魔王と女勇者の共闘戦線   作:藤咲晃

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 アンドレイ王子が率いる騎士団とミカエル率いる天使と共にリアは、浮き足立つ住民の歓迎を受けながら王都フェニスへ帰還を果たした。

 長旅の疲れを癒す暇も無く、彼女はすぐさまアンドレイ王子、ミカエルとセルゲイ将軍を連れて入城。

 ギリガン王がリアの姿を視界に入れるや、上機嫌に玉座から立ち上がった。

 

「おお! 勇者リアよ、よくぞルシファーを討ち果たしてくれたな」

 

 まだ報告を送っていない筈。なのに何故知っているのか、と誰しもが疑問の眼差しを向けると。

 

「妾達は()()()()()()()()()

 

 からからと答えるウテナにリアはため息を吐く。

 だから一部の住民がルシファーと魔王レオの討伐おめでとう、などと言ったのか。

 つまり今回の戦乱を二人は最後まで目撃していた。これなら話もしやすい。

 リアは一瞬だけ、アンドレイ王子とソフィア姫に視線を送りギリガン王に口を開いた。

 

「私は勇者としての責務を全うしました。だから、王には私の望みを、願いをどうか叶えて頂きたいのです」

「うむ。幾らでも聞き入れよう」

 

 幾らでも。その言葉にリアは二言は無いな、と微笑むと。彼は笑みを浮かべ返す。

 

「そう……なら、これ以上の魔族への侵略行為及び、メンデル国内に住む魔族と混沌児の迫害行為の禁止。そして私をはじめとした勇者一行の魔族領への亡命を黙認してもうわよ!!」

 

 声を張り上げ言い放ったリアにギリガン王は驚き、やがて笑み浮かべた。

 

「……強大な魔王を人の手で討ち果たせるとお主は証明した。ならば魔族の殲滅は無意味、か」

 

 随分と聞き分けの良いギリガン王に、リアは不信感を向ける。

 彼は極秘に同盟国フェルエナ公国を動かし、背後から魔族を討つ計画を進めていた。そんな彼の言葉を信用できるほどリアは、彼に対して不信感を募らせ過ぎていた。

 

「お父様……そのように言っても誰もフェルエナ公国を動かし、味方を騙し討ちしようとした件に付いては誤魔化されませんよ?」

 

 棘のある声ソフィア姫がギリガン王を睨む。

 そんな娘に対して彼は、深いため息を吐いた。

 

「戦に絶対は無い。ルシファーを討ち果たすという保証は何処にも無かったじゃろう? それに例え疲弊したとしても相手は魔族。隙を突かれたところで彼奴らをフェルエナが討ち取れるなどとはじめから思っておらんよ」

 

 なら何故要請を出したのか。誰しもがギリガン王に疑問を宿す。

 

「余にも王としての立場が有る。……アンドレイよ、王とは綺麗事だけで務まる座では無いのだよ」

「……つまり、フェルエナ公国を動かしたのも同盟国の顔を立てるためだったと? しかしながら我々は魔族を守るために彼らと剣を交え掛けたのですが」

「それで良い……奴等も人間と魔族が共存し合えると少なからず理解を示すじゃろう」

 

 ギリガン王の声に覇気が無い。その事にようやく気が付いたリアは首を傾げた。

 少なくとも戦場に向かう前までは、言葉一つに覇気を宿していたはず。なのに何故、今の彼は寂しそうなのか。

 リアはなんとなく彼の心情を察して、言葉を飲み込む。この指摘は野暮だからだ。

 

「……フェルエナ公国の件は理解したけど、私の願いは聞き入れてくれるのかしら?」

「もちろんじゃとも。魔族とはこれから共存のために方々と議論を交えねばな……余がまだ存命の内に争いの火種は取り除くとしよう──」

「付け加えてお主らの魔族領への亡命の件も承知した。知ってしまったのじゃろう?」

 

 真実を知ったからこそ、もうこの国は居られない。

 

「ええ、流石に一度ハーヴェストに立ち寄るけどね」

 

 すんなりと纏まった話にリアは息を吐き、ギリガン王がそんな様子を見ては笑っていた。

 その笑みはまるで憑き物が取れたような笑みだった。

 

「しかしルシファーの奴は、妾に警戒し過ぎて過剰な魔力を消費しておったのう」

「過剰な魔力……転移封じのこと?」

「混沌の空間のことじゃよ。お主らも実感したと思うが、アレは内部からも外部からも出入りが不可能になる空間じゃった」

 

 それで空間に亀裂が生じたため、ルシファーは姿を見せたのか。

 空間を破壊され、脱出されてしまえば女神ウテナがあの場に現れた可能性をルシファーは考慮していた。

 結果的にウテナの存在が勝利に繋がったのかもしれない。

 

「……ところでアガリアレプトがまだ残っているけど、放置で良いよね?」

 

 残党狩りをする気にはなれない。ルシファーという支柱を失った天使兵は、虚無感に苛まれ絶望している。

 行き場の無い彼らをこれ以上刺激して何にになるのか。

 

「捕虜として生き残った天使兵は、堕天の烙印と共に人間界での奉仕活動を命じる……責めて彼奴らも罪滅ぼしがしたいじゃろうからな。アガリアレプトの件に付いてはこちらで監視を付ける」

「ならこう伝えて、『会ったことも無いけど報復に出るなら私の下に来なさい。いつでも相手になるわ』って」

「ふむ……その伝言聞き入れた」

 

 ルシファーに刃を突き刺した一人として、アガリアレプトの憎しみを受け止める覚悟が有る。

 もちろん漸く掴んだ平和だ。むざむざ殺されてやるつもりは無い。

 全ての要件を済ませたリアは、ソフィア姫に微笑む。

 

「それじゃあソフィア姫、私はもう行きます。事後処理を全て任せる事になって心苦しいけど、後の事はお願いね」

「えぇ、私と兄様が魔族と共存国家としてメンデル国を新たな国にとして発展させて行きますわ……その前に圧迫された財政回復が……有りますけど」

 

 彼女の萎む声に苦笑が浮かぶ。

 

「あ、はは……手紙は送るから何か有ればいつでも相談に乗るわよ」

 

 それだけソフィア姫に伝え、リアはそのままの足で城下街へと向かう。

 そこでお土産品の菓子折りを買い、村の全員に宛てた手紙を添え故郷に送るのだった。

 そしてリアは、ハーヴェスト行きの馬車へと乗り込んだ──

 


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