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アルタイル平原を超え、野山を越え、峡谷の北西部に拡がるアルデバランの森へとレオ達は軍を進めていた。
一週間の行軍は、混沌結晶を埋め込まれた魔物による襲撃を受けるも、互いの連携と魔族の地の利を活かした戦術によって損害も無くアルデバランの森へと無事に到着。
眼前に広がる森をレオは紅い眼光で鋭く睨んだ。
「……天使兵は森を防衛拠点と選んだか」
ここから比較的に近い砦に、天使兵は影も無く砦は魔王軍と騎士団との戦闘痕のまま放置されていた。
「前回は森を突破するだけでも大変だったわ」
リアは森を眺め、広大な森の中に存在を主張する魔王城へと眼を向ける。
伏兵に適した土地、北のグランドウォールの滝から下流に向けて流れる川辺。
前回の戦でリア達は魔族の伏兵に遭い、地の利を活かされた戦闘に苦戦を強いられた経験が有る。
特に川辺だ、草木に潜伏していると見せ掛けて水中からの奇襲には、騎士団共々驚かされたのは記憶に新しい。
「さて、人類の明日のために進軍するとしよう」
「そうね、戦争はもう終わりにしなきゃね」
レオとリアは、既に確認することも無く森へ足を踏み入れる。
そして彼らに続く様に、三種同盟の部隊が続いて行く。
陽光が木々の隙間から照らす道を進軍する中、レオ達は地面に散りばめられた痕跡と森から漂う混沌の魔力に武器を構え、警戒心を周囲に向ける。
森の至る所から漂う混沌の魔力にレオは、
「今度は防衛の要に混沌結晶を与えたか? 全部隊に告げる、伏兵に気を取られ過ぎるな! 魔王城からの魔力にも注意を向けよ!」
その言葉を聴いた者達は、魔王城から発せられる膨大な魔力に警戒心を宿す。
ルシファーは用意周到であり、味方を駒の如く捨てる非道な男だ。
ならば、魔王城から長距離魔法の一つや二つ放ってもおかしくないは無い。
既にここはルシファーの魔法の射程圏内だ。
「ルシファーの長距離魔法。……何日単位も続くとなれば、我々人間には防ぎ切る術が無い」
アンドレイ王子のそんな言葉に、ミカエルが笑みを浮かべる。
「大丈夫ですわ。何が起ころうと貴方達を守護してみせましょう」
「おっと、これは心強いお言葉だ。魔法はそなた達に任せ、我々騎士団は迫り来る天使兵を相手にしよう」
意気込むアンドレイ王子に、ミカエルとセリナをはじめとした天使が心強いと言わんばかりに微笑んだ。
レオは思う。アンドレイ王子の懸念は正しいと。
行軍中の部隊に絶え間なく向けられる長距離魔法の懸念。いつ放たれるのか、それとも放たれないのか。油断のできない状況が続く中、混沌結晶と天使兵の伏兵だ。
人間で無くとも精神的に気が滅入るのは当然と言えば当然。
レオはそんな事を考えながら、右手で握った魔剣を大きく振りかぶる。
それに合わせてリアとアルティミアが同時に構えを取る。
レオは、羽根が散らばっている茂みに向けて漆黒の飛ぶ斬撃を放つ。それと同時にリアとアルティミアの飛ぶ斬撃が木々を斬り倒した。
茂みから舞う鮮血と悲鳴、倒れる木々と共に落下する天使兵にレオ達は鋭い笑みを浮かべる。
しかし、天使兵に焦りの色が無い。それどころかよく眼を凝らせば彼らの胸元に埋め込まれた混沌結晶が、漆黒の輝きを放っている。
そこで漸くレオ達は気がつく。地面に散りばめられた痕跡は、片付け忘れでは無かったこと。跳ね上がった魔力量による絶対的な自信の現れからだと。
「ふっ、愚かな」
嘲笑うレオに天使兵の一人──先程レオに斬り付けられた天使兵が鋭く睨む。
「何がおかしい! 我々の魔力は爆発に増加したのだぞ! それもルシファー様の恩恵によって!」
声高らかに吠える天使兵の一人に、アンドレイ王子が問う。
「捨て駒に利用されているとしてもか?」
彼の言葉に天使兵は、真っ直ぐと瞳を向けながら槍を構える。
「それがなんだ! 俺達にはもう帰る場所も無い! 自らの手で壊したんだよ! ルシファー様の待望成就のために!」
決意を声高らかに叫び、アンドレイ王子に向けて突き進む天使兵にセルゲイ将軍が立ち塞がる。
彼は槍を大剣で受け止め、鋭く重い突きに眉を歪めた。
「っ! 重い矛だ! 皆の者、連携し各個撃破に持ち込め!」
次々と天使兵に突撃を仕掛ける騎士団に、レオ達は魔法の詠唱に入る。
しかし、その瞬間。魔王城に混沌の魔力が集う。
集う魔力に震撼する大地と空気に次第に足を取られる騎士団。
そんな彼らに自らも巻き込まれる覚悟で攻勢に出る天使兵。
このままでは長距離魔法によって騎士団が危うい。そう判断したレオが足を踏み込むと右腕が引っ張られる。
視線を向けると、そこには任せろと微笑むアルティミアの姿だった。
「ここは私にお任せを」
レオは彼女の技量に全面の信頼を起き、命を預ける覚悟で一言だけ告げる。
「任せた」
彼女はたった一言に、喜びを顕に氷の魔力を解き放つ。
アルティミアを中心に草木と地面が、銀雪に飲まれていく。
そして彼女は蒼天氷雪を上段に構えた。
「魔王城から混沌の魔砲が!」
騎士団の一人が死の恐怖に足を竦ませ叫ぶ。
彼の一声が合図となり、圧縮された混沌の魔力がレオ達の陣営に向かって解き放たれた。
森を混沌の魔砲に巻き込み迫る破壊の象徴にアルティミアは、愛刀に魔力を集わせ一呼吸吐く。
そして迫る魔砲を、
「……斬っ!」
気迫の伴った一声と共に魔砲に向けて蒼天氷雪を振り下ろした。
魔砲に孤の軌跡が一閃走る。
軍勢を呑み込まんとしていた魔砲は、たった一振りによって空間ごと斬り裂かれ、空間の修復作用と共に異空間へと消滅していく。
そんな光景を目の当たりにした者達は、声を失い呆然とアルティミアを見詰める。
しかし、当の本人はそんな視線などお構い無しに、愛刀を鞘に納めていた。
「……ッ!? ば、バカな! あ、有り得ないっ! こ、こんな……!?」
狼狽える天使兵の声に、同意を示す様にアンドレイ王子は頷く。
あの魔砲はレオとリアの二人の魔力を合わせた塊だった。それを意図も容易く斬り裂くなど、彼女の技量を理解している。
しかし、魔力がレオとリアよりも一歩劣る彼女が魔砲を空間ごと斬り裂けたことに理解が及ばない。
「あら? 私と愛刀に斬れ無いものなんてそんなに無いのよ」
イタズラぽっく微笑む彼女に、彼女を知るよく知る者達も感嘆の息を吐く。
呆然としていた天使兵が動き始め、
「だが! 此処で引く訳にはいかない! 者共かかれェェェ!!」
攻勢に出る天使兵に、気を取り直した騎士団が迎撃に当たる。
「魔王よ! この場は我々騎士団が引き受けた!」
アンドレイ王子の覚悟を宿した言葉にレオは頷き、部隊と勇者一行と共に戦場を突破するのだった──