青年の異世界珍道中〜ひぐらしのなく頃に〜 作:クロイツヴァルト
「さてと、次の世界はどこに行くかなっと」
とある場所で戒翔はホロスクリーンを開いて様々な世界を観測していた。
「ん〜、これといったものは…と、これは」
表示されていた世界の一つに戒翔は注目する。
「ほむらの様な時間逆行とは違うな…記憶を継承しながら別の時間軸に移動し一定の月日を繰り返す少女か。スバルみたいだな。」
そのスクリーンに映されていたのは綺麗な黒い長髪の年端もない様な可憐な少女であった。
「古手梨花…雛見沢に古くからある巫女の末裔か…彼女の望みは死の連鎖からの脱出か」
そう呟いた戒翔の足下に魔法陣が展開される。
「さて、悲運な少女を救いに行くとしようか」
戒翔がそう告げるのと同時に足下の魔法陣が一際輝き、戒翔はその場から消えるのであった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「…さて、此処が雛見沢か。」
神域から転移した戒翔は小高い山の山頂にて眼下に広がる農村を見下ろしていた。
「来たは良いが、今は何年の何月だ?」
《昭和50年の4月あたりになるかと》
「そうか。先ずは人に会わなきゃ話にならないが…今の俺の肉体年齢は十歳前後か?親が居ないと不審に見られるが…どうしたものか…いっそ地元の誰かの養子にでもならんと怪しまれるが」
思案するが中々良い考えが浮かばない戒翔だが、そこに緑の髪を靡かせて走ってくる2人の少女が見える。
「あはは、詩音おっそーい!」
「オネエが早いんですよー!」
そう叫びながら戒翔のいる山頂付近に近づき、2人の少女は戒翔の存在に気づく
「あんた、誰?雛見沢や興宮の子じゃないよね?」
「オネエ」
「俺は親に置き去りにされたようだ。」
「……は?」
「ここで待っていろと言われて3日位此処にいるんだ」
戒翔の言葉に2人の少女は絶句し、狼狽える。
「ちょ、ちょっと待って!3日ってえぇ!?」
「お母さんに相談した方が良いのかな?取り敢えず一緒にウチに来て!」
そう言ってオネエと呼ばれた少女に戒翔は手を取られて山を降りるのであった。
ーーーーーーー
「これは見事な武家屋敷だな…」
「此処が私達のお家、園崎本家」
「お母さんか葛西さんにちょっと話をしてくるから詩音はその子をお願い」
「オッケー、任せといて!」
そうして姉妹の姉らしき少女は屋敷の中に入っていくのであった。
「それにしても君、名前は?私は園崎詩音。で、お家に入って行ったのがオネエの園崎魅音」
「オレの名前は御坂戒翔…多分だが、君たちよりは幾つか上の年だと思う」
「ちなみに私とオネエは今、十一歳ですけど」
「そうなると俺の方が十三歳だから二つ上だな…」
「それにしても戒翔君はなんであの山に?」
「単純に俺が邪魔だったのだろうな…そもそもアレが親とは思いたくもないがな」
「え…それはどういう」
「おーい、詩音!母さんが連れてきた男の子を連れて入って来てだってさー!」
戒翔の言葉に戸惑う少女詩音の言葉は屋敷から出てきた魅音の声に遮られる。
「もぅ、オネエのせいで話の途中だけどお屋敷の中に行こっか。ほら!」
「そんなに引っ張らなくてもオレは逃げんよ」
「アレ?アタシの居ない間に仲良くなっちゃってるね?」
詩音に手を引かれる戒翔の姿に魅音は目を丸くする
ーーーーーーーー
「中々に雰囲気が物々しいな」
「まぁね、この村には滅多に他所から人が寄らないからみんなちょっとピリピリしてるんだと思うよ。」
屋敷に入って目的の部屋に行くまでの間に屋敷の雰囲気を感じた戒翔の言葉に手を繋いだままの詩音が苦笑まじりにそう答える。
「さ、此処だよ。中で母さんや婆っちゃ達が待ってるよ。」
「げ、鬼婆もいるんですか?」
魅音の言葉に苦虫を噛んだように詩音が呟く。
「しょうがないじゃん。村の外の山に子供だけなんて不自然だし顔役でもある婆っちゃにも話を聞いてもらわなきゃでしょ?」
「それはそうだけど、私は苦手なんですよね。」
「詩音が気にする事じゃないでしょ?話をするのは基本的にその男の子だし」
「そうだな。それにあまり待たせるのも失礼だしさっさと話をさせてもらえると助かる。…オレを受け入れて貰えるかは別としてもな」
「…え?」
詩音の言葉を聞いてあっけらかんとしている魅音は自分たちと向こうにいる大人達を隔てる襖を開ける…戒翔の呟きは隣にいた詩音に聞き取れたが詩音が聞き返すより大人たちの視線がこの村の部外者たる戒翔に注がれる…
「…あまり歓迎はされてない様だな。」
「それは君の言葉次第かな?」
戒翔の呟きに答えたのはこの部屋の奥に座る威厳のある老婆の横に佇む二十代の女性が答える。
「オレは御坂戒翔と申します。訳あって村外の山中でお宅の娘さん達に出会い、ご厚意でこの場にいます。」
「私は園崎茜。そこの2人の娘、園崎魅音と詩音の2人の母親よ。それにしてもウチの娘達とそう年も変わらなさそうに見えるのに礼儀正しいじゃないさね。」
「ありがとうございます。」
「さて、早速だけど本題に入るけど親に捨てられたってのは本当なのかい?」
「3日も放置されれば馬鹿でもわかると思いますよ。そもそも、オレはアレを親とは思いたくも無いですけどね。暴力に罵倒、挙句には酒やギャンブルに金を使い込む様な奴は果たして親と呼べますか?」
茜の言葉に戒翔の告げた事に流石にこの場にいる誰もが言葉を失う。
「それは…本当なのかい?」
二児の母でもある茜は信じたくない気持ちで戒翔に聞くが戒翔は無言で頷き肯定の意を示し
「魅音と詩音は見ない方が良い…年下の子には些か刺激が強すぎるからな…」
「どういう」
「そこのグラサンの人、その2人の目を塞いで貰えますか…下手をすればトラウマになりかね無い」
「……分かりやした。お嬢方、失礼しやす」
「ちょっと葛西さん!」
戒翔の言葉に言い知れぬ雰囲気を感じたのかサングラスをした男性が2人の視界を遮る。詩音がそれに対して不満を声にするが葛西と呼ばれた男は動くことはなかった。
「さて、それでは見苦しい物お見せすることを先に謝っておきます。」
そう言って戒翔は一息に上に来ている長袖のパーカーを脱ぐ
「「「ッッッ!?」」」
大人達が目にしたのは上半身だけとはいえ無数にある青痣に明らかにタバコを押し付けた様な火傷の跡、そして夥しい程のミミズ腫れ。極め付けは
「そ、その腹の傷は」
「母親だったモノに付けられたものです。後はストレスの捌け口に沈められかけたこともあります。」
茜は自身の口が震えていることを自覚しながらも質問するが戒翔の答えに絶望する…
「子にする仕打ちじゃ無いさね…これは!」
淡々と語る戒翔の現状に茜は自身の子でも無いのに激情を垣間見せる。
「ストレスの捌け口と後はオレの異常性で気味悪がられて最終的にはこの近くの山中に捨てられたってのが事の顛末です。…葛西さん、ありがとうございます…もう大丈夫です。」
戒翔は茜の言葉を聞きながら魅音達の視界を遮っていた葛西に礼をしながら脱いだパーカーを着る
「異常性ってどういう事だい?」
「皆さんは超能力ってご存知ですか?」
「超能力ってあの物を浮かしたりとかする?」
茜の質問に答えた戒翔の言葉に今度は魅音が反応する。
「では一応説明しますがオレのこれはここの人達だけ知るものとして下さい。下手に外部に漏れると面倒なので」
魅音の言葉に肯定の意を込めて頷いた戒翔は掌を皆に見える様にして
「「なっ!?」」
「先ずはこれ。
驚いた大人達を見ながら戒翔は掌に生み出した炎を円形楕円と変えながら説明をする。
「オレの親だった奴らはコレを見せた途端に化け物を見る様な目になりオレを避ける様になった。」
形状変化させていた炎を消して戒翔は俯く。
「そして何を思ったのか次の瞬間には自分の子じゃないとするかの様に虐待が始まった。そして捨てられた」
戒翔の言葉に一同は重苦しい雰囲気に包まれる。
「……それで、おまえはどうしたいんじゃ」
そして此処で今まで口を挟んでこなかった老婆が口を開く。
「さぁ、まだ子供のオレには分からないけど…こんな薄気味悪い子供はいたって邪魔に」
「薄気味悪くなんてないよ!」
老婆の言葉に答える戒翔の言葉を遮るように詩音が口を挟む。
「詩音…」
「戒翔とはついさっき会って少し話をしただけだけど…それでも!薄気味悪くも化け物でもない!あたし達と何にも変わらない子供だよ!」
「いや、だけど現にオレは特異な力を」
「それがなんなんですか!そんな物は戒翔の個性の一つですよ!そんな事で邪魔になんかならないよ!」
流石の戒翔もこの状況に狼狽えるが詩音の言葉が嬉しくもあった。今までの世界では表立って言う者はそこまでいなかったが、此処まで感情的に戒翔に詰め寄るのは彼女達以来である。
「母さん、婆様。お願いです。彼を…戒翔をこの屋敷に住まわせて貰えませんか?」
「し、詩音!何を言って」
「だって!戒翔はここを出て行く宛があるの!?私達よりも二つ上って言っても同じ子供には変わらない…それに放っておくなんて出来ないよ!」
「詩音のお母さん、ちょっと娘さん説得してくれませんか?明らかに他所者のオレを屋敷に住まわせるのは色々と都合が悪いんじゃ」
「誰がいつ邪魔になるなんて言ったさね?」
「はい?」
「他所者だって?ならウチの養子になれば良いさね。それにあんな話をされてハイさよならって訳にはいかないね。それにアタシは魅音と詩音の母親さ。娘の願いを聞かない親なんていないさね。」
茜の言葉に戒翔は呆気に取られる。それを見て詩音が抱きついている反対側に魅音が抱き付いてくる。
「って事は戒翔はアタシらのお兄ちゃんになるって事だよね!」
「まぁ、結果的にはね?あんたはどうだい?居候になるのも養子になるのもあんた次第さね。」
魅音の言葉に茶目っけたっぷりの目で茜は戒翔にそう質問する。
「園崎さんのお言葉に甘える様ですが…養子縁組をお願いします。」
「よし!そうと決まれば善は急げだ…アンタ!婆様も良いですよね?」
「うむ、任せろ。」
「茜の好きにしんしゃい」
貫禄ある壮年の男性は快活に笑い退室し、老女はため息を吐きながらもその表情は面倒というようなものには見えなかった。
「これからお世話になります。」
「何を他人行儀になってるんだい。これからこの屋敷がアンタの家でアタシらは家族なんだよ?」
丁寧にお辞儀をする戒翔を見て苦笑する茜の言葉に戒翔は一瞬だけ呆気に取られ
「そう…だな。これからよろしく義母さん」
かくして戒翔の雛見沢での生活が始まるのであった。