ふしぎなことに、今日ははかせよりぼくが先におきました。
どうやら、今日はいそがしくないはかせなようです。
いそがしくないはかせは、いそがしくありません。
はかせはとてもいそがしい人なのですが、いそがしくない時もあるのです。
けれど、ぼくはたくさんお話できるからうれしくても、いそがしくないはかせはふきげんなことが多いので、けっきょくかなしくなります。
「下請けがミスって全キャンセルって、何をどうすればそうなるんだ……」
昼すぎにおきてきたはかせは、ふきげんそうにつぶやきます。
「はかせにも分からないことがあるのですね」
「いや、私に分からないことはない。正しくは、分かりたくないんだ。それを分かってしまうと、私は世界に一切期待せずに生きていかなければならなくなる」
「せかいに、きたい……」
むずかしい話に首をかしげていると、「少し難しかったね」とはかせがほほえんで頭をなでてくれました。うれしかったです。
それでもやっぱりはかせはふきげんなようで、へやをうろうろしたり、れいぞうこに頭を入れてうなったりしていました。
「つらい。つらいつらいつらい。こんな世界やめてやる。誰も彼も、いなくなってしまえばいい」
こういう時のはかせはそっとしておくのがいいです。
ぼくは外に出て、ちょうちょとおいかけっこをしたり、小鳥にぱんをあげたりすることにしました。はかせに言われたとおり、きめられたところから外には出ません。
空は青色と白色と赤色です。
木はみどり色と茶色です。
川や水は青色だとはかせは言いますが、川と空はちがう色だと思います。
どうしてみんな色がちがうのか聞くと、はかせは「好き嫌いさ。嫌いな色だけ食べ残すから、その色に見えるんだ」と言いました。
『お前の髪は白いから、お前は見るものすべてから愛される。お前の瞳は黒いから、お前は見る者すべてを愛することができる』
とも。何を言っているかさっぱりでした。
ぼくはぴーまんがきらいなので、はかせはまちがえたんだと思います。
「おぅい、暗くなってきたから家に入りなさい」
「はい、はかせ」
おちこんでいても、はかせはぼくをよびにきます。
やっぱりはかせはやさしいです。
「はかせ。……せかいは、きれいですね」
はかせのむなもとにとびこんで、赤い空を見て言いました。
はかせはどうしてかおどろいて、ぼくをだきしめました。
「……お前の、その心が私に足りないもので、お前が補ってくれるものだ。お前が番として生きているから私は生きていられる」
「人は足りないものをおぎないあうことで生きていけます」
「そうだ」
「そうなのですか?」
「そうなのだ」
今日も夜ごはんがおいしかったです。
経過報告46
・眠いのでパス。