魔王と女勇者の共闘戦線   作:藤咲晃

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 夏の熱気が弱まり始めた頃。リアはハーヴェストに到着し、そのままの足で【魔女の治療薬邸】へ足を運んだ。

 すると看板に、『閉店と引越しのお知らせ』と書かれた貼り紙にリアは目を見開く。

 

「えっ、引越すんだ。……場所はアルデバランって」

 

 アンナの引越し先がアルデバラン。この件をフィオナは知っているのだろうか。

 いや娘を大切に想う彼女の事だ、事前に一報入れているに違いない。

 行動力が凄まじいアンナにリアは苦笑を浮かべ【魔女の治療薬邸】を後にし、魔核研究所へと足を運ぶ。

 

 

 相変わらずの研究者達の歓迎を受け、所長室へと向かった。

 そこには既にファウスト博士とセレス所長が、待っていたと言わんばかりに待ち構えていた。

 

「覚悟は良い?」

 

 開口一番に掌に魔力を込め構える。

 結局のところ彼らを処断しようとも、殺害の容疑で自身が捕まる。

 ならば、ナナ達の分まで往復ビンタで済ませようとリアは考えていた。

 すると二人は手を大きく広げ、

 

「僕達にとってそれはご褒美だよ!」

「美少女のビンタなんて、嬉しいに決まっているじゃあないか!」

 

 どうしよう。コイツらはもう色々とダメだ。

 思わずリアは魔力を離散させ、頭を抱え込んだ。

 

「不老化の件で落し前を付けに来たのに……っ!」

「……その件なら既に僕達は処刑判決を受けているよ」

 

 ファウスト博士のなにくれとなく紡がれた言葉に、リアは目を見開く。

 

「如何して? 計画の主導者はギリガン王でしょ」

「ギリガン王に不老計画を吹き込んだのは前所長──私の父だよ。既に不老化の進んだ娘を研究成果としてね」

 

 セレス所長が年齢のわりに成長しない理由が、既に彼女が不老だったから。告げられた真実にリアは足元が崩れるような錯覚に見舞われながらも叫んだ。

 

「……ちょっと待ってよ。それじゃあ私達に不老化を施す意味なんて有ったの!?」

 

 既に完成体が存在している以上、改めて不老を作り出す理由がリアには理解できない。

 

「ギリガン王の要望は老いない強者。つまり君達の不老化はギリガン王の要望だよ……まあ、彼もこの件で事後処理を終えた後に処刑台に立つつもりらしいけどね」

 

 最初から不老計画を主導した者達は死ぬつもりだった。それで不老にされ残された者達はどうなると言うのか。

 

「勝手よ!! 人を勝手に不老にしておいて事が済めば死んで逃げるなんて!」

「……そうだよリア。研究者は勝手なんだ、人の道理や後先のことなって考慮しないんだよ」

 

 ファウスト博士の言葉にリアは、握った拳を放つ。

 しかし、彼の顔に届く前にリアは押し止まった。

 ファウスト博士とセレス所長を殴り飛ばしても何も意味がない。一時的の怒りが晴れるだけで、根本的な解決になどなりはしない。

 むしろ、こう思うべきだ。勇者一行という実験体を最後に不老計画は闇に葬られるべきだ、と。

 

「歴史の闇に葬るのが……あなた達の決断なのね」

「既に父の研究資料もかつての同僚達も闇に葬った。あとは計画に付いて知る我々が消えれば歴史の彼方に消える」

「……それは、どうかしらね。魔法書が欠けた歴史を記し現れる事が有るでしょ?」

 

 ミスト・レディを生み出す事件を書き記したのも、唐突に現れる魔法書だ。

 幾ら闇に葬ろうともいずれは、誰かの手に不老計画が記された魔法書が現れる。

 

「……魔法書を読み解いた人物が、不老計画に手を出せると思えないけどね。不老化には魔族の犠牲が必要だ、もう法律で魔族を害せない時代が来る」

「そうだと良いけど」

 

 いずれメンデル国ではそう言った法律が作り出される。

 だからメンデル国内では一先ずは過ちを繰り返されることは無いのかもしれない。

 そうで有って欲しい。そう願わずにはいられない。

 

「……そう、そろそろ私は行かないと。アルデバラン行きの馬車に遅れちゃうから」

「そうか……ナナ達をよろしく」

「やぁ、これで最後と思うとやっぱり寂しいねぇ」

 

 リアはファウスト博士とセレス所長の最後の言葉を背に、魔核研究所を静かに立ち去った。

 そしてアルデバラン行きの馬車に乗り込み、また長い馬車の旅に身体を預ける。

 

 

 魔族領へ帰還する難民達や新たに移住を希望する者達と出会い、彼らと共にアリエス砦を抜け魔都市アルデバランに到着した頃だった。

 リアが魔族達の歓迎を受けたのは。

 

「おお! リアが来たぞ! 歓迎の準備だぁ!!」

「今夜は祝酒だ!」

 

 妙に浮き足立つ魔族達に何故こんなに歓迎を受けるのか、リアは首を傾げた。

 一人の人狼族の少女が群勢の中から、リアの前に現れる。

 

「わふぅ……全く! 穀物地帯の復興作業に住居増設工事がまだまだ残っているんですからね! それと例の計画に必要な物資の運搬から……こら、耳を塞ぐんじゃありません!」

 

 彼女の鶴の一声に、魔族達は萎縮しすぐさま解散し出した。

 一体彼女は何者かとリアが疑問を向けると、人狼族の少女が尻尾を振りながら笑った。

 

「わたしはレオ様の秘書を努めるテトラと言います。ささ、アルティミア様もお待ちですのでどうぞこちらへ……っ!」

 

 レオの秘書を名乗るテトラにリアは促されるままに付いて歩く。

 旅の最中ギリガン王が発令した人魔戦争終結が決まり、ユグドラシルで行われたアルティミアが調印式へと参加し平和へと歩み出している。

 魔王城へ向かう途中、人と魔族が笑い合い談笑する姿や、力比べに興じる二種族とそんな彼らを暖か見守る天使。そんな光景にリアは漸く平和が訪れたのだと実感を得た。

 

 そして魔王城へ入城し、とある執務室の前でテトラが足を止めると、リアに緊張が走る。

 扉の向こうに居る者達に、柄にも無く緊張している。緊張をほぐすために彼女は話題を振った。

 

「え、えっと……ナナ達の姿が見えなかったけど、みんなは?」

「ああ、彼女達でしたら新居の様子を見に行ってますよ。尤もナナとマキアのお二人はザガーン将軍とロラン将軍から婚約を申し込まれたので、城内に住む手筈になっておりますけど」

 

 判断と決断が早過ぎる。平和になったとはいえ、まだやるべき事が多いというのに。それに自分も好きな人にこの想いを告げたい。

 自身の想いよりもナナ達の朗報に心が幸せに満たされる。

 

 

「わぁ! ナナとマキアが結婚かぁ……! それじゃあ盛大にお祝いしないとっ!」

「えぇ、まあ……もう一人ほど婚約してるお方がおりますが……それはご本人からお聞きした方が速いかと」

 

 そう言ってリアが疑問を浮かべる中、テトラはゆっくりと執務室のドアノブに手をかけるのだった──

 

 

 


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