ロランとマキアが振るった武器を片腕で受け止めるサタナキアがにやりと笑みを浮かべる。
刃を通さない肉体を得た彼に、マキアは忌々しそうに舌打ちを鳴らす。
「鋼を叩いてるみたいだ! ロラン、何か方法は無いのかい!?」
「表面が硬いのなら衝撃を内側に加えれば良い!」
そんな芸当はリアの専売特許だ。ただ、硬い敵を相手にいつも彼女に頼ってばかりはいられない。
そう考え、密かに編み出した魔法技がマキアには有る。
マキアは短剣に風の魔力を集め、
「《風よ断ち切る刃となれ》」
短剣に集った風が鋭い刃に変化し、渦巻く風が空気を斬り裂く。
マキアは風を高密度に束ねた魔法技──【ソニック・ブレイド】を振り抜き、サタナキアの右腕を斬り払う。
舞う鮮血が確実にサタナキアにダメージを与えていると証明する。
それでもサタナキアに対しては痛手となるには、まだ程遠い。
マキアは一度サタナキアから距離を取り、魔法を放つべく魔力を放出すると、異形の天使兵が彼女に向かうって牙を向ける。
「邪魔すんな!」
歩術魔法──【瞬身】で迫る牙を避け、異形の天使兵の頭部に彼女は勢いのまま踵落としを繰り出した。
重く素早い踵落としを受けた異形の天使兵は、衝撃に頭を揺らしその巨体をサタナキアの方に倒れ込む。
しかしサタナキアは片腕で異形の天使兵を掴み抑えると、無言詠唱から雷の閃光を放ち、異形の天使兵の頭部を貫いた。
「貴様にとってそれは同胞か?」
「ふん、ルシファー様の施しを受け止め切れない者に価値などない」
傲慢な物言いを冷たく言い放つサタナキアに、マキアは拳を握り締める。
それが信じて付き従った者達へ言う言葉なのか。
「あんたもルシファーも上に立つ者としては失格だよ。第一これだけの天使兵を犠牲にしてまで人間を絶滅に追い遣る意味があるのか!?」
マキアの問いにサタナキアは煩わしそうに、右手の槍を振るう。
魔力が乗った槍がマキアの喉元まで迫る中、彼女は素早い身のこなしで避け、サタナキアの顎に蹴りを入れる。
僅かに怯んだ彼に対してロランが畳み掛けるように、【メギド】を放った。
サタナキアは獄炎に呑み込まれるが、混沌の閃光が周囲一帯に降り注ぐ。
魔族を薙ぎ倒し、異形の天使兵を貫く閃光。ロランとマキアの二人は、地面を疾走し閃光を避ける。
【メギド】の中から現れるサタナキアにロランはため息を吐く。
「しぶとくなりやがって」
「魔力量が上昇するだけでしぶとくなるもんなの?」
「いいや、奴は肉体の表面を魔力で覆うことで防御に転用しているようだ」
だからこちらの攻撃は通り辛いと。
しかし、それでは可笑しな点も有る。サタナキアは【ソニック・ブレイド】で傷を受け、ただの膝蹴りに怯んだ。
それでは【メギド】が防ぐ防御力に説明が付かない気がする。そんなマキアは疑問を顕にした。
「そこは奴の慢心だ。人間に対する慢心が防御への転用を遅らせているんだ」
魔力の扱いは心で決まるとフィオナから聞いたことが有る。精神面が魔力制御に直結する様に、心は魔力を動かす原動力となる。
人間の攻撃を魔力で防ぐ程の価値が無い。恐らくサタナキアの心の奥底に有るそんな慢心が最大の隙を生じさせた。
そうマキアは結論付けながらも、慢心を捨て切れないサタナキアに再び刃を構え直す。
魔力が防御力へと変換されている以上、ロラン達に勝ち目は薄い。だからと言って自分がサタナキアを討ち取れるほど甘い相手では無い。
(これは賭け、ロランの為の危険な賭け。それでもやる価値が有る!)
「それじゃあ、あたしが頑張らないとね」
戦場に居る魔族達はみんな異形の天使兵の対応に追われている。
隣にロランが居る。彼の前だから少しは良い所を見せたい、そんな女心も有る。
マキアは地を蹴り、素速い動きでサタナキアの懐に入り込む。彼の腹部に【ソニック・ブレイド】を地を這う様に斬り上げる。
風を纏う刃がサタナキアの腹部を斬り裂く中、マキアの横腹に重い蹴りが突き刺さる。
重く鈍い衝撃に呼吸が止まり、体が吹き飛ばされる刹那の一瞬。マキアは必殺の左手を【瞬身】の応用で繰り出す。
硬い鉱石の感触が左掌に収まるのを感じた瞬間。地面にマキアの身体が二、三度弾かれ、
「かはっ……ひゅっ……んっ……がはっ、ごほっ……っ!」
ゆっくりと冷静に呼吸を整え、立ち上がる。そしてマキアは左掌に収まった混沌結晶をサタナキアに見せ付けた。
「っ! 私の魔力がっ! ルシファー様から頂いた魔力が……っ! 己ぇぇぇ!!」
急速に魔力が抜けるサタナキアを尻目に、マキアは混沌結晶を握り壊し、脇腹の鋭い痛みに顔を苦痛で歪める。
急いで治療ポーションを飲まなければ。怒り心頭で槍を振りかざしながら迫り来るサタナキアを前に身体が思う様に動かない。
「死ねぇぇぇぇ!!」
だが、サタナキアはマキアの下に近付く事さえ叶わない。
ロランが彼女前に立ち塞がり、彼の槍を剣の腹で受け止めていたからだ。
余りにも一瞬の出来事に三度瞬きすると、
「後は俺に任せろ。コイツに引導を渡してやろうっ!」
ロランがサタナキアと斬り結ぶ。そんな彼の背中に安心したのか、脱力感が全身に駆け巡る。
ここは戦場だ。倒れてはロラン達の負担になる、そう意地でも倒れまいとマキアは足を踏み堪えた。
ポーチに在る最後の治療ポーション。その半分をマキアは飲み込み、身体の治療に努める。
責めてロランの邪魔が入らない様に、異形の天使兵だけでも抑えなければならない。
背後から迫り来る異形の天使兵の群れにマキアは振り向く。
「ロランの邪魔はさせないよ!」
痛む身体を抑え、彼女は異形の天使兵の群れに駆け出して行った──