はかせとぼく   作:Tena

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人は足りないものを補い合うことで生きていける



1. はかせとぼく

 はかせはとてもいそがしい人です。

 ぼくははかせがねるのを見たことがありません。

 なぜなら、ぼくがねた後にはかせはねて、ぼくがおきる前にはかせはおきるからです。

 いそがしいはかせはこわいです。ぼくが話しても、知らんぷりをします。「電話」にむかってどなっていることもあります。

 

 でも、ぼくははかせがやさしい人であることを知っているので、きらいだとは思いません。

 ぼくがこわいゆめを見たときは、ねむるまでだきしめてくれます。

 こぉひひをもっていくと、頭をなでてくれます。

 ぼくははかせがすきです。

 

「人は足りないものを補い合うことで生きていける」

「人は足りないものをおぎないあうことで生きていけます」

「そうだ」

「そうなのですか?」

「そうなのだ」

 

 はかせはもの知りです。ぼくにたくさんのことを教えてくれます。

 話し方だって、はかせが教えてくれたのです。文字もそうです。おぼえるのはへんたいですが、とても楽しいのでがんばれます。

 

「お前は私のせいで話し方が少し固いな」

「はかせの()()()です」

「なんであれ、今度客人が来たときはお前を紹介しよう。良い影響が得られるかもしれない」

「はい」

 

 おきゃくさまに会うのは楽しみですが、少しこわいかもしれません。

 つぎに来るのはだれでしょうか。王さまはめったに来ません。どろぼうさんはしばらくど()ぼうさんです。ぼくはぱんやさんに会ってみたいです。

 なにはともあれ、その時までにあいさつのしかたをおぼえなければいけません。

 

「そう心配するな。お前は可愛らしいから、誰でもすぐ気に入るさ」

「それは、()()()()()()()()()()ではないでしょうか?」

「……しまった。私の話す言葉を覚えさえしなければ完璧に可愛らしかったのだが、少々生意気に育ったやもしれん」

「もんだいありません」

「自分で言うな」

 

 もしかすると、はかせをおこらせてしまったかもしれません。

 きらわれてしまったらと思うとこわくてふあんでかなしくて、夜になって、ぼくはねむれずなきつづけました。

 ぽろぽろとあふれるものでいっぱいになりました。

 

 気がついたら、はかせがぼくのせなかをなでていました。

 いつのまにか朝になっていました。はかせの手はあたたかかったです。

 

 ぼくははかせがすきです。

 

 

 

 


 

経過報告43

・対象の情動の変化を観測。Ⅲ-ⅡとⅤ-Ⅲに分類。分類済みの感情としては11個目であり、順調な経過であると言える。実に喜ばしい。

・Ⅰ種やⅡ種の感情は頻繁に発現するようになっている。意思疎通能力も十分であると見込めるので、Ⅵ種以降を確認するため、他者との交流機会を与えることとする。

 

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