「やあ、おはようお嬢さん」
目を覚ますと、知らないおじさんにあいさつされました。
あいさつは人生の基本と博士が言っていたので、ぼくも素直に返します。
「おはようございます。ぼくはお嬢さんではありませんよ」
「えぇっ、ほんとか? それは失礼したね、お坊ちゃん」
「お坊ちゃんでもありません。ぼくはクレセントといいます。博士の番です。よろしくお願いします」
「ああ、こりゃどうも、こちらこそよろしくお願いします。まあ、俺は名前がないんだが」
名前がないということは、クレセントでない頃のぼくと同じなのでしょうか。ぼくは名前をもらえてうれしかったので、このおじさんにも名前をあげたいところです。
ぼくは博士の好きなものからクレセントという名前をもらいました。クロワッサンでもよかったのですが、パン屋さんがおこったのです。ぼくなんかがパンと同じ名前を名乗るのは軽率でした。
このおじさんの名前は何がよいでしょう。ぼくはタコが気に入ったので、タコと呼びたいところです。
さて、知らない部屋に知らないタコ。これはもしかすると、
「タコ、これはゆうかいですか?」
「凄いなキミ、俺よりマイペースかもしれない。そうだよ。キミを博士から誘拐したんだ。怖がらせないように拘束とかはしてないんだけど、平気かい」
「いえ、とてもこわいです。あとねむいです。二度ねしてもいいですか」
「ワンダフル、全然怖そうには見えないのに眠そうには見える。どこまでが本当だい?」
二度ねの許可が出ました。博士は許してくれないことが多いので、タコは博士より優しい人です。
すやぁと横になろうとしたら、タコはあわてます。
「ウェイトウェイト! どうして寝ようとする!? ……キミは他人を自分のペースに引きずり込む素質があるね、盗賊稼業の見習いにしたいくらいだ」
「……んぁ、えっと、もしかしてあなたはどろぼうさんですか?」
「どろぼうさん? うーん、まあ、そうだね。俺は泥棒だ。キミを博士から盗んだからね」
なんと。
タコはどろぼうさんだったみたいです。どろぼうさんと博士は友達だと思っていたのですが、どろぼうは友達にどろぼうするのでしょうか。
「でも、盗めてないじゃないですか」
「いや盗んださ」
「盗めてないですよ。だって、ぼくは博士のものですもの。どろぼうさんのものにはなっていませんよ」
「……アメイジング。困ったな、嫌がらせのつもりが本気になりそうだ」
ぼくが当たり前のことを言うと、なぜだかどろぼうさんはおどろいたように目を見開き、感心したとばかりに首をふります。
「でも、博士は冬が終わったのにぼくがいないとねむれないんです。博士が体を悪くしてはいけないので、帰らないと」
「ああ、こんな良い子ちゃんを盗んだのがバレたら殺されそうだ……。仕方ないから、ドッキリは取りやめよう」
「こわがらなくて大丈夫ですよ。悪いことをしたら、ごめんなさいと言えば許してくれます」
「……そうだね。惹かれる理由が分かった気がする。キミは彼女によく似ている」
ぼくはあまり博士におこられたことがありませんが、電話ごしにおこる博士はとても怖いです。
でも、謝ればきっと許してくれると思うのです。
どろぼうさんの作った朝食は、博士の作るものより美味しかったです。
どろぼうさんはどろぼうが下手なのに料理は上手みたいです。
コックさんの方が向いているかもしれません。