魔王と女勇者の共闘戦線   作:藤咲晃

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 アンドレイ王子は目の前の敵部隊に舌を打つ。

 アルタイル平原に潜んでいた伏兵を捜し当て、攻勢に出たまでは良かった。

 天使兵の目論見はレオ達をヴァルゴ高原の部隊と挟撃すること。

 そこまでは予測範囲内だった、だがいつも現実というのは残酷だ。

 アンドレイは目の前に迫る魔物──ファルコンの群れに息を呑む。

 

「空を自由に飛び廻り、獲物を決して逃さない魔物……者共! 迎撃用意……っ!」

 

 地上に隊列を成す天使兵と空から奇襲を仕掛けるファルコンの群れに、アンドレイの部隊は苦戦を強いられていた。

 合図と共に上空に放たれる迎撃魔法を、空を自由に飛び廻るファルコンが避ける。

 

「無駄だぁ! 人間如き魔法でファルコンを撃ち落とせるものか! 者共、畳み掛けろ!」

 

 こちらに突撃する天使兵に、セルゲイ将軍とカムラン隊長の部隊が迫る槍を受け止め突撃を抑え込む。

 

「やらせん!」

 

 セルゲイ将軍は大剣で槍を弾き、力強い一振りを放つ。天使兵の一団は重く鋭い一振りに弾き飛ばされ宙を舞う。

 弾き飛ばされた天使兵の一団は、上空を滑空し獲物を定めるファルコンの群れに衝突。衝突の勢いで体勢を大きく崩した敵軍。

 そこにカムラン隊長が騎士剣を掲げ、

 

「今だ! 焼き払えェェェ!!」

「「「「《業火よ降り注げ》」」」」

 

 騎士団の魔法騎士隊が唱える詠唱に、天使兵の指揮官の表情が歪む。 

 騎士ではフィオナやナナの様に大規模な魔法は扱えない。だが、隊員全員が扱える魔法も存在する。

 それが放熱魔法──【クリムゾン・レイン】だ。

 業火の雨となり、天使兵の一団とファルコンの群れに降り注ぐ。

 部隊による面制圧を兼ねた魔法、撃ち落とされたファルコンと天使兵が落下し地上部隊の逃げ場を奪う。

 アンドレイ王子は人間もまだまだ捨てた物では無い。そう思いながら、剣先を敵指揮官に向ける。

 

「今が好機だ! 指揮官を討ち取れぇぇぇ!!」

 

 アンドレイ王子の勇敢な号令がアルタイル平原に響く。

 メンデル国が誇る精鋭の騎士団が天使兵を呑み込むのは、そう時間の掛からないことだろう。

 

 

 ヴァルゴ高原に出陣したミカエルは、何度目かの【天罰】に息を吐く。

 高原に陣を敷いた天使兵が、凹凸した地形を利用しながら身を隠し魔法を放っている。

 だが、【天罰】は魔力消費の大きい魔法だ。部隊戦に於いて奇襲による初撃は実に有効だになるだろう。

 しかし、天使兵が奇襲した相手が悪過ぎる。そこにミカエルは同情を浮かべながら、

 

「部隊に接近は未だ気付かれてはいませんわね。では、手筈通りに一気に畳み掛けましょうか」

「了解ッス!」

 

 静かな凛とした声を合図に、セリナを中心とした天使が敵陣営に駆け出す。

 地形を利用し、身を隠したのは上策だった。しかしそれは奇襲を悟られていない事が前提だ。

 ここは魔王レオが治る土地の一つ。彼はヴァルゴ高原の何処が脆く、崩れ易いかを正確に把握していた。

 何の悪戯か、丁度敵陣営が身を潜める場所は崩れ易く早急な補修工事を必要としていた場所だった。

 そして所定の位置に到着したセリナ達は、崖に向けて掌を向ける。

 

「「「「《聖なる衝撃よ大地を砕け》」」」」

 

 崖崩れをより正確に敵部隊を呑み込むために、セリナ達は、衝撃魔法──【セイント・インパクト】を地面に向けて放つ。

 無音から放たれる衝撃が崖一帯に走り、亀裂を生じさせていく。

 

「な、何だ? 地響き……っ!?」

 

 やっとこちらの接近に気が付いた天使兵が驚き眼を見開く。

 彼らがこちらの接近に気付かないのは、単に警戒を怠った訳では無い。

 天界に伝わる魔力を隠す魔法──【ベール】がミカエルの部隊を包み込んでいるからだ。

 そして、漸く気が付いた彼らが攻勢に出ようと動き出した瞬間。

 激しい地鳴りと共に彼らの頭上に位置する崖が崩れ、落石が降り注ぐ。

 

「た、退避いいぃぃぃぃ!!」

 

 この場から逃げろと指示を出す天使兵。だが、それも手遅れだ。

 頭上から降り注ぐ落石と土砂に呑み込まれていく天使兵に、ミカエルは慈悲なく告げる。

 

「これが貴方の罪。地の底で甘んじて受けなさい」

 

 彼らは間違いなく生きているだろう。落石と土砂に呑み込まれた所で死ぬほど柔では無い。

 だが転移魔法が封じられ、残り魔力も少ない現状で戦場に復帰するのは困難だ。

 彼らが魔力を回復させ、這い出た所でスピカの戦闘は決着を迎えているだろう。

 

 そう息を吐くミカエルは、遠目に見える旗に眉を歪めた。

 

「あの国旗は……メンデル国の同盟国──フェルエナの」

 

 嫌な予感がする。フェルエナ公国はメンデル国の北東に位置する隣国。

 その国がわざわざ国境を超え、ヴァルゴ高原に布陣しているのは、ミカエルからした解せない話だ。

 

(どさくさに紛れて領土侵犯? それともギリガン王の策略かしら)

 

 ギリガン王から増援を送るなど、何一つ聴いていない。

 これは早急にレオに一報入れるべきだとミカエルは判断。

 

「ヴァルゴ高原に潜む天使兵は壊滅したわ! 我々はこれより転進し、魔王レオの増援に向かうわよ!」

 

 ミカエルの指示に、天使はそれぞれ今回の戦が簡単には終わらない、そんな予感を抱きながら足を穀物地帯へと向けるのだった──

 

 


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