「あなた、私のものになりなさい」
「いやです」
「あら、私はこの国の姫よ?」
今日も、はかせでない人に会いました。
ひめさま、といいます。
「こら、馬鹿を言うな、この子は私の番だ。それにお前は
「番としてでなく、所有物として欲しいのよ。こんな可愛らしい子、毎日愛でたって飽きないわ!」
「おい騎士! どうにかしろこのワガママ!」
「では、話し合いはお二人に任せて、我々は外に出ております」
そう言って、もうひとりの新しい人、きしはぼくを外につれ出しました。
きしはかたい服を着ています。よろい、と言うらしいです。
「きしは、かっこいいですね」
「恐縮です」
とっても落ち着いていて、力持ちで、すばやく動く。
ひめさまのことを大事に思っていて、けれどまわりの人にも気をつかえる。
とてもかっこいい。
「ぼく、きしのことがすきだと思います」
「……光栄です。ですがその言葉は、いつか現れる素敵な御仁のためにお取り置きになるのがよろしいかと」
「……? どうしてですか?」
すきなものや、すきな人にはそう思った時にすきだと言えばいいと思います。
きしの言うことはへんでした。
「どうして……と。そうですね、初恋というのは大切なものです。取っておくことで、いざ『その時』が来た時に役に立ちます」
「はつこい?」
はつこいとはなんぞや。
きしはへんなことを言うから話していておもしろいです。
「はつこいは、分かりませんが、ぼくはすきな人にはすきだと言いたいのです。ぼくははかせも、パン屋さんも、ボスもきしもみんなすきなのです」
すると、きしのよろいの中から「あっ」という音が小さく聞こえました。
「……申し訳ありません、私の勘違いでした。どうか、いま言ったことはお忘れください」
「ふふ、きしはやっぱりおもしろいからすきです!」
「……光栄です」
はかせじゃない人とお話するのもとても楽しいことです。
それでも、はかせと話す時間がへって少し悲しいのですけれど。
「ねえ、いまの見たかしら博士」
「ああ、勿論見たとも姫様」
家からはかせとひめさまが出てきました。
二人ともニコニコわらっていて、ぼくもうれしくなってはかせにだきつきます。
「はかせ! きしはとてもおもしろい人なんですよ!」
「そうだな。
「ねえ騎士。私、あなたが私の番で本当に良かったと思っているわ!」
きしがほめられて、ぼくは自分のことのようにうれしくなりました。
みんなが楽しそうにわらっています。きしもわらうのをひっしにこらえているのか、よろいがカタカタとゆれています。
「姫様、どうかご容赦を……!」
悪いことをしたわけでもないのにあやまるきしは、やっぱりへんで、おもしろかったです。
経過報告66
・対象は実に皮肉の効いたギャグを覚えたようである。今後の私の腹がよじれきってしまわないかという心配を除けば、経過は順調である。