魔王と女勇者の共闘戦線   作:藤咲晃

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 海を照らす太陽の光、穏やかな波が絶好の船出日和だと語る。

 積荷を詰め込み出航の手筈を整える白鯨海賊団は、デッキの清掃に勤しむレオとリアに眼を向けた。

 出会いは五日前。拠点に財を置き新たな旅の出発点とするはずが奇妙な縁が重なった。

 レオは海賊の父親達の代から世話になったペンゾウが仕える主に辺り、そして島そのものだった陸喰いランドタートルを討伐したのが彼ら。

 聞けば二人は、バルディアス大陸を騒がす魔王と勇者なのだから衝撃が大きい。

 海賊の中でも未だ彼等が噂の人物とは信じられない者が少なからず居るのが実情だ。

 

「恐ろしい魔王が意気揚々と清掃に励む姿って……俺は歴史の影を垣間見た気がする」

「後の魔王レオ伝記なんかで語られそうで語られない一説か? それにしても敵対者の筈であるリアちゃんと普通に接してる姿ってのも異様だな」

 

 掃除の傍ら談笑しては、リアが晴れやかな笑みを浮かべる。

 それが戦争を間接的に知る者から見てもどれだけ異常な光景なのか。

 下手をすればリアが国家反逆罪に問われかねない。フルフェイス仮面の下に隠された素顔を知っているのなら。

 

「魔王レオの素顔……面構えの良い男だったな、普段はあんなダサい仮面を装着してるのは、情勢のせいってのも有るんだろうけど」

「お頭と並ぶとレオの身長は小さく見えるが、お頭は二百センチを超えてるからなあ」

 

 加工したカメの肉を詰め込む中、海賊の一人が目敏くレオがゴブリンから魔核を受け取るのを見逃さなかった。

 彼等は遭難した客として船に乗り込む。詳しい事情はグランバとカトレが知っているが、相手は魔王なのだから警戒するに越した事はない。

 そんな時だった。レオとリアがグランバとカトレに連れられて船内に入って行ったのは。

 

 

 レオとリアが通されたのは、グランバの船長室。

 壁には白鯨海賊団の象徴とも言える白鯨が描かれた海賊旗と数本のサーベルと銃が飾られている。

 中でも一際眼を引くのが海図だ。

 レオとリアは把握している地図を浮かべ、少なくともバルディアス大陸付近の海図ではないと判断した。

 

 船長室に置かれた椅子に腰掛けたグランバが、ゆっくりと口開く。

 

「航海の予定だが、お前さんらをバルディアス大陸の港町に届けるだけで良いんだな?」

「ああ、それ以上は何も望まないさ。何せ今の俺達には払う代価が無いんだ」

 

 払う代価の代わりに労働力として働く事でレオとリアは船に乗せて貰った。

 船内の清掃もその一環に過ぎない。

 

「代価ならランドタートルの肉で事足りるんだけどね……いえ、寧ろ多過ぎるぐらいよ」

 

 カトレが苦笑混じりに零す、するとリアが首を横に振る。

 

「それ以前に私達はログハウスを無断使用してるわ、レオに至ってはフルフェイス仮面を無駄拝借してるからそれとこれは別問題よ。……あと、ログハウスの食料も結構食べてたし……それに私とレオはかなりの量を食べるから」

 

 何かを得て、何かを返さなければならない。それが人による物であればなおさらだ。

 

「真面目ね、リアが勇者だからかしら?」

「違うよ、私がそうしたいからそうしてるだけ。勇者は関係無いし、心を偽ったら剣が鈍るもの」

 

 心を偽り誰かを殺したくは無い。偽ってまで殺してしまえば、それは国にとって都合の良い兵器と同義だからだ。

 剣とは心のままに、誰かのために振るうべきものだからこそ真価を発揮する。

 カトレは心を欺き、殺戮人形に身を堕とした人物を知っている。

 

「心を偽る。そうね、それは偽っちゃいけないわね」

 

 昔を思い出し、感傷的な表情を浮かべるカトレにグランバは咳払いした。

 

「……まあ代価云々は置いといてだ。バルディアス大陸に到着するにも長い船旅になる、その間海賊共と一戦交えるだろう、途中島に寄る事だって有るが──」

 

 グランバが、『大丈夫か?』、と言い終える前にレオが話す。

 

「魔物から得た魔核が有れば自分の身は自分で護れるさ」

「今は魔力が無いから凄く弱いけど、魔力さえある程度回復すれば大丈夫よ。……でも、変に期待させると悪いから言っておくね、私とレオは普段は激烈に弱いって事だけは覚えておいて」

 

 恥ずかしげも無く真っ直ぐな瞳で今の自分達は弱い、そうはっきりと語るリアにカトレが微笑む。

 強がらず無理をしない。できることとできない事を把握している。同時に現状を正しく認識し、隠さずに伝え頼る事を知っている。

 それができる人間はどれだけ居るだろうか。

 リアの様に真っ直ぐで頼る事ができる人は一体どれだけ居るのか。

 カトレは強がり無理をして散っていた海賊達を知っている。

 如何に人間は個々では無理で力及ばずなのか、嫌と言うほど理解しているからこそ、リアの姿勢は頼もしいと思えた。

 

「旦那もこれぐらい素直だったら可愛げがあるのにねえ?」

「……男が惚れた女の前で弱音を吐けるかよ」

 

 不貞腐れ気味のグランバにカトレは愛しみの眼差しを向けた。

 

「話は終わりか? 終わりでいいな、終わりだな! 俺とリアは清掃の続きが有る故、これで失礼させて貰う」

 

 見てるこっちが恥ずかしくなる様な熱烈な夫婦愛にレオは、退散を選択す。

 しかしグランバが呼び止める。

 

「待て待て! 何も航海の予定の話だけじゃあない! お前さんらは白鯨海賊団の客人だ、二人の眼で見て俺達がどんな海賊なのか理解してくれ……話は終わりだ」

 

 海賊がどんなものか、金品を略奪する賊。

 レオとリアはそう認識して、略奪行為に力を貸すつもりは無かった。

 尤も相手が海賊ならば話は別だ。身を護るために戦うのは至極当然なのだから。

 しかし一概に海賊を賊と決め付けるのも早計、自分達は白鯨海賊団に関して何も知らないのも事実。

 

「そうか、ならばゆっくりと海賊に付いて観察させて貰おう」

「私とレオもしばらくお世話になるわ、だから必要な時はいつでも呼んでね」

 

 そう言ってリアが先に船長室から退室すると、レオがピタリと足を止めた。

 グランバとカトレはどうしたのか、と目を向けると。

 

「……なあ、こんな事を頼むのも筋違いかもしれんが──」

「まだ出航までに猶予は有るが話を聞こう。女の口説き方からいろいろと相談に乗るが?」

 

 リアが一人退室したタイミング。グランバとカトレは恋愛絡みかと考えた。

 魔王が人間、それも勇者に恋する。しかし船員の誰が見てもリアは美少女だ。

 内面も包み隠さずハッキリと言え、物怖じしない態度に好感を持てる。ただ、それは相手の立場によっては、危うい一面でもあるだろう。 

 海を旅する白鯨海賊団にも、戦場で聖剣を振るう姿が戦乙女と評される程美しいとも伝え聞いている。その為敵であるレオがリアに惹かれる要因になったと二人は推察していた。

 

「口説く? ……いや、そうじゃあない。頼みというのは他にでもないリアに関してだ」

「男連中を寄せ付けないとかかしら?」

「ん? いや、彼女にはどうも羞恥心が欠如してる様でな、カトレにはその辺りを教育してやって欲しいのだ」

 

 恋愛絡みとは程遠い。しかし淀みのない真っ直ぐな声にグランバとカトレは困惑を隠せず、

 

「……魔王と勇者は敵対関係だろ? それが何故世話を焼く様なマネを……」

「リアがかわいい女の子なのは理解してるけど、羞恥心を教えるってその必要は有るのかしら?」

 

 上擦った声で尋ねた。

 

「二人の疑問は至極当たり前だ。……だが、リアとは今後共に行動する上で余りにも羞恥心に無知で無警戒のアホでは、俺が非常に困るのだ」

 

 心底深いため息を仮面の中で吐き出す彼の姿に、二人はより一層強い困惑を浮かべた。

 しかし男が多い船内で生活する以上、羞恥心が無いのも大問題だ。

 船内の秩序を護るためには必要な事かもしれない。特に白鯨海賊団には女性船員は"カトレだけ"でレオが頼りたいのも理解ができる。

 

「それはカトレの専売特許だがな……因みにどれぐらい無知なんだ?」

「男の前で平然と服を脱ぐ程にはだな」

「理解したよ。リアに関してはあたしに任せて貰うわ」

「助かる! この借りはいずれ必ず返させて貰う!」

 

 そう言ってレオは船長室から退室し、程なくして白鯨海賊団は島にゴブリンを残し出航した。

 これからレオとリアの長い航海の旅路が始まる。

 

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