魔王と女勇者の共闘戦線   作:藤咲晃

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 昼下がりの陽光が室内を照らす中、幾つもの山々の如く積み上げられた書類を処理する白髪の男が、今かと今かと扉に視線を向けていた。

 白髪の男──レオは例え聖剣によって腹部を貫かれようとも死ぬことは無い。

 魔族の凄まじい生命力と魔力によって、腹部を貫かれたとしても致命傷にはなり得ないからだ。

 

「リアが扉の前に到着したようね」

 

 彼の様子を察し、鈴の様な声を弾ませるアルティミアにレオは片腕で書類を処理しながら頷く。

 

「……その様だな」

 

 イタズラっぽく笑う彼女を尻目に、レオは作業の手を止め息を吐く。

 

「……むぅ、やはり集中しきれんな」

「気になって仕方ないのね」

 

 心臓の鼓動が高鳴るのは、リアがすぐそこまで来ているからだ。

 アルティミアに想いを告げ婚約を果たした。後は彼女にもこの想いを告げるのみ。

 魔王としてでは無くレオとして、少女のリアへ宿した想いを。

 そう決意を改めていると、ノック音も無く扉が開かれた。

 

「おい、ノックの一つぐらいはしろとアレほど」

 

 苦言を申すと尻尾を振りながらテトラが笑みを浮かべ、

 

「さあリア様……どうぞ中へ」

 

 困惑を浮かべるリアを室内へ押入れ、テトラは疾風の如く退散。

 一人でに閉まる扉の音が響く中、静寂が室内を包み込む。

 何から話せば良いのか、脳内で思考していた全てが消え去った。

 これは非常に不味い。そう助けを乞うためにアルティミアに視線を向けると、彼女は満面の笑みを浮かべリアに視線を向けていた。

 

「久しぶりねリア。元気だった?」

「えっ、ああ……うん。変わりは無いけどさ……そ、その……れ、レオとアルティミアも元気だった……?」

 

 挙動不審ながらもそんな事を言い出す彼女に、アルティミアは微笑む。

 

「えぇ、元気よ。レオに至っては書類仕事ばかりで退屈そうだけど」

「大事な公務だ、退屈などと言うな」 

 

 書類仕事は退屈なのは事実だが、これも魔王として必要な公務だ。

 

「そう、なら良かったわ。ところで私を呼び付けた要件ってなに?」

 

 レオは重々しく息を吐く。決断の時が来たと。

 そして彼は、机の引き出しから小さな箱を取り出した。そして、

 

「リアよ……俺の伴侶になる気はないか?」

 

 思考していた告白とは裏腹に、拙い言葉にレオは失敗したと内心で焦りを浮かべる。

 するとリアは顔を伏せ……彼女は歩き出した。

 彼女の様子にレオは緊張から息を呑んだ。ビンタの一つでもされるのか、と肩が強張る。

 やがてリアが顔を上げると。彼女の頬は赤く染まり、太陽の様な微笑みレオに向け、

 

「わ、私で良ければ……そ、その想い……う、受けるわ」

 

 返された応えに、レオは小さく笑い箱から太陽をモデルに作成した指輪を取り出し彼女に手渡す。

 

「綺麗な指輪……太陽みたいね」

「お前は俺にとっての太陽だ。求めていた温かな光で照らす……あの太陽の様な笑顔が魅力だったからな」

「あっ……でもアルティミアは? 彼女だってレオの事を……んっ?」

 

 そういえば、レオの事を様と敬称を付で呼んでいたアルティミアがレオを呼び捨てにしていた、と彼女の呟きに二人は笑う。

 

「くっ……ふふっ、鈍いのか鋭いのか……お前は、どっちなんだろうな」

「そこがリアの可愛いところよ。……ああ、あなたの疑問の答えだけどね」

 

 アルティミアは薬指に嵌めた、月をイメージして作成された婚約指輪をリアに見せる。

 すると彼女は口元を抑え、

 

「お、おめでとうアルティミア!」

 

 我が事ながら喜びを顕にする彼女に、レオは心の底から溢れる温かな想いに手を当てた。

 ああ、彼女を伴侶の一人に選んで良かった、と。リアとアルティミアの二人ならば、きっと自身を支え欠けた物を埋め合わせてくれる。

 その分だけ自身は不器用ながら愛するために努力しよう。

 

「……しかし、俺が三年前に出会った少女に愛おしいと想う日が来るとは、やはり人生とは不思議なものだな」

「それを言うなら私だってそうよ。三年前にあの街で出会った魔族の男性を……愛する日が来るとは、ちょっとまだ実感が湧かないかも」

 

 すぐに実感が湧く物でもない、こういうものは時間が解決する事柄だとレオは思う。

 ただ、改めて決意が固まる。婚約を結んだ以上、魔界再生計画を生きて完遂させる決意を。

 

「時間がゆっくりと解決してくれるけど……私も夜の営みはまだなのよね……今度二人で寝込みを襲う??」

「ね、寝込みって……でも私とアルティミアなら勝つわね??」

 

 良からぬ事を公言するアルティミアとズレた事を言うリアに、レオは愛しむ様な笑みを浮かべながら、

 

「全くお前達は……大体アルティミアよ、俺達にはまだやるべき事が残っているだろう」

「二人のやるべきことって?」

「魔界再生計画……魔界の空に太陽を取り戻し、魔狼スコルを討伐することで完遂する計画。それと並行しての移住計画」

 

 アルティミアの言葉にリアは息を呑む。

 魔族の戦いはまだ終わらない、いや始まったばかりなのだと。

 

「お前にも力を借りたいところだが……魔界の環境は──」

「魔界の生物以外を拒む……でしょ? レオとアルティミアが魔界のために動くなら、私はこっちであなた達を支えるために戦うわ!」

 

 リアの決意にレオとアルティミアは微笑んだ。

 人間界はリアに任せ、自分達は魔界に集中できると。

 本格的な計画実行の前に、彼女達と訪れた平和を謳歌するのも悪くはない──セオドラと交わした約束を漸く果すことができた。

 レオは椅子から立ち上がり、

 

「……此処から俺達の共存を始めよう」

 

 リアとアルティミアと共に歩み出すのだった。

 




これで本作品は完結となります。
最後まで読んで頂き感謝の言葉しかありません。
なお続編を現在執筆中ではありますが、恐らく投稿は年内以内にはやる(・_・;

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