魔王と女勇者の共闘戦線   作:藤咲晃

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 アルデバランの森に在る魔都市アルデバラン。そこにはレオが築き上げた魔王城が都市を見下ろしている。

 だが、そこにはもう魔王レオは居らず、魔族もアルデバランから姿を消していた。残されたのは天使兵と中央広場に鎮座する魔界の門のみ。

 都市に吹く風が虚しく吹き通る。

 

 しかし、そんな状況はルシファーには関係の無い話だ。最初からレオに代わり魔族を導く事も、内政に尽力する事も無い。

 彼にとっては人間の殲滅が最優先事項であり、それ以外の事など眼中に無いのだ。

 ただ、人間殲滅を円滑に行い最終計画のためにレオとリアから魔力を奪ったに過ぎない。

 

 【昇華】から目覚めたルシファーは十二枚の翼を広げ、眼前に跪くサタナキアを見下しながら耳を傾ける。

 

「報告が……天界制圧部隊が鎮圧され、バラキエル及びアザゼルが戦死……っ!」

 

 僅かに動揺を見せるサタナキアにルシファーは、冷ややかな視線を向けた。

 その程度の事で何故動じるのか。そもそも天界に居た部隊が鎮圧されようが計画に何ら支障は無い。

 ルシファーは、それよりもと重々しく口を開く。

 

「……我の計画に狂いは無いが、天竜アルビオンの解放は如何した? 確実に解放させるために女神を封じ、神殿に小細工を労したが……失敗したのか?」

「……解放はされた様だが……そ、その、アルビオンは再び封じられたようで、おまけに女神も解放されたと」

 

 天竜アルビオンとは無限に等しい生命と魔力を持ち、あの女神ウテナでさえ討伐し切ることが叶わなかった災害だ。

 それが再び封印された事にルシファーは、目覚めてから感じられないレオとリアの魔力に眉を歪める。

 もう用済みだ。そう思い、仕掛けた魔法陣を起爆させようと魔力を送り込んだが、魔法陣は既に解除されたのか反応が無い。

 

「……魔王と勇者が鎖を外し魔力を取り戻したか。用済みとなれば始末する予定だったが、まあ良いどの道奴らは此処に来る。その時こそ我が自ら首を刎ねよう」

「女神の始末は?」

 

 幾ら混沌の魔力を得たところで、女神を二度封印することは叶わない。あの時はゴルゴーンの瞳で石像に変えたが、ゴルゴーンの瞳は一度使用すると砕ける。そのため別の方法で封じる必要がある。

 

「今は捨て置け。奴も此度の戦乱に介入するかもしれんが、その時は我の魔力の糧にしてやろう」

 

 女神の魔力を得る。そして自分は神へと至り漸く計画が大幅に進む。

 神に昇格することなど通過点に過ぎない、それはアルビオンの解放も同じこと。

 全ては人間を滅ぼし、新たな人類を創造するための下準備に過ぎない。

 

「ルシファー様の計画は偉大だ。……しかし、ロラン。アイツの策略で魔王と勇者の魔力回復の隙を生み、天界の鍵を奪われ、そして魔族はみなアイツに着いて行った」

 

 確かにサタナキアの言う通り、ロランは想定外だった。幾ら自分とは言えども、心をあそこまで完璧に偽られ見抜くことは叶わなかった。

 

「ふん、ロランは魔王と合流する腹詰まりだろうがな、手間が省けるというもの。サタナキアよ、貴様には混沌結晶を預ける、巧く活用しロラン討伐の任を果たしてみせよ……失敗は赦されないぞ?」

 

 サタナキアは失敗を犯した。部隊を率いながらキュアリア村から敗走したこと。

 二度目の失敗は無い、そう暗に告げるとサタナキアは、

 

「我が命に代えても成し遂げてみせましょう!」

 

 気合い十分に答えた。

 ふと、サタナキアは辺りに目線を向けると。

 

「あの、ルシファー様? アガリアレプトは……?」

 

 彼の意外な質問にルシファーは面食らった。サタナキアが彼女を気にするなど意外だったからだ。

 意外だが、アガリアレプトがこの場に居ない理由を隠す意味も無い。

 

「彼女は我の子を産むために身を清めている。戦に絶対など存在しない、万が一我が倒れた後の後継者は遺しておくべきだろう?」

「そのためにあの女を抱くと……?」

「配下の女天使で魔力量の水準を満たしているのは、アガリアレプト一人だけだからな」

 

 次代のために魔力と血を遺す。仮に自分が倒れた場合、次の後継者が人間殲滅に動くように。

 自身の意志を遺してまで成し遂げねばならない。それが自分の最大の過ちを償う方法だ。

 

「なるほど。……では、最後に……何故勇者リアに光属性が通じないのか」

「さあな、我もそこまでは知らん。ただ、利用するには都合の良い魔力だった、それだけの事よ」

 

 そう答えると、サタナキアは納得したのか改めて臣下の礼を取り急足に立ち去って行く。

 サタナキアは勇者の心を壊し人形にすると息巻いていた。それはそれで人間殲滅が捗るため都合が良かったが、人形にもなり得ない小娘を生かすほど甘くは無い。

 彼の背中を冷ややかに見送りながら、ルシファーはそんなことを思っていた。

 そしてルシファーは玉座から立ち上がり、掌を真上に挙げる。

 

「さて、人間殲滅のために一石投じるとしよう」

 

 自らの物にした混沌の魔力の試し撃ち。そのためにルシファーは魔力を練り上げ、無言で混沌の矢を放った。

 それは空まで飛び上がり、弾けると地上に向かって矢が降り注ぐ。

 対象は人間の住む全ての領域。一発で事が終わるならそれで良い、そうルシファーは嗤った。

 しかし、地上に降り注ぎ破滅を齎す矢は、上空に現れた魔法陣によって阻まれてしまう。

 

「……女神め、既に動き出したか」

 

 人間界全土を包み込む女神の結界が空に映り込む。

 まだ自身の魔力は女神に届かない。それを暗示するように無傷な魔法陣が鎮座している。

 

「まだその領域には届かんか」

 

 まだ魔力の制御が上手くいかない。渦巻く混沌の中で光と闇が強く反発し合う感覚がまだ在る。

 光と闇が持ち主に似たのか強く反発する事に、ルシファーは人知れず笑いを噛み殺した。そうで無くては面白くないと──

 


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