異世界転生先で美少女になった俺が幼馴染と出来ていい筈がない!   作:主(ぬし)

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 ツイッターで投稿したアイデアが思った以上に好評でしたので、3日掛けて清書しました。ハイテンション系の小説は書いてて楽しいです。何も考えなくていいので。
 素敵なタイトルはフォロワーの亀次郎さんが考えてくださいました。感謝です!


前編

 鬱蒼とした夜の森に、なんの前触れもなく、光とともに一対の男女が出現した。どちらもまだ若く、二十歳にもなっていなかった。学生服を着ていて、明らかに日本の高校生のそれだった。

 片方の男は、それはたいそうな美男子だった。中性的な美少年ではなく、古風な感性を匂わせる、いかにも男らしい男子だ。力強く引き締まった顔つきは黒々とした短髪がよく似合う。背が高いために一見すると優男のように見えるが、学生服の下に潜む頑健とした骨格と筋肉質な肉体は実にたくましい。スポーツで日に焼けた肌は適度に浅黒く、節くれだった指には己を鍛えることを怠らない強い根性の片鱗が垣間見える。

 一方の女は、これもまたどこに出しても恥ずかしくない美少女だった。ダブダブの男子用学生服に身を包んだ美少女は、しかしその奇妙な格好すら自然なものに魅せるだけの美を具えていた。満月の輝きを蓄えたかのような黄金色の長髪が滝のように腰まで伸びている。南洋の海のような深みのあるターコイズブルーの瞳は玉虫色のかすかな煌めきを秘めていて、覗き込めば思わず吸いこまれそうな錯覚を覚える。しなやかな曲線を描く肉体は完璧な黄金比を描き、特に長い脚がひと目を引く。下品にならない程度に豊かな肉付きは熟成直前の果実のようだ。子猫のような愛らしさと雌豹のような凛々しさ、幼さと妖艶さの間にある極限のバランスの上に成り立つ究極の美を体現している。

 さて、この二人は、足元に広がる魔法陣の発光が消えるに連れて、自失から立ち直ったようだった。後に残ったのは軽やかな虫の音色と月明かりだけ。男女はそれぞれ自分の身に起きたことを確認してひとしきり目を見張ると、お互いの顔を見つめ───唐突に、少女が逃げだした。脱兎の如くとはまさにこのことだった。人間離れした脚力でもって、驚いて制止の声を上げた少年を置き去りにして、夜闇に金色の弧を引きながら少女は姿を消した。

 後に残されたのは、フクロウたちが見下ろすなか、虚空に向かって手を伸ばしたまま呆然とする、寂しげな少年の背中だった。

 

 

 

 

 冗談じゃない!あのままではメス堕ちさせられることは必至だ!

 オレは足を高速回転させながら夜の森をダッシュしていた。どうしてかはわからないが、何が起こったかはわかる。これは“異世界召喚”というやつだ。しかもTS要素まで加わってる。最近そんな漫画を読んだばかりだ。『異世界美少女受肉なんちゃらかんちゃら』という漫画だ。男女が唐突に異世界に召喚されて、片方は美少女になってしまうというやつだ。まさか、それがオレとアイツの身に実際に降りかかることになるなんて!

 思えば、たしかにオレたちの境遇と漫画には重なる点があった。幼なじみのアイツは昔から文武両道の完璧超人イケメン。一方のオレはオタク趣味で平均オブ平均なド平凡野郎。まったく違うオレたちは、何が通じ合ったのか、腐れ縁でなぜかいつも一緒にいた。なんてことだ、TS異世界召喚にうってつけな属性じゃないか!

 お互いの身に起こったことを理解して視線を交差させた瞬間、オレの脳は人生始まって以来のフル回転をし、「これは強制的にヒロインにされる流れだ」と結論を下した。TSを題材にした作品はどストライクに好きだが、自分がTSしたいわけじゃない。ましてや相手がアイツだなんて!

 こういう異世界召喚モノでは、「ステータス」と口にするか頭に思い浮かべるかすればステータス画面が空中に浮かぶと相場は決まってる。念じてみれば予想通りステータス画面が目の前に表示された。アイツの反応を見るに、どうやら自分にしか見えないものらしい。召喚ボーナスなのか、各アビリティに割り触れるポイントが1万もあった。さっそくそれを『速度(スピード)』に全投入すると、弾丸みたいな加速でオレはその場を後にしたのだ。

 はるか後方からアイツが「なんで」と声を上げている。なんでもクソもあるか!お前がオレの貞操を奪わんとするからに決まってるだろうが!ふざけるな、童貞ヤリチン野郎め!親友までも毒牙にかけようだなんて見損なったぞ!勝手に勇者にでもなってハーレムでもなんでも作ってろ!バーカバーカ!

 

 

 

 

 

 半年後、遠く離れた街のギルドにて。

 

 やあ、オレだ。召喚して早々に親友だと思っていた男からの貞操の危機を迎えたものの華麗に切り抜けた美少女TSっ娘のオレだ。

 なんだかんだあって、オレはこの地方ギルドの受付嬢としてそれなりに良い生活をしている。商業区の真っ只中という便利な部屋を借りて、受付嬢というとてもやり甲斐のある仕事に打ち込んでいる。

 あの後、何十キロ、もしかしたら何百キロも走っただろうか。ほうほうの体でこの小さな街に辿り着いたときはどうすればいいのかと思ったが、異世界召喚モノでは大抵の場合、ギルドに行けばなんとかなる。そして実際、なんとかなった。雇ってもらえたのだ。それから、コンビニバイトで培った営業スマイルと、店長に褒められた接客&商品管理、そしてなによりこの超!絶!的!美少女の外見によってメキメキと頭角を現し、今に至る。前任の受付の禿げかけたオッサン───実はギルド長が受付を兼任していた───からバトンタッチしたオレが受付嬢を始めてからというもの、このギルドの人気は鰻登りで、少し名の売れた冒険者も訪れるほどに成長した。町長からも感謝状を貰えたりと、人生でチヤホヤされたことのないオレにとってはこの上なく素晴らしい日々を送っている。

 

「そういえば、噂を聞いたかい?」

 

 新しく入荷したポーションの瓶を商品棚に陳列していると、後ろから禿げかけたオッサン(ギルド長)が覇気のないいつも通りの声で話しかけてきた。オレはいつものように声のトーンをあげてコロコロした美少女ボイスで「なんの噂です?」と尋ね返す。

 

「先日、王都からやってきた商人に聞いたんだけどさ、数百年ぶりに“勇者”が現れたらしいよ。選ばれし者にしか抜けない聖剣を見事に引き抜いて、王様から正式に勇者と認められて、強いパーティーメンバーと組んで、魔王を倒すために街から街を旅しているそうだ。凄いよねえ」

 

 勇者。その言葉に、「そういえばここはファンタジー世界だったな」とあらためて気付かされた。チヤホヤされる充実した毎日のおかげですっかり忘れてしまっていた。自分でも不思議なくらいに現代日本へのホームシックが起きないのもそのせいだろう。聖剣やら魔王やら、なんともオーソドックスなものだ。捻りがないし、目新しさがない。

 

「そうなんですか」

「あれ、あんまり興味なさそうだね。女の子ってだいたい勇者様の英雄譚に憧れるものだと思ってたよ」

「だって、世界を救う勇者様がこんな田舎の零細ギルドに来るはずないじゃないですか。ギルド長、2ヶ月前までこのギルドで一番良い商品ってなんだったか覚えてます?」

「薬草」

「ほら。絶対来ないですって。このギルドで扱ってたクエストで、今までで一番難しいクエストは?」

「スライム3匹の駆除」

「ほらあ」

「やめてよ、傷つくでしょうが。ギルド長は僕なんだからさぁ」

 

 と言われても事実なんだから仕方がない。別にこのギルドが悪いわけじゃない。世界を救う勇者様が求めるような高ランクのアイテムもなければ、重要で高難易度なクエストもない。交通の要所でもないし、なにかの産地でもない。近くに攻略しないといけない魔王の四天王もいないし、魔族の重要拠点もないし、古代遺跡といったランドマーク的なものもない。とにかく、ど田舎なのだ。

 埃にまみれてゴチャゴチャになっていた商品をキレイに陳列し直した商品棚に指を滑らせる。うん、今日もチリ一つなくピカピカだ。

 ど田舎だろうと関係ない。ここはオレがチヤホヤしてもらえる安住の地。思い返せば、現代日本ではオレは完璧超人(アイツ)のオマケでしかなかった。どこに行っても目立つのはアイツだった。でもここは違う。ここではオレは美少女として皆からアイドルみたいな扱いを受けられる。まさにキラキラした日々だ。ラウンドワンもスマホもニンテンドースイッチもないし、漫画や音楽といった娯楽もない。けど、ひげも生えてない13歳くらいの男の子から耳を真っ赤にしながらめちゃくちゃ遠回しな告白をされて、それをさりげなく断って涙目になる姿を内心ゾクゾクしながら見たりと、現代日本の時とは違った甘酸っぱい楽しみには事欠かない。我ながらいい性格をしているものだが楽しいのだから仕方がない。

 それに、オレは素材がいいから、ちょっと化粧を覚えて実践したらどんどん可愛くなる。口紅一つで加速度的に可愛くなり、グラフ線は一気に上昇して天井にぶち当たる。シャレた服を着たりなんかしたら、もはや可愛さは天井知らずの限界突破だ。道行く男たちから花のプレゼントを貰ったりして、ギルドに出勤する頃には花束が出来上がってる。やれやれ、人気者は辛いぜ!

 

「おーい、可愛い受付の姉ちゃん。クエストの依頼の受付、まだかよー」

「あっ、すみませ〜ん!今行きますね!」

 

 他人から可愛いと言われるとニヤニヤが止まらない。振り返れば、もう朝の九時だ。クエストの受付開始時間が来た。

 カウンターの方に顔を向けてみれば、冒険者たちが受付の前に行列を作って待っていた。どいつもこいつも男ばかりの見慣れた顔がオレを見つめている。列の真ん中くらいにやけに背の高い奴が見えるが、最近は新顔が来るのも珍しくない。

 オレはフリフリのエプロンを外すと、パタパタと少しだけ早足になってカウンターの内側へ行き、デスクの引き出しから羊皮紙の束を取り出す。この世界では現代みたいにキレイな紙はめったに手に入らない。羊皮紙も値段は高いが、記録を残すことは大事だとギルド長の残り少ない髪を力任せに引っ張りながら丁寧かつ真摯に訴えたことで導入してもらった。羊皮紙はインク滲みもしにくいし、なにより簡単には破れないくらい丈夫という利点があるからだ。その結果、ギルドの運営効率は遥かに良くなったし、ギルドへの信頼も上がった。そしてオレの給料も上がった。

 

「はい、今日のクエスト受付を始めま~す!皆さん、お行儀よく整列していただけて、私とっても嬉しいです!」

「へへへ、受け付けの姉ちゃんに一番に会うために朝の5時から並んだんだぜ。有料整理券まで買ってさあ。なんかご褒美があってもいいんじゃねえの?夜のベッドを共にするとかさあ」

「まあ嬉しい!そんな優しい貴方には難易度マックスのゴブリン50匹討伐クエストをプレゼントしちゃいま~す!さあ行きなさいとっとと速く!ゲラァウッ!!」

「まーたゴブリンのスレイヤーになれってか。簡単に身体を許さねえそういうクールな対応がグッとくるんだよなぁ。そこに痺れる、憧れるぅ」

 

 鎧兜を装着したまま脱ごうとしない銀等級(シルバークラス)の男はいつものように得意なゴブリン討伐クエストへと出かけていく。誘い方がしつこくてウザったいから実入りの少ないゴブリン退治ばっかり押し付けていたら、いつのまにかゴブリン退治の専門家として名を挙げるようになった。今では有名冒険者だ。知らんけど。

 手際よく列をさばいていく間にも、オレの全身に男たちの熱っぽい視線が集まっている気配が伝わってくる。現代日本で言えば、「アイドル美少女と目の前で話せる」みたいなものだろう。握手会とかそういうのだ。そうなると、離れた街からも男たちが我先にとギルドにやってくるのは当然の話だ。必要もないのにポーションを買ってくれたり依頼をだしてくれたりクエストを達成してくれたりして、商品とクエストの回転率は毎月のように過去最高値の更新をしている。そしてその度にオレのお給料の値上げ交渉はギルド長の髪を引っ張りながら進んでいる。

 美少女とは実に素晴らしいものだ。まるで世界がオレ中心に回っているような感覚に下っ腹が熱くなる。いや、まさに世界はオレを中心に回っているに違いない!ビバ、新しい人生!ビバ、美少女人生!この世界に来て美少女になってよかった!

 

「はい、次の方どうぞ〜!」

「よう、久しぶりだな」

 

オレは羊皮紙を引きちぎった。




親友同士の友情がこじれていくのって、すごく愉悦。今、日間ランキングで常に最上位を争っている『聖剣を抜いた親友と、抜けなかった俺』を読むと本当にそう思います。今回の僕の小説も実は少し影響を受けてます。「親友同士のすれ違いっていいよね」と言いたかった。しかし、あの作品はすごく良い。破滅的なエンディングが待ち遠しいなあ(ゲス顔)
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