魔王と女勇者の共闘戦線   作:藤咲晃

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 レオはリアを見据え、矢を射抜く用量で魔剣を引き絞る。

 

「いくぞリアよ!」

「来なさい!」

 

 レオは一呼吸のもと地を踏み蹴り、矢の如く刺突を繰り出す。

 鋭い刺突をリアは右薙で弾く。レオは弾かれた勢いを利用し、そのままの体勢から回転斬りを放った。

 

「甘いよ!」

 

 リアは後方に跳躍し、刃を避けると共に【洸斬】を二発放つ。

 レオは地を走る二発の【洸斬】を左右に動きながら避け、リアの懐に一気に入り込む。

 刃を下段から斬り上げ、リアが聖剣で弾く。

 互いに繰り出される剣戟が火花を散らし、次第に高まる魔力が魔王城を揺らす。

 

 あの決戦の日の記憶が頭に浮かぶ。あの時も彼女と剣を交えた。戦場で再会し何度も交えた刃、その度にリアという少女は喰らい付こうと努力を重ね、会う度に彼女は強くなっていた。

 今もこうして刃を交えているが、やはりあの決戦よりも彼女が繰り出す刃に重みと鋭さが増している。

 二ヶ月の旅路がリアに何を齎したのか、彼女は何を感じ何を想い刃を振るうのか。

 それは、平和を望む願いと叶えるための覚悟だろう。

 レオは魔力を纏わせた魔剣で、リアの聖剣を上段に弾く。すると彼女はすぐさま左腕を引く。

 アレが来る、そう理解した上でレオは左拳を引き絞った。

 

「っ! 【破剛掌】」

 

 内部破壊に特化したリアの渾身の一撃。その全てを左腕で受け止め、内部に衝撃が伝わる刹那の瞬間にレオは、左腕を形作る闇の魔力を離散させ衝撃を逃した。

 すぐさま闇で左腕を作り出し、リアの左腕を掴み床に叩き付ける。

 鈍い衝撃が床に伝わり、

 

「かはっ!」

 

 リアが血反吐を吐く。それでもしっかりと聖剣を握り、意識を飛ばさない辺り流石は好敵手だ。

 床に倒れているリアは、左手をバネに起き上がりながら聖剣で螺旋を描く。

 聖剣の刃が頬を掠め血が滴る。

 

「はぁ……重い一撃食らっちゃまわね。でも、ここからよ!」

 

 衰えない闘志にレオは、全ての魔力を解放することで答えた。

 彼女も自身の全ての魔力を解放し、聖剣に輝きが増す。

 

「あの時はとんだ邪魔が入ったが今回は違う。どちらかが倒れるかまでだ!」

 

 レオは歩術魔法技──【縮地】を駆使し、リアの背後を取り、逆袈裟斬りを放つ。それに対して彼女は聖剣を背後に回し斬撃を防ぐ。

 斬撃を防ぎながら身体をこちらに向け、洸刃を宿した聖剣を右薙に放った。

 ルシファー戦の折に見せた彼女の奥義。生憎と自分には彼女の奥義に応えられる奥義など無いが、それでもレオは身体を強引に引き寄せ、洸刃を魔剣で受け止める。

 

 鈍い音が響く中、剣戟が続く。

 魔力の衝突によって魔王城が揺れ、衝撃が玉座の間に亀裂を作り出す。

 それでもレオとリアは止まらない。譲れない最後の戦いだからだ。

 好敵手を打ち破ってこその勝利だ。

 

 しかし、戦闘も長くは続かないだろう。自身の残り魔力と魔剣を徐々に侵蝕する錆びが、決着の終わりが近いことを意味している。

 左腕の維持に魔力を絶えず維持し続け、魔剣に魔力を常に供給している。

 残りの魔力に関してはリアも同じ条件だ。

 レオは聖剣を弾き、リアから距離を取る。そして左腕を解除し、全ての魔力を魔剣を集める。

 闇を凝縮させた剣身に闇の炎が走る。

 これが良くも悪くも最後の一撃となるだろう。

 

「この一撃で全てに決着を付ける」

「……分かった、私が受け止めてやるわ!」

 

 膨れ上がる闇の魔力を前に、彼女は微笑んでいた。

 愛おしい笑みを向けられたレオは、優しい笑みを浮かべる。

 そして彼は地を踏み込み駆け、最後の一刀を弧を描く様に鋭く繰り出した。

 斬撃と共に放たれる闇の炎を纏った衝撃波を、リアは洸刃で受け止め、闇を光が呑み込んでいく。

 リアの刃が斬撃を弾き、レオの右腕が大きく弾かれる。

 これはもう見事としか言いようが無かった。魔王の一撃を人間である彼女が真正面から打ち破ったのだから。

 そしてレオは見た。目に涙を溜め聖剣を突き刺す彼女の姿を。

 ()()()()()()()()。前のめりになったリアは、聖剣から手を離し、こちらの胸元を握り締めていた。

 

「れ、お……私の勝ち、よ」

 

 腹部から血が滲み血が口元から漏れる中、レオは彼女の涙を右手で拭う。

 遠のく意識を辛うじて止め、

 

「……泣くな。お前は、勝者だ……皆を明るい笑顔で、照らして……や、れ」

「……うんっ!」

 

 溢れ出る涙にまみれながらも、彼女は満面の笑みを浮かべた。

 正に彼女は太陽のように明るい笑顔で人々を照らす。自分はそんな彼女に惹かれていたのだろう。

 レオは朦朧とする意識の中、立ったままその意識を手放した。

 

 

 リアは涙を拭い、ゆっくりとレオから聖剣を引き抜く。

 傾く彼の身体を駆け寄ったアルティミアが愛おしく抱き締め、

 

「さあリア、最後の一仕事が残っているわ。貴女の勝利を皆に伝えてあげなさい」

「うん……彼の事はお願いね」

「えぇ」

 

 アルティミアは短く頷き、リアは聖剣にこびり付いたレオの血を払い鞘に納めた。

 

「みんな、行こう」

 

 仲間達に声を掛け、彼女達は頷き玉座の間から駆けていく。

 そして、中央広場で魔族と騎士団と天使を相手に、刃を振り抜こうと剣を構えるフェルエナ公国の騎士団に対して、リアは声を張り上げる。

 

「そこまでよ! ルシファーと魔王レオが倒れた以上、これ以上の戦争行為は無意味よっ!」

 リアのその言葉にフェルエナ公国の騎士団は戸惑うと、やがて戦争終結に歓声の声を張り上げるのだった。

 そんな彼らを他所にリアは、ナナ達に振り返る。

 

「後は私に任せて、ナナ達は魔族をお願い」

「はい、こちらの問題はザガーン達と協力して対処しましょう。ですが、リアも絶対にこの地に戻って来てくださいね」

「うん、ここにも私のやるべき事がまだまだ有るからね。でもその時はただのリアとしてだけど」

 

 リアは微笑み、アンドレイ王子の下へ歩み出す。

 ギリガン王との約束を果たすために──

 

 

 

 


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