「へぇ、脱獄できたのか」
新聞を広げた博士が感心したような声をもらしました。
冬も終わり、湯たんぽ代わりに使われることもなくなったぼくは、博士のひざによじ登り、新聞の記事をのぞきます。
そこには、「ギゾク、刑務所から消える」と書いてあります。
「博士、この字はなんと読みますか?」
「うん? ああ、
「では、どくぼうさんはど
「そうだなぁ。あいつ、もしかしたら冬の寒さを凌ぐためだけに捕まってたのかもしれん」
どろぼうさんはギゾクと呼ばれています。それは、だれも本名を知らないからです。
どろぼうさんは時々博士と話していることがありました。ぼくは会っていませんが、こっそり聞いた会話から、どろぼうさんはギゾクと呼ばれるのをいやがっているようで、ぼくはどろぼうさんと呼ぶことにしています。
「しかし、足の指一本まで拘束された状態でどうやって逃げ出したのかは気になるな。逃げたところを誰も見ていないようだし、奴は液体か軟体動物の一種なのだろう」
「タコやイカですか。美味しそうですね」
「ああ。今度ウチに来たら、タコ野郎とでも呼んでやろう」
どろぼうさんはタコの仲間だったようです。
クロワッサンとタコで食べ物同盟を組めるかもしれません。ちなみに、博士はこの間お酒によっぱらってぼくを食べようとしました。あまいにおいがするらしいです。でも博士もあまいにおいがします。クロワッサンの食べすぎでしょうか。
「おしょうゆを用意しないといけませんね」
「ん……?」
博士にみょうな顔をされました。博士はどろぼうさんのことは食べるつもりでないようです。
もしくは、タコにはポンず派なのかもしれません。
「あぁでも途端に海鮮が食べたくなってきたな。クレセント、お使いを頼んでもいいかい?」
「はい、お使いに行きます。何を買いましょう」
「とにかくタコが食べたいが、あとはサザエと白身魚、カニは……気分じゃないからいいや。お前が気になる魚があったらそれも買っておいで」
魚屋さんまでお買い物です。魚屋さんには3回ほど会ったことがあります。ぼくよりも大きいんじゃないかってくらいの刀で、ぼくよりも大きい魚をあっという間にバラバラにできる人です。
逆らえばぼくもあっという間にバラバラにされそうなので、魚屋さんには従うことにしています。そのおかげか、買い物をするときはたくさんオマケしてくれるのです。
長いものには巻かれるに限ります。
「ところで、どろぼうさんはどうしてつかまっていたのですか?」
「そうだな。色々あるが……一番最初に指名手配された理由は、他人の番を盗んだから、かな」
経過報告112
・タコと醤油があれば無限に呑める。