魔王と女勇者の共闘戦線   作:藤咲晃

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 戦場を抜け、そのままの勢いで魔都市アルデバランへ侵攻したレオ達は、魔都市に魔族の気配が無いことに息を吐く。

 アルデバランの入り口となる商業区から見える街並みに漂う寂しげな光景。

 日の陽光に照らされ、斜めった屋根が特徴的な建物が並ぶ都市は、誰も住まない廃墟同然となっていた。

 

「私達が侵攻した時は、住人までもが武器を携えて抵抗してたわね」

 

 リアははじめてこの都市に侵攻した時の光景を思い出し、ナナ達が苦笑を浮かべた。

 あんなに精神的にも戦い辛い戦闘は、侵略の立場になって初めて実感する。

 もう二度と経験したくない戦場だ。

 

「あたしらはあの時は魔族にとって、排除すべき侵略者だったからね」

 

 住む場所を守るために、魔族を統治するレオを守るために彼らは武器を取った。そうつぶやくリアに、魔族が大きく視線を逸らす。

 

「……魔族にとって戦闘は謂わば祭りのようなもの。コイツらに誰かを守るなどと思考は限り無く薄いぞ」

 

 視線を逸らした魔族に、なんとも言えない眼差しを向けるレオに思わず笑みが零れる。

 

「そんなぁ〜、やだなぁ魔王様! 貴方様のお陰でオレ達は満足の行く生活を送れてるんですぜ? 何処かのバカが謀反を働いた時は、そりゃあもう激怒したぐらいっすよ」

 

 そんな言葉に歯切れの悪そうな表情を浮かべる数人の魔族。

 彼らの様子を見るに、ルシファーに魔力を奪われ窮地に堕ちたレオに、ここぞとばかりに謀反を働いた者達なのだろうか。

 生憎と自分はその時、情けなくも気を失っていたため誰が誰だか知らない。

 しかし、結果的にレオが転移石を使用して逃れることとなった。そう考えると軽率な行動も時には重要な役割になるかもしれない。

 リアがそんな事を考えていると、レオが石畳の道を歩き出す。

 

「……このまま進み中央区を抜け城に進軍するぞ」

 

 レオの言葉に従い、軍が行軍を始める。

 それに倣い、リアはアルティミアの隣を歩く。

 歩を進める中、ふとアルティミアがこちらに視線を向け微笑む。

 何だろうか、とか首を傾げると、

 

「あなたはレオ様と決着を付けたら、どうするのかしら?」

「そりゃあ、魔族と戦争が起こらない様にするわよ。私個人の問題だけど、ギリガン王とは交渉のカードも有るしね」

 

 その時はアンドレイ王子とソフィア姫が味方になってくれる。

 それにギリガン王は多数の臣下が居る中で、約束を守ると王として発言した。その言葉は例え偽りだったとしても、彼は発言の代償を払わなければならない。

 特に魔核研究所とフェルエナの騎士団を動かした点も二人に追求されるだろう。

 

「ギリガン王を失脚でもさせるのかしら?」

「失脚ってよりは、後継者に王位を譲るかもね」

「なるほど、しばらく国は立て直しに追われるでしょうね」

 

 そういう事になる。軍備に注がれていた力は、民のために向けられるだろう。

 ただ、平和が訪れた頃にリアはメンデル国を去る決意を固めていた。

 復興に入る祖国を見捨てる形になるが、後は王族、貴族と政治家の仕事だ。そこに自分の様な力と不老の小娘は不要だ。

 

 

 商業区を抜け中央区を進み、中央広場へと到着するとレオが魔界の門の前で足を止めた。

 

「……ふむ、フェルミナは大人しくしているか。いや、あの引きこもり気質はこちらの事態に気が付いていないか?」

 

 行軍を止めた中でリアはポツリと、

 

「フェルミナって……確か先代の魔王だったかしら?」

 

 そんな事を呟くとアルティミアとロランが苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、ククルが疑問に応える様に呟いた。

 

「昔、フェルミナ様……鬼人族の長とアルティミアとロランは魔王の座を掛けて争っていたからね。ま、僕はまだ産まれても無い頃の話だけど」

「お父さんから最近聴いたことあるかも……基本引きこもりで、メイドを侍らせるろくでなしだって」

 

 鬼人族の長というのは初耳だったが、実力は確かなのは窺える。

 アルティミアとロランという強者から魔王の座を守り続けていた、しかしそれはレオが現れてから一変したのだと。

 

「そのフェルミナが大人しくしてるって良いことなの?」

 

「「「「「もちろんだ」」」」」

 

 口を揃えて応える魔族達にリア達は苦笑を浮かべた。

 そこまでフェルミナという女性は危ないのか。

 

「あいつ、暴れるだけ暴れて破壊した都市はそのまま補填も無しだからな。統治者としては無能だが、力だけは一級品だった残念な女だ」

 

 ロランの棘の有る言葉に、リアは直感で理解する。

 恐らくこの戦場にフェルミナが現れれば、敵味方関係無しに暴れるだけ暴れて帰るかもしれない、と。

 

「……ボク、魔界に行ってみたいかも」

 

 そんな事を思っていると、父ジドラの故郷を見てみたいのか、フィオナが魔界の門を見つめながらポツリと呟く。

 

「むぅ。幾ら混血児のお前とはいえ、魔界の環境によって死ぬ危険性が有る以上は許可できんな」

「それ以前にちんちくりんは、魔界語を完璧に覚えるのが先だろ」

 

 ククルがフィオナの帽子を指で軽く弾くと、彼女はむっと頬を膨らませた。

 彼女はククルに対して感情的になり易い傾向に有る。見た目の年齢が近いからか、それとも──

 そこまで考えに至ったリアと同じ結論に至ったのか、ナナとマキアが温かい眼差しを二人に送る。

 

「……魔界の門の確認も済んだ。明るい未来を掴むためにルシファーは邪魔だ」

 

 そう言って歩き出すレオに、リア達は行軍を再会するのだった。

 


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