はじめてのお客様です。なんとパン屋さんです! うれしいです!
はかせはときどき、パン屋さんでやきたてのパンを買ってきます。
いくつかのパンには、ちょうちょやクマのようなかわいい絵がかいてあります。ぼくはそれがすきで、こんな絵をかける人はきっとパンみたいにあったかくてやわらかい人なのだと思いました。
だから、さいしょに会うのはパン屋さんがよかったのです。
「なんでも、訪問販売を始めたんだとか」
「……! ……!!」
「落ち着け落ち着け」
ほーもんはんばい。はかせの言葉は少しむずかしかったのですが、とにかく楽しみなぼくは何度も首をコクコクしました。
「どうも、こんにちは」
「パン屋さん! パン屋さん! すきです!」
「おいおい」
入ってきたのはわかい女の人でした。あったかそうで、やわらかそうで、ぼくの思ったとおりの人でした。
はかせがこまったような声を出していますが、ぼくは気づけません。パン屋さんはぼくの頭をなでて、どれでもすきなパンをえらんでいいよと言ってくれます。
ぼくがすきなのはあまいパンですが、はじめて見るパンもすてきで迷ってしまいます。
はかせはいつものようにクロワッサンです。はかせの体の半分はクロワッサンでできているので、他のものを食べられないそうです。かわいそうですがこれもまたさだめです。
「もう、博士ったらたまには別のパンも食べてくださいな」
「私はクロワッサン以外をパンと認めていないものでな。他はこいつが食べるからいいんだ」
「またそんなことを言って……。ところで、この子の名前はなんと言うのですか?」
「名前……?」
はかせがかたまる。ぼくはパンを選ぶ。
「名前がないんですか!? 今までなんて呼んできたんですか!?」
「……お、お前とか。困らなかったし……」
「馬鹿じゃないですか!? ああ、こんな愛らしいのに名前すら付けてもらえないなんて可哀想に! 博士にはこんないたいけな子任せられません、私が引き取ります!」
「……い、いや流石にそれは困る。分かった分かった。いま付ける。なあ、何がいい?」
そう言って、はかせはぼくを見ました。パン屋さんの大声になきそうになっていたぼくは、何がいいかと聞かれてもこまってしまいます。
「はかせの一番すきなものがいいです」
「それじゃあクロワッサンだな」
「はい! ぼくはクロワッサンです!」
ニッコリとえがおをうかべたぼくとはかせを、パン屋さんがしかります。
「馬鹿じゃないですか!?」
「ひぃっ……」
「……あっ、う、ぁ、ご、ごめんね? 驚かせるつもりはなかったのよ?」
パン屋さん、こわいです。はかせの後ろにかくれましょう。
「でも、食べ物の名前をそのままつけるなんて、あんまりですよ」
「……そうかぁ。今まで名付けたものなんて、新種の化合物くらいだからどうにもな。では、同じ意味の言葉でクレセントはどうだろうか」
「それなら、珍しい名前ですが問題ないと思いますよ」
はかせがぼくの頭をなでながら「よし、じゃあお前はクレセントだ」とうれしそうに言いました。ぼくもはかせに名前をつけてもらえたのがうれしくて、ぎゅっとだきつきます。
くれせんと。くれせんと、くれせんと、クレセント。
ぼくの名前はクレセントだ。……ふふっ。