8話、始まります。
真夜中、フローズン邸は不気味な程ひどく静まり返っていた。
そして更に不気味なのは、邸内に一人分しか気配や魔力を感じないこと。(この魔力からして『チベット・フローズン』で間違いないだろう)
「流石におかしい…」
廊下にある棚の影に隠れ、様子を窺う。
今宵は満月、月明かりが明るいお陰で周りはよく見える。
本当に誰もいないのか、いや、そんな筈ない。
小貴族とはいえ、召使いや護衛等は必ずこの邸内に居るはず。
「罠か…?」
罠だとしたら、こちらが仕掛けてくることを知られていたことになる。
依頼をされた時、宿舎の廊下には誰も居なかったし、左右隣の部屋には誰もいなかったはず。
そんな筈はない、と自分に言い聞かせ、影から出て、足音を消し、しゃがみながら移動する。
段々と唯一感じる気配が近くなっていく。
すると、ある部屋の扉から光が漏れているのが見えた。
あの部屋か。
扉まで足音や気配を消しながら近づき、扉の取っ手を掴んだその時。
『違和感』
不意に感じる違和感。
やはり何かがおかしいとカンが訴えかけてきている。
しかし室内から感じるこの魔力は一流魔術師並の物。
こんな魔力を持って居る者は中々いない。
中にいるのは確実にターゲットの筈。
ならばやることは一つ。
俺は短剣を鞘から引き抜き、取っ手に力を入れた。
ガチャッ
「だ、誰」
中には小太りの男、こいつが『チベット・フローズン』か。
魔法を発動させる前に殺らなくては。
「ッ」シュン
スパッ
「か…は…」
喉を掻っ切られた『チベット・フローズン』は床に倒れ伏し、首を手で抑えてる。
指の隙間からは暗い赤色をした血液が流れていた。
茶色いカーペットに血が染み出していく。
今の内に止めを、と俺は短剣を振り上げた。
「!?」
顔が違う。
写真で見た『チベット・フローズン』と、眼の前にいる『チベット・フローズン』。
少し似ているが違う、コイツじゃない!
気づいた時にはもう遅かった。
部屋内の温度が下がっていることに気づき、早急に部屋を立ち去ろうとするも。
ピキッ
「ッ!チッ!」
足は既に凍っていた。
直後、廊下から2つの足音がしてくる。
やがてその足音は近くなる。
俺はその場を動けない。
そして現れたのは。
貴族服に見を包んだ小太りな男とローブを羽織った女だった。
その顔を見た瞬間、俺は思わず呟いた。
「…お前が、『チベット・フローズン』、か」
「そうさ、私が、チベット・フローズン。
君が命を狙っていた人物さ」
チベット・フローズン、写真の通りの顔立ち、間違いない。
つまるところ、俺は嵌められたわけだ。
◆◆◆◆
部屋に冷気が漂う。
恐らく、コイツの『氷結魔法』の効果だ。
もはや腕すら動かせない、
思った通り厄介な魔法。
そもそも、何故暗殺の件がバレている?
あの話を誰かに聞かれていたのか?
いや、今はそんなことよりこの状況を打破する方法を考えるのが最優先だ。
「君には私からも用があってね、そちらから来てくれるのは寧ろ好都合だったわけさ」
「…」
「で、その要件についてだが…少し失礼」
チベット・フローズンは俺の頭に手を当て、何かし始めた。
しばらくすると頭から手を退け、俺に話しかけてきた。
「ナルゲル、いや『ヒルデラ』君の方が良かったかな?」
「ッ」
コイツ…本当に何者なんだ…?
「情報源は、後で教えてあげるよ、そもそも勘違いしないで欲しい。
私は君を殺す気はない、これだけは信じてくれていい、と言っても、まあ信じてくれないだろうがね」
「いいかい?君の脳にはある魔法が掛かっている」
魔法!?
まさかそれで頭の中でも覗いた訳じゃないだろうな。
「『記憶の再生を抑制する』魔法がね」
「…は?」
何を言っているんだ、コイツは、俺は記憶喪失になった覚えはないぞ。
「信じられないのも訳は無い。
君は記憶を消され、栓さえされていたんだ。
君は冒険者界や裏社会に登場する前、どうしていたんだい?」
そんなこと、森あの人達とずっと暮らしていて…
?
なんだ?
『あの人達』とは誰だ?
直後頭に走る激痛。
意識が保てない。
俺の視界は徐々に暗転しようとしていた。
「やはり、記憶を取り戻そうした所でストップがかかる仕組みになっている」
チベット・フローズンはポケットから何かを取り出し再び俺の頭に手を置き、呟いた。
「今からその魔法、解いてあげよう」
瞬間、頭痛が消え、意識が鮮明になる。
なんだ、何が起きた。
「君の魔法は解除した。
これでもう何かを思い出す際頭痛はないはずだよ。」
突如流れ込む『実在』した記憶。
あの4年間、俺は森で一人で暮らしていた訳じゃない。
三人の男と共に暮らしていたのを思い出す。
名前と顔は思い出せないが、魔法や体術を教えてくれていたのもその3人だった。
「何か、思い出したようだね」
そうだ、思い出した。
俺が『もう一つ』魔法を扱っていたことも。
次回、(多分)ヤンデレ回予定。
UA10000記念、なにを書けばいいか
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ネタ回
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普通にこれまで登場したキャラ説明
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その他