はかせはさいきんつかれぎみです。
あまり外に出たがりませんし、ねむる時間も少し前より長くなったようです。
「おぅい、クレセント。こっちに来い」
「はい、はかせ」
ぼくの名前はクレセントです。
名前をよばれたので、てててっとはかせのところへ近づきます。
「うぅ寒い寒い。こう寒いと疲れもすぐ溜まるし、夜は
「お役に立ててこうえいです」
「難しい言葉を知っているじゃないか。騎士から学んだのか、偉いな」
はかせはぼくをあしの間において、ぎゅうとだきしめます。こうされると、温かくてねむくなります。
ほめられて頭もなでられると、体の内がわも温かくなります。こうされると、ねむくはなりませんが、もっとはかせの役に立ちたいと思います。
寒いのは、はかせはつかれてしまいますが、たくさんだきしめてくれるのでぼくはすきです。
人は足りないものをおぎないあうことで生きていけます。
ぼくは、はかせの温かさをおぎなっています。ですが、他のことは全部はかせがおぎなっているように思います。
ぼくは足りないものばかりですが、はかせは何でも持っているのです。
「クレセント。どうして世界には、私とお前以外の人間がいるか分かるか」
「どういうことでしょうか?」
「神が、番以外の存在を人に与え給うた理由だ」
はかせはむずかしい話がすきです。
ぼくも話したいのですが、ぼくはむずかしい話が分からないので、もっとかしこくなりたいです。
「ぼくは、はかせも、パン屋さんも、ボスもきしもすきです」
「そうだ。それで十分なんだ。それを奴らは、その先にはロクな結末がないというのに、全く度し難い」
「やつら、とはどなたでしょう」
「たとえば、……あー、そうだな。世の中には欲張りが多いということだ」
やっぱり、はかせの話はぼくには少しむずかしすぎるようです。
いつか、はかせと語らうことはできるのでしょうか。
「はかせ。もっとはかせの役に立ちたいと思うのは、よくばりでしょうか?」
「ああ、欲張りだな。お前は十分私の役に立っている」
「いけないことですか?」
「……いや、嬉しいよ。そうだな、ではもっと役に立ってもらえるよう、新しい文字をいくつか教えよう」
そう言って、はかせはまっ白な紙にいくつかの文字を書きつけます。
はかせの書く文字はなめらかで、しなやかで、とてもきれいで、はかせが生み出すそれらを、ずっとながめていることができました。
経過報告70
・寒いからパス。