魔王と女勇者の共闘戦線   作:藤咲晃

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 魔王城の城門に到着したレオ達は、行軍を止め訝しむ。

 城門の向こう側から重々しい足音が絶えず響く。

 

「……この重量の有る足音は、ゴーレムか?」

 

 魔法人形ゴーレム、土に魔力を与え形造る人形の一つ。

 ルシファーの魔力によって生成されたとなれば、その防衛力は並みでは無いだろう。加えて重々しい足音に僅かに紛れる足音も有る。

 魔都市に何も備えが無いと思えば、城内の防備を固めていた。

 油断を誘うつもりだったのか、とレオは鋭い笑みを浮かべる。

 

「レオ様は張り切っているようですが、雑兵の相手は我々、配下が受け持ちましょう」

 

 大型の十字手裏剣を片手にハーゲンが提案を述べた。

 四魔将軍と勇者一行を連れ、迅速にルシファーの下に辿り着く。その為には雑兵の相手を配下達に任せなければならない。

 彼らなら心配は無い。きっと道を切り拓いてくれるだろう。

 

「では、魔王が命令を下す。ハーゲンを筆頭に雑兵を喰らい尽くせ」

 

 レオの命令一つにハーゲンを筆頭に、魔人族、雪羅族、鬼人族、人狼族、邪竜族が勇ましい雄叫びをあげる。

 ハーゲンが十字手裏剣で城門を斬り裂き、崩壊する門を合図に内部に各種族が突撃していく。

 城の入り口に、それこそ数えるのも馬鹿らしくなる程ゴーレムが展開されていた。

 それに混ざる様に、影で形作られた人影が武器を携え待ち構えている。

 そんな人影をフィオナが足を止めずじっと見つめると、

 

「ルシファーの魔法? 魔族風で【シャドウ・ポーン】かな」

 

 大変素晴らしい命名を与えた。

 

「くっ……フィオナの癖に魔族の琴線を刺激するじゃあないか!」

 

 ライバル意識からかククルが悔しそうに呟くと、そんな彼にフィオナは小さな舌を出して笑う。

 そんな中ハーゲン達の魔法がゴーレムを粉砕し、人影に魔力を宿し刃を振るった。

 霊体同様に実体の無い者を倒すには、魔力が必要不可欠だ。

 魔族の手によって斬り裂かれ、潰され、燃やされる人影。

 魔族が縦横無尽に暴れ、作り出される道をレオ達は駆ける。

 

 

 城内に入り廊下を疾走する中、レオはちらりと背後に目を向けた。地面から無尽蔵に湧き上がる人影とゴーレム。

 

「ルシファーを倒さぬ限り、無尽蔵か」

「その分ルシファーの魔力が減る……甘い考えよね」

 

 リアのため息混じりの言葉にレオは静かに頷く。

 

「奴は天使だ。魔族と同様に魔力の回復速度が速い、魔力の全結に半日はかからないだろうよ」

 

 どんなに策を巡らせ、消耗させようとルシファーは人間とは違って魔力の回復量も傷の治りも速い。

 加えて魔力量がこの場に居る誰よりも遥かに高い。彼と戦うという事は、正に高みに聳え立つ山を崩すような行いだ。

 そう、彼という巨大な高みを崩すには急所狙い。この一点に勝機が有る。

 

「総力戦になるが、奴はたった一人だ。ここは人間界流で繋がりの強さというヤツを見せ付けようではないか」

 

 疾走する中、そんな事を口にするとリア達が温かい眼を向けて来る。

 嫌いじゃないが、むず痒くなる視線に顔を逸らした。

 すると、レオ達の視界を埋め尽くすように、ゴーレムと人影が出現し道を阻む。

 しかし、一陣の強風がレオ達の間を駆け抜けると。縦横無尽に戦場化した廊下をハーゲン達が駆け巡り、ゴーレムと人影を蹂躙していく。

 

「レオ様、お先へ!」

 

「あぁ!」

 

 ハーゲン達の活躍によって廊下を抜け、誰も居ない広場に出る。

 リアとナナと一戦交えた広場は、あの時のままの状態で残されていた。

 自ら放った【フレア】によって残された爪痕も闇と光の衝突によって生じた亀裂も、全てあの時のまま。

 

「まるで二ヶ月前に戻って来たようだな」

「修繕も無しに放置なのね……ルシファーって魔王城を何の為に占拠したのよ」

 

 リアのそんな疑問にロランが、指を立て眉を歪めながら口を開く。

 

「一つは混沌結晶を量産するため。二つめは魔族の戦力を多少なりとも当てにしていたこと。そして三つめは、これが奴にとっての本命である【昇華】の儀式を安全に実行するため」

「確かにここ以上に安全な場所は無いだろうな。騎士団は安易に攻め込めない場所、ましてや当時は総力戦だった。……俺とリアが敗戦し、四魔将軍が離脱した状況下ではヤツを止める者は居なかっただろう」

 

 二人から魔力を奪ったルシファーは、混沌の魔力で両軍を鎮圧。

 ナナ達と生存した騎士団を幽閉し、四魔将軍を配下に置こうと目論んだ。

 改めて聴くと、なぜナナ達を始末しなかったのか疑問が浮かぶ。

 

「なぜヤツはナナ達を始末しなかった? 人間の殲滅を謳うヤツが、なぜ生かす真似をしたのか」

 

 そういえば、とナナ達が首を傾げると、ロランが深く息を吐いた。

 

「ルシファーは人間の殲滅を円滑に行う為に、戦力を欲していた。……いや、天使兵という十分過ぎる戦力を持っていたが、連中は戦を知らない素人集団だ──」

 

 ロランは続けて言う。

 

「ナナ、マキア、フィオナの魔力は勇者の次に高い。だからヤツはレオ様と勇者にしたように、三人を生かしたまま魔力の供給源とする事を計画に入れていた」

「それじゃあボク達は、ザガーンから提案を受けなかったら牢屋の中でずっと魔力を奪われ続けてたってこと?」

 

 人の尊厳も何も無い、正に魔力を得る為の装置。ルシファーはその役割をナナ達に求めていた事になる。

 

「魔力を奪われたら、身体なんて思う以上に動かないし剣を振るうのも一苦労。私とレオは運が良かったから何とか島からも脱出できたけど……敵の本拠地で孤立無援だったらと思うと……」

 

 魔力の源として生かされ続ける末路を想像したリアは、恐怖心と一歩でも間違えれば訪れていた結末に肩を震わせた。

 

「何にせよ、やはり俺の臣下は優秀だったと言う事だな」

 

 主君が居なくとも自ら考え行動し、実行に移す行動力と柔軟な思考力が有る。

 そう褒めるとザガーン達は照れたのか、頬を掻きむず痒そうにしていた。

 レオは廊下から響く戦闘音に耳を傾け、広場から玉座の間を目指して駆け出す。

 

 

 広場を抜けた廊下先に有る螺旋階段を駆け上がり、階段の途中に在る廊下へと入る。

 そこは常日頃文官達が、書類の山と資料の山を運びながら通い詰める廊下だ。だが、今は誰も居ない寂しい廊下。

 そして玉座の間が在るのがこの廊下の最奥だ。

 真っ直ぐと歩き、重々しい扉の前に立ち止まる。

 この扉一枚の向こう側にルシファーが待ち構えている。

 レオが周囲に視線を向けると、全員が準備万端と意気込んだ。

 

(良くも悪くもこの一戦が人間の未来を変えるか)

 

 明日はどっちへ転ぶのか。少なくとも明るい明日のために全力を尽くそう。

 人間と魔族が手を取り合い、互いに認め種族の隔たりを超えた共存を、セオドラと夢見て語り明かした約束のために。

 魔王レオは右手で扉を開け放った。

 

 玉座の間の中央でルシファーが不敵に笑い、身から溢れ出る膨大な魔力を発しながら待ち構えていた。

 


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