異世界転生先で美少女になった俺が幼馴染と出来ていい筈がない!   作:主(ぬし)

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『よくわからないけれど異世界に転生していたようです』。あの漫画はとても良い。絵柄が好き。元オッサンの巨乳美少女のチート魔術師とかもうロマンの塊だよね。


後編

「ど、ど、どうっどうっどうっどぅおろろっ」

「7代目フォードマスタングみたいな声だしやがって、落ち着け」

「ど、どうしてここが」

「当てずっぽうでとにかく探しまくった」

 

 とにかく探しまくった?この半年間ずっと?

 声に出さなかった疑問に、目の前の完璧超人は重々しく頷いて肯定する。遠くを見るような感慨深げな眼差しが、色々なことを経てここに立っていることを雄弁と物語っている。

 半年間見ていなかった親友は、見違えるような格好になっていた。輝く鉄の鎧を軽々と装着し、背中にはきらびやかな大剣を背負っている。剣の存在感がハンパない。その剣に負けないくらいの存在感を放つ親友もやばい。

 

「あれは勇者様一行じゃないか!?」

「あの可愛い受付嬢と知り合いなのか。ちくしょう、いい女ばっかりはべらせやがって」

 

 ざわめく周囲をよそに、オレの頭からは滝のような汗がドウドウと流れ落ちていく。目の前の男は、風雨に晒されて顔つきが多少厳しくなってはいるものの、持って生まれた気品は少しも損なわれていなかった。相変わらずの整った顔立ちが眉根を寄せてジロリとオレを見下ろしている。以前より迫力を感じるのは、コイツが強くなったからか、オレの背が低くなったからか。というか、勇者様一行ってマジかよ。本当に勇者になったのかコイツ。どこまで完璧超人なんだ。

 

「この小娘が、アンタが探してた“異世界から一緒に来た友だち”?ふ〜ん、顔はいいわね、顔は」

「この娘が、神々が遣わした“勇者の片割れ”というわけですか。たしかに顔だけは良いですわねぇ」

 

 冒険を経て仲間になったらしい美少女二人がオレに向かって威嚇の気配を隠さずに睨んでくる。スレンダーだけどスタイル抜群の剣士と、厚いローブの上からでも巨乳がわかる白魔法使い。ちくしょう、こっちの世界に来てもお前は無意識にハーレムを築いてるのか。うらやましい。いや、悔しい。いや!やっぱりうらやましい!!

 

「何が羨ましいんだ。この半年間、こんなふざけた世界にたった一人でどれだけ苦労したことか」

「な、なぜ考えていることを」

「何年来の付き合いだと思ってるんだ。お前が考えてることくらいお見通しだ」

 

 険しく細められたその目が「なんで逃げたんだ」と咎めてくる。ここに来るまで何度も修羅場を潜り抜けてきたのか、現代日本の時にも増してもの凄い迫力だ。

 

「あの受付嬢は勇者の元カノか」

「さぞやこじれた関係なんだろう」

「こんなクソど田舎の辺境のしみったれた零細ギルドにあんな器量の良い娘がいるなんておかしいと思ったんだ」

「ギルド長の僕が隣にいるのによくそんなこと言えるね」

 

 周囲ではオレたちの会話からおかしな想像を膨らませたらしい野次馬たちの会話がヒソヒソと聞こえてくる。勇者様の咎める視線はなおも強くなり、剣士と白魔法使いの険悪な気配もジワジワと膨らんでいく。誰も助けに入ってくれる様子はない。ギルド長にSOSの目を向けたが、このオッサンに勇者一行に横槍を入れる度胸があるはずもなく、露骨に目を逸らした。あとで毛をひっこ抜いてやる。他の奴らも同様だ。おのれ意気地なしのファンどもめ~!自分でなんとかするしかないのか!

 

「ほ、他の冒険者さんの迷惑になるので、よろしければ別室にどうぞ~」

「……わかった」

 

 片頬をヒクヒクと震わせながらも平静を取り繕ってギルドの応接間に促す。育ちがいいコイツは、憮然とした表情をしながらも素直に部屋に入っていった。その後を二人の美少女が続いていく。二人してオレにあからさまに肩をぶつけていく。オレがなにをしたっていうんだ。ただ己の貞操を守っただけだというのに、なぜ初対面の美少女に辛辣な対応をされなければならないんだ。それもこれも全部アイツのせいだ。

 

「ねえ、ちょっと、このギルドは客にお茶も出さないわけ?」

「いくら昔から懇意にされていたとはいえ、世界を救う勇者様に対して失礼ですわ」

「しょ、少々お待ちください。ギルド長が王都から仕入れた一級品の茶葉をお持ちしますので〜」

「嘘でしょ、アレは僕の部屋の金庫に入れてる秘密の茶葉なのになんで知ってるの君ぃ痛ァいっ!?なんで髪を!?」

 

 勇者一行に深々と一礼して部屋を辞しつつ、ギルド長の残り少ない髪の毛を力づくで引っこ抜く。潔くハゲになりやがれ。

 ああ、ついに見つかってしまったか。これも神の定めとでもいうのか。オレをこの世界に転生させた神様は、メス堕ちを望んでいるというのか。そんなにバ美肉男子がほだされていくところを見たいのか。そうか。神様がその気なら仕方ない。ここは腹をくくって、

 

「ステータスッッ!!」

 

 オレはステータス画面を空中に表示し、迷うことなく全ての経験値を脚力アビリティに叩き込む。そしてカウンターの下の隠し跳ね上げ扉を開け放ち、あらかじめ用意していた逃走用バッグを握りしめると、いつぞやの如く再び脱兎の如く駆け出した。

 

「逃げるんだよォ!スモーキ───!どけーッ!ヤジ馬どもーッ!!」

「わあ〜ッ!!なんだこの受付嬢ーッ」

 

 うるせー!こちとら貞操のピンチなんだ!半年間ずっとオレを探しまくってただって!?それはもう好きってことじゃん!狙ってるってことじゃん!一目惚れしたってことじゃんもう!!TS漫画を読んだことのあるオレにはわかる!絶対そうだ!オレにはわかるんだ!親友のハーレムの仲間入りなんてさせられてたまるかってんだ!!

 この世界の人間の域を超えた脚力で、オレは文字通り風となって王国を遥か南へと走った。目指すは、絶対にアイツに見つからない場所だ。今度こそ、オレはアイツの金魚のフンという立場から脱して、キラキラしたアイドル主人公人生を謳歌するんだ!!!

 

 

 

 

「……来ないわね、あの受付嬢」

「……来ませんわね」

「……………あのヤロウ………」

 

 受付嬢が逃げたことを察して殺気すら纏い出した勇者パーティーの前に、たった一人で座らせられているギルド長は、ストレスで残り最後の髪がサラサラと抜け落ちていっていることにすら気が付けなかった。

 

 

 

 

 

 数カ月後。

 

「あ、あの、クエストの達成、おめでとうございます」

「あんがとよ。メガネの可愛い受付嬢ちゃん。アンタ、新顔なのに手際がいいな」

「いえいえ、私なんかまだまだです。先輩たちがていねいに教えてくれるおかげですよぉ」

「しかも謙虚だ。いいねえ、近頃の若者とは思えねえよ。でも、もうちょっと自分に自信をもってもいいと思うぜ?」

「あ、ありがとうございますぅ……!」

「へへっ、いいってことよ!じゃあ、また来るぜ!俺の担当、これからもよろしくな!」

「はいっ!オジサマ、お気をつけて~!」

 

 そう言って背中を魅せるワイルドなイケオジに、気弱そうなメガネ美少女はペコリと頭を下げて見送る。美少女と言えばオレ。オレと言えば美少女。そう、つまり、オレである。

 オレは南方の大きな港町のギルドで受付嬢をしていた。今度はメガネで変装をして、髪の毛も茶色に染めて、髪型もツインテールに変えている。ついでに性格もガラリと変えて、ブカブカの萌え袖が似合う内気そうなメガネ美少女を演じることにした。こうすれば、オレを探し出すことは不可能だ。しかも、今度のギルドはかなり規模が大きくて受付嬢も大勢所属している。オレほどじゃないが美人も多い。木を隠すには森の中とは昔の人が言った言葉である。まあ、オレほどの大木を隠せる森なんて存在しないんだが?

 ちなみに、魔王城があるのは北も北、王国の最北端に位置しているらしい。だから、アイツが勇者でいる以上、ここには来ないというわけだ。今度こそ、オレはアイドル的存在となって、この立身出世物語の主役となる。美人が集う受付嬢たちがしのぎを削る受付嬢人気投票で一位をとってみせる。オレはすっかり安心して、今日も素敵スマイルで冒険者の列をさばいていく。

 

「は~い、次の方、どうぞ~」

「よう、また会ったな」

 

オレのメガネに派手な亀裂が走った。

 

 

「どぅおっ、どぅおっ、どぅおおおろろっっ!?」

「2008年式ダッジチャレンジャーみたいな声だしやがって」

「どどどどうしてここが」

「馬鹿みたいな速さで突っ走る女幽霊の噂を辿って来た」

「へ、変装してるのに」

「お前、茶髪ツインテールのメガネ美少女が好きだって言ってたろ。そのまんまだぞ」

 

 迂闊だった。オレは無意識に自分の理想の美少女へ近づこうとし、その理想像はかつてコイツに熱く語っていたのだ。

 親友は、数ヶ月の間にまたもや修羅場をくぐり抜けたのか、鎧はグレードアップしているし、以前より数段上の強者の雰囲気を発露してジロリと凄んでくる。

 

「まさかあれは勇者様では!どうしてこんなところに!?」

「きゃあカッコいい!勇者様よ!凛々しいお顔をしてらっしゃるわ!」

「新人のメガネの受付嬢と知り合いらしいぞ、どんな関係なんだ?」

 

 興奮に沸き立つ周囲をよそに、オレたちの間には言いようのない緊張した空気が満ちていく。ふと見れば、親友が背中に侍らせる美少女は2人から4人に増えていた。そして4人ともオレを警戒の目で睨んできている。そのなかの一人は、気弱そうなメガネのツインテールだった。キャラクター設定が完全に被ってるじゃないか。こ、この絶倫野郎め。ハーレムに特徴が重複する美少女を二人も囲おうなんざ、傲慢にも程があるぞ。ハーレムを作るにしたってそれぞれ違う女の子にするべきだろうが。何もわかってない奴だ。そんな奴のハーレムになんざ入ってたまるか!

 

「べ、別室へ」

「そう言って前は逃げただろ。今度は一緒に来てもらうぞ。人の話を最後まで聞け」

「……は、はい……」

 

 親友に手を握られたオレはそのままギルドの応接間へと引きずられていく。その間にも美少女4人の茨のような鋭い視線を全身に浴びて、オレの胃は絞られる雑巾のようになってキリキリしていた。魔王をほったらかしにしてまでオレを探しに来たってことは、それはもう絶対に狙ってるってことじゃん。オレが欲しくて仕方がないってことじゃん。このままコイツの手篭めにされるのか。応接間に連れ込まれた途端に5人プレイの始まりなのか。この4人の美少女となら濡れ場も全然オッケーなんだけど親友が交じるのは断固拒否する。ああ、でももう抵抗できそうにない。諦めるしかないのか………。

 

 

 

 突如、ギルド二階の応接間の窓が内側から弾け割れ、メガネ美少女がツインテールを振り乱しながら飛び出してきた。美少女は勢いを殺さぬままに大地で一回転すると俊敏な動作で立ち上がり、三度(みたび)、脱兎の如く逃走を開始する。

 

 最後のガラスをぶち破れ!見慣れた景色を蹴りだして!このあとはジャスラックが怖いから歌わない!異世界でもジャスラックを恐れないといけないなんて世知辛い話だぜ!たとえジャスラックには屈しようとも、親友の毒牙には屈しない!オレは逃げる!貞操を守るために、オレは逃げて逃げて逃げ続けてやる!!

 

 まさに神速と呼ぶべきスピードで瞬く間に豆粒ほどの大きさになっていく親友の姿を見送りながら、勇者は割られた窓枠に手を置いて何度目かわからない大きなため息を吐き落とした。

 

「うっわ、なによあの娘。悪魔ベルゼーブブより速いんじゃない?どんなステータスしてんのよ」

「あの、勇者様。先に言えばよかったんじゃないですか、“魔王を倒すには異世界からの転生者二人が揃わないといけないから一緒に来てくれ”って」

「……次は気をつける」

 

 自意識過剰な勘違いをしたTSっ娘と、苦労人の親友の大陸全土を股にかけた追いかけっこはしばらく続いた。




※なお、主人公はこのあとちゃっかりハーレムの仲間入りを果たした。
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