が熱視線となり、彼をスポットライトのもとに晒していく。

 

「…………? 私に気を遣うことはありませんよ、食堂にいる間は私もただの人一人に過ぎませんから」

「いいからいいから、食べよう。ドクター」

 

 モスティマがニコニコとして彼に食事を促す。珍しく少し高揚していた、彼の素顔というのは本当に、ロドスアイランドの七不思議に数えられるたぐいなのだ。幾ら大抵のことに無関心な彼女でも、こればかりはついつい熱視線を向けてしまう。

 

「まあそうですね。手早く食べてしまいましょう、仕事のスケジュールもあまり遅らせては困る方が居ます」

 

 そう言って、彼がゆっくりと箸に手をかけて。うどんを掴んだその瞬間。

 食堂の一角から火が上がる。一斉に視線がそちらへ向いた。

 

「うおっ、また火の加減間違えた! お、おいこれどーするレッド!」

「知らない…………というか、危ない」

「それはわーってんだよ!?」

 

 イフリータだ。彼女のボヤ騒ぎはよくある話で、幸い今回は誰も近寄っていなかったのが幸いだろうか。本人も気にしてはいるが、事実こうなるのだから物理的な距離は仕方ない。

 そうこう言ってる間も火が吹き上がっている。上に向いていれば熱いだけで済むが、それが横に向けば――――危ないのに違いはないだろう。

 

 急な事態に焦るもの、眺めるもの、色々居たが。

 彼は動いた。

 

「イフリータ。アーツの扱い方は考えなくてはいけませんよ」

 

 気づけばイフリータの後ろに居た。イフリータがぎょっとする。

 

「うおっ、ボ!」

「ボンドルドです。略しすぎだと言っているではないですか、イフリータ」

 

 そう言いながら、ドクターの手がイフリータの火を吹く指先へ伸びる。

 その炎は温かさ、安心感とは無縁な恐怖を惹起する乱暴なだけのものだ。吹き上がるのは怯え、怒り、起伏ばかりであまりに配慮に乏しい。

 

 ドクターは温まるように火に手を添える。

 

「さて、貴方の感情で火は大きくなります。まずは落ち着いて深呼吸を、世の中には貴方を脅かすものがないわけではありませんが、少なくとも我々は最終的にそれを目指していない。我々は貴方を時に害しますが、それは貴方の快復を祈る愛ゆえです。分かりますよね?」

「む、むずかしー言葉をやめろ……」

「おや、失礼しました」

 

 咳払い。

 

「我々は味方です、イフリータ。ですから落ち着いてください、暴れずとも我々は貴方の敵ではない」

 

 理解出来たようだ。火が緩やかに、緩やかに弱くなり、そしてとうとうドクターに寄ってその人差し指が包み込まれた。

 感情の起伏でイフリータのアーツはあっさりと制御不能になる、彼女の対処に際してまずは落ち着かせることが一番だとドクターも理解していた。

 

 何処か幻想的な消火作業、思わずフロストリーフも見惚れた。モスティマは、何処か見慣れたような様子でヘラヘラと眺めているだけ。

 イフリータがモゴモゴとなにか言う。

 

「お、俺様はよ。ただ肉の焼き加減が足りねーから、ちょーっと焼こうとしただけでな?」

「構いませんよ。イフリータのアーツは扱いが難しい、そういう事もあります。周りをよく見て使ってください、貴方の才覚は素晴らしいものですが、些か今の我々には眩しいのです」

 

 イフリータの取り乱した様子が、何処と無く和らいだ。良くも悪くも子供は相手の感情に敏い、彼女が大人しくなるということは、つまりそういう事なのだろう。

 

 迅速な対応は流石あの指揮をするドクターと言える所で、フロストリーフも感心する。

 だが問題は、そっちではない。ふと、ドクターの座っていた席を見る。

 

「何…………ッ!?」

 

 うどんが、無くなっているのだ。欠片も残らず。

 

「今の時間で食べきっただと…………!?」

「はは、これは一筋縄じゃいかないなぁ…………」

 

 ドクターが悠然と戻ってくると、食器を抱えて首を傾げる。

 

「何か変なものでも入っていたのでしょうか…………普通に美味しかったですよ?」

 

 結局、ドクターの七不思議の一つに「速すぎる食事」が追加されるだけという、研究者としてはこの上なく不服な成果が得られて、今回の作戦は失敗に終わることとなった。




彼の行動ってほぼ全てが意味を持ってるんですけど、何処まで喋ればいいか扱いに困る。だってただの変わり者の良いやつだってバレるし…………。
ボはどんな開発をしてても経緯が微妙にあれなら許されるとされている(そうか?)。

そう言えばこのボの正体というか、中身は描く予定ないんですけど必要でしょうか。これは見た目こそボンドルドっぽいですが、内部構造は似て非なるエイリアンです。エイリアンが得意な人間は最早エイリアンよりエイリアンですので。
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