ボンドルドクター   作:杜甫kuresu

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今回はタイトル以上の要素がありません。
困りましたね…………そう言えば、未履修の方のためにタグにはボンドルドの渾名一覧を詰めておこうと思いましたが、しつこいのでやめました。検索補助としては運用しておりませんが、やはり読者の方の目で確かめていただくのが速いかと。

(I)「”評価者”は全て私です(凍結)」


”明星へ登る”

「ドクター…………これ何?」

 

 執務室。モスティマが自分の額に当たる――――レーザーポインターじみた、紫の光に指を当てて苦笑いする。

 ドクターがいつも仮面から紫の光を零している、というのは最早都市伝説にもならない常識なのだが、モスティマが困惑したのは其処ではない。

 

 その光が、まっすぐと彼女に突き刺さっているのだ。さながら飛行石よろしく。

 

「これですか?」

 

 ドクターが仮面の縦一直線のラインを指差す。

 

「それ」

 

 頷く。

 

”明星へ登る”(ギャングウェイ)と言います」

「聞いたのは名前じゃないんだけど」

 

 違いましたか、とドクターが固まる。どうやら彼にとって予想と反する答えだったようだが、となるとつまり普段は相手がどんな反応をするのか「分かっている」ということになるので、それはそれで複雑な状況となってくる。

 

 紫の光が器用にモスティマの顔をうろうろと動き回る。時々目にも当たっている気がしたが、意外と眩しいわけではないらしい。

 うーむ。と唸りながらドクターが顎に近い所に手を当てる。

 

「視線が分からないと言われましたので、”明星へ登る”を応用してみたのですが…………これはお気に召しませんか」

「確かに視線がさっぱり分からない被り物だけど、それは抜きにしても常にレーザーポインターが出てるのは人間じゃないよ」

「どうして人間であることに拘る必要が?」

 

 身も蓋もない返答だが、いい加減モスティマも慣れてきた。

 ドクターはモスティマの返事を聞いて何処か残念そうにレーザーポインターを消してしまう。どうやら彼の中ではこれが本当に効果的な手段だったらしい、恐らく全く的はずれである。

 

 酷い解決方法だ、と一周回って興味深くモスティマが眺めていると、執務室の扉が勢いよく蹴破られる。

 

「ボ、麻雀するぞ麻雀!」

 

 謎に広まった短すぎる略称を高らかに叫ぶ銀髪の女。高く伸びた赤い角、軽妙に細められた鋼の瞳。

 エンシェント無職のニェンだった。

 

「何かまた変なのが増えたね」

「また? またとはどういう事でしょうか、モスティマ」

「どういう事も何も”また”だよ」

 

 無言でモスティマの方を向くドクター。何も言わない彼は確かに視線の所在も分からないし、実際こういう時に苦情が来たのだろうが、慣れたメンツからすればむしろ平常運転なので何も気にしないだけという段階に入ってくる。

 

 ニェンがケタケタ笑いながらドクターに肩を組んで寄りかかる。

 

「酔った方の相手は得意ではないのですが…………」

「誰が酔っ払いだ、失礼なやつだな! オメーの道具作成の相談に乗ってやったのは何処の誰だってんだ、えぇ!?」

「アレ君が作ったの…………」

 

 尻尾の感触を思い起こしながらぼんやりとした顔で呟くモスティマ。地味にあの尻尾は柔らかい独特の感触の評判がよく、ドクター本人こそ進んで取り出さないが常用を頼んでいるオペレーターが一定数居る。

 

 どういう用途で使われたかは、意外と把握されていない。ドクター自身、「第三の手として使っている」という紹介をしているのも大きいのかもしれない。

 ニェンがドクターの仮面を肘でぐりぐりする。

 

「にしても相変わらずそれ付けてんのかよ。外せよ、明らかに視界わりーだろそれ」

 

 無言の発光。それも1680万色、俗に言うゲーミング系のそれ。

 ニェンも流石にそのコメントに困る色合いに思わず距離を取る、何となく彼がやると気色悪いというのは有った。

 

「うえっ、何だその色! きっしょくわる!?」

「漸く離れてくれましたね。それで、麻雀でしたか?」

 

 離れたのを良いことにまたいつもの調子で喋りだすドクター。この男、見た目より我が強い。いや、見た目の個性もアクも主張も十分強いかもしれない。

 ちなみにまだゲーミング発光はやめていない。

 

「そうだよ、麻雀だ麻雀! モスティマも付き合え、どうせ暇だろ?」

「まあ良いけど、どうせならもうひとり必要じゃない? 三麻は速すぎるからねぇ」

「そう言うと思ってアーミヤを連れてきた」

 

 おずおずと入ってくるアーミヤにドクターはおぉ、と小さいながらも歓喜の声を上げる。

 

 というのも、アーミヤとドクターの関係性は「未成年と教育に悪い物体」とされてしまっているからだ。それは笑い話にならない倫理的な点でも言われているし、単純なジョークとしてもそう扱われる。

 モスティマが恒例行事のようにお飾り秘書をさせられているのも、アーミヤが近くにいることが少ないというのも有った。兎にも角にもこの両者は、お互いに組織の中でそれなりの権限が有りながら、顔合わせする機会には恵まれてこなかった。

 

「ニェン、技術以外の面でも貴方は有用な方だったようです。見誤りました、この偉業にお礼が言いたい」

「一言で失礼と謝罪を自家醸造してんじゃねえよ。ま~別に良い、ほれ。此方来い」

「見つかったらまた大変なことになりますよ、ドクター…………?」

 

 アーミヤの何処か不安そうな顔。

 ドクターの”明星へ登る”がアーミヤの眉間に刺さった。

 

「案ずることは有りませんよ、アーミヤ。対立は織り込み済みですので」

「ドクター。”明星へ登る”の使い方が意味不明だし、アーミヤそういう話してないと思うよ」

「そうなんですか…………」

 

 よく分かってないのか固まるドクターを余所目に、ニェンが腕を組みながらくるくると一同の周りを踊るように回っていく。

 

「うっし! じゃあ賭けやるぞ賭け、勝ったやつの言うこと聞くってのはどうだ!」

「おやおや、本当に良いんですか?」

「やめた方が良いと思うよ、ニェン」

「本当に辞めたほうが良いですよ、ニェンさん」

 

 ドクターに表情というものは存在しないし、ましてや雰囲気の変化というものはまるで存在しない。

 だからこそその確認が不気味だった。何を考えているのかさっぱりわからないし、故に今までの凶行が思い起こされて嫌な想像に体中をかきむしられるような悪い予感がいくらでも湧いて出てくる。

 

 ニェンは首を傾げた。

 

「成程なぁ。辞めたほうが良いって?」

「そう言うことです。ニェンさん、安全のためにも――――」

「だが断る」

 

 が、ニェンはおおよそ傾奇者だった。

 

 

 

 

 

 

 

「何とか勝ったね…………ドクターに勝たせていたら……いやぁ、想像したくないなぁ」

「オメーら結託するのはどうなんだよ! 特にアーミヤ、そりゃロドスのCEOとしてどーなんだ!」

「皆さんの安全のためですから何も問題ありませんね」

 

 さらりと切って捨てるアーミヤの返事は、何処と無く横の漆黒の男の面影が見えたような気配がする。モスティマも自身の勝利で終わったことに珍しく安心感を覚えていた。

 

 ドクターは不平不満こそ言わないが、やはり残念なところは有ったのか固まったままだ。

 

「困りましたね。どうせなら皆さんの体調チェックを念入りに行いたかったのですが…………」

「君が言うと何する気だか本気で分からないよね」

 

 容赦ない一言だが普段の言動が不穏な方が悪い、と言われてしまえばそれもまあ仕方がないことである。

 チカチカし始めたドクターを放置したまま、ニェンは頬杖をついてモスティマを見る。

 

 彼女にとっては、なんせモスティマというのは目につく女だった。見えないわけではないが見せない女、世界を演出する感情を殺している何か。

 無いわけではないのが目に見えるせいで、呆れるというより憐れんでいる。何故にそう閉じるのか、閉じた果ては何が有る、お前の世界には何の色が残っている。などなど。

 

「で、モスティマは何させるんだ? おおよそ私達は奴隷ってやつだが」

 

 という訳で、問うてみる。最近の動向は興味があった。

 この自称ボンドルドなる男に、多少なりとも影響を受けている。これはニェンが見なくとも、大抵のオペレーターの知りうるところであるからだ。

 

 首を傾げてみせたモスティマ、ドクターもじーっと見ている。

 

「え~? あんまり考えてなかったなぁ…………それじゃあドクター。明日一日、私の散歩に付き合ってよ」

 

 ほう、名指しか。ニェンの鈍色の瞳が面白そうに細められる。

 自覚がない故の露骨さ、というのは面白くて仕方なかった。目は口ほどに物を言う、というのと原理的には一緒かもしれない。

 

 意識してないから、行動によく表れてしまう。

 

「些か急な提案ですね。文化調査の予定もありましたが…………擦り合わせて良ければ構いませんよ、しかし何故?」

「いやだって、ドクターが戦場と鉱石病以外で何に興味を持つか。”気になる”よね?」

 

 アーミヤも流石に面食らった。モスティマが個人に対して興味を明確に表明するとは、少し予想外だった。

 彼女が興味を示すのは組織というくらいの大きな流れ程度のもので、大抵のことは薄ら笑いの裏側というのは酷く薄い関心から成り立っている。

 これは理解こそ出来ずとも、大抵の同僚が感じ取れた。

 

 もちろんドクターと言う人物は魅力的、と言えば語弊があるが。敢えて正しい表現をすると面白い生き物だと言って差し支えはない。

 とはいえ、この堕天使が興味を持って、個人的な申し出をする。となると、やはり彼の特異性が浮き彫りになる。

 

 探求する側でありながら、探求されうる奈落の光。

 彼はまさしく、毒を以て毒を制すというような存在ということだ。

 

「私もこの世界の文化について、未だ知らないことは多い。鉱石病やアーツに関するルーツについても、暮らしの中に浸透していることは当然有るでしょう…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『モスティマの見せる”絶景”、是非見たい』

 

 その仮面の奥から、底知れない眼光が溢れた錯覚をした。




普通に通報されかねない前書きを書いてしまいましたが、恐れることはありません。皆様の応援が続く限り私は不滅です。

未履修の方への保険として、タグに入れようとしていた渾名一覧を紹介致します。
貴方は読む側です、なるべく耐えてくださいね。
ワクワクさんオルタ
子供たちの愛を背に戦う男
憧れは止まらないけどお前は止まれ
親子丼を最初に親子丼と呼びそうな男
倫理観ゆるキャラ
特級汚物
原作に際してはこのようなキャラですので、本作も当然そのような展開になりえます。予め考慮してくださいね。

ちなみにモスティマの挙動がどうにも怪しいですが、この作品に恋愛要素は断じてありません。というかボンドルドの恋愛、普通に見たくありませんよね。
私もです。

ちなみにtwitterで不定期にエゴサーチしています。二件もありました、驚くべき成果です。
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