その男の異様さは瞬く間に村中に響き渡り、どんなに鈍感な人間でも”鉄兜”の男を知っていた。
筋骨隆々を体現したかのようなその巨体は全身を緑色の見るからに丈夫そうだが不格好な深緑の服装で覆われ、顔も異様なガラスとゴムで出来たお面を被り、顔どころ表情すら判別不能であった。
担いでる背嚢はぎっしりものが詰まっているように見え、外側もスコップや寝具、水筒といった普段から野外での生活をしていることがうかがえるものを背負っており勘のいい人間はその男が兵士だと気づいた。
しかし、明らかにこの国の人間ではない。それは明らかであった
だが、誰もその事実に触れ、話しかけようとは思わなかった。
その男は見かけにはよらず非常に流暢だが、訛りのある日本語の標準語を話し、金をたんまりつめてある袋を宿の小娘に放り投げ、部屋をあてがってもらった。
「お客様、お食事のほうはどうなさいますか?」
「大丈夫だ、必要ない」
その男は金払いのいい男であったが非常に淡白であった。誰とも話そうとせず食事も取らずに部屋に引きこもり、鉄と鉄がぶつかりあう音が時折ふすまの隙間から聞こえるばかりで、外の人間には皆目彼が何をやっているか検討すらつかなかった。
「母さん、あの客なんなのよ。飯一粒も手をつけないし、お風呂が沸いてるて言ってもふすまを開けてすらくれないし気味が悪いわ」
「しいっ!バカ娘が余計なことを言うんじゃないよ!天狗みたいな格好をしてるけど銭払いはいいんだ、とって食うような男じゃないしせいぜい搾り取れるだけ搾り取っておけばいいのさっ」
宿屋の娘はその男の薄気味悪い気配に警戒心を示しつつも、日々の生活を支える銭のためにこの厄介な客を受け入れざる得なかった。むしろこの男は特に何か騒ぎを起こすわけでもなく、鉄の擦れる音以外は静かなものだったし、宿としてはむしろ好都合な存在だった。
しかし、事態が急変したのは深夜の時だった。
好奇心に押された宿屋の娘は思わず部屋を間違ったフリをして珍客の襖を開けた。
ふすまと木目がこすれる音とともに娘は背中に無数の銃槍や刃物による擦り傷、その上には透き通るような金色の髪の毛と青い目がついていた半裸のゲルマン人があぐらをかいて何か作業をしている最中であった。
口に異様に長く反っている犬歯を伸ばしながら。
「あ、すみません、あの」
娘は自分の愚かな行いに悔いる隙もなく、意識を失い気絶した。
「クソッタレが、危うくぶっ殺すところだったぜ」
ヘルマン・マイヤー
それがこの元バイエルン第四歩兵連隊に所属していた人間”だった”頃の男名前だ