はかせとぼく   作:Tena

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老君には従者を



7. おばあちゃんとめいど

「……ええ、……はい、ありがとうございます、よろしくお願いします」

 

 博士が電話でだれかとお話しています。

 博士の声がふんわりとしている時は、話している相手はかぎられます。今はきっと、「先生」と話しているのでしょう。

 先生には会ったことがありませんが、博士となかよしらしく、いくつか話を聞いています。

 

「クレセント。クレセント! いるかい!」

「……下です。博士、下」

「下? ……あぁ」

 

 ぼくをおなかにかかえておきながら、博士は大きな声でぼくをよびます。

 最近はいつもこうしているので、博士もついわすれてしまったのでしょう。

 それでも少し悲しくて、博士に顔をすりよせて「わすれちゃだめですよぅ」とおこってみせました。

 

「いや、すまない。眼鏡と同じだよ。一緒にいるのが当たり前になると、体の一部みたいに、側にあることを意識しなくなってしまうんだ」

「めがねじゃなくてクレセントですが……」

「ああ、そうだな。私の一番大切なクレセントだ」

 

 博士がふわりと笑います。体がぽかぽかぽわぽわしてきます。博士の体に顔をぐりぐりおしつけました。

 

「ところで、どうしてぼくをよんだのでしょうか?」

「ああ、それなんだがね、しばらく私が出掛けるから、先生のところで預かってもらおうと思って」

「いっしょにお出かけではいけないのでしょうか?」

「少し遠いんだ。三日くらいかな。先生のところなら、安心して預けられる」

「……分かりました」

 

 ぼくがまだ小さいから、博士といっしょに行けないのでしょう。

 はやく大きくなりたいと思いました。少しでも博士の役に立ちたいのです。

 とにかく今は、博士の言う通り先生にあずかってもらうのがよいのでしょう。博士の言うことはだいたい正しいです。

 

「では、よろしくお願いします」

「ええ。あなたも気を付けるのよ」

 

 後日、博士につれられて、ぼくは知らない家の前にいました。

 博士と話しているおばあちゃんが先生でしょうか。

 

「おばあちゃんが先生なのですか?」

「ええ、そうよ。でも、先生じゃなくておばあちゃんと呼んでいいわ」

「はい、おばあちゃん!」

 

 たしかに、おばあちゃんは博士の先生であって、ぼくの先生ではありません。ぼくに色んなことを教えてくれるのは博士で、だから、博士がぼくの先生で、ぼくの先生の博士の先生は先生じゃなくておばあちゃんなのです。

 ……? ちょっとよく分からなくなってきました。とにかく、おばあちゃんはおばあちゃんです。

 

「働かざる者、食うべからずだよ」

「働かざる者、食うべからずです」

「そうさ」

「そうなんですか?」

「そうなんだよ」

 

 おばあちゃんはいたずらっぽい笑みをうかべて、ぼくに家事を手伝ってほしいと言いました。

 ぼくは博士の手伝いができるようになりたかったので、おばあちゃんに教えてもらえるのはうれしいことです。

 よろしくお願いします、と言うと、黒と白の服をわたされ、これを着て家事をするといいと言われました。

 

 メイド服、という名前だそうです。

 そして、この服を着てお手伝いをする人をメイドとよぶらしいです。

 ぼくは、三日間メイドになることになりました。

 

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