「ぐぅ!?」
「うぁっ!?」
背後から腹部を貫かれた二人に苦痛と酷い脱力感が襲う。
鎖を通して身に宿す魔力と力が吸われていく。
そう理解した時、既に襲撃者はレオとリアから全ての魔力と力を根こそぎ奪っていた。
襲撃者の体に、魔王と勇者から奪った魔力が解け合い混ざり合う形で一つの魔力として宿る。
引き抜かれる鎖、凄まじい脱力感にレオは立つ事も出来ず地面に片膝を折る。
リアは腹部を貫かれた苦痛から意識を失う。
そして変化は二人の持つ武器にも及ぶ。
漆黒の禍々しい魔力を纏っていた魔剣。
聖なる輝きを放っていた聖剣。
二本は酷く錆び付いてしまい、ただの鉄屑に変貌していた。
レオの紅い眼光が襲撃者を鋭く射抜く。
二人から奪った魔力に満足顔で見下す襲撃者の姿が映り込む。
本来居るべき筈が無い人物にレオは一瞬、唖然とした。
その者に彼は見覚えがあり、勝負に水を差された怒りがレオの中で煮え沸る。
「……はあ、はあっ。……大天使ルシファー! 貴様ああああッッッ!」
声を震わせ吠えた。
「おお、怖い怖い。吠えるな魔王。なぜ我がこの場に居るのか、不思議でならないようだな」
「天界は此度の戦乱に介入しないはず……!」
「正確には"天界の兵士"はな。魔界の王ともあろう者が我々の策略を見抜けないとは情けない」
ルシファーの言葉にレオは言い返さず喉を鳴らした。
耳に届く、廊下から駆け付ける複数の反響音。
近付く複数の足音に冷や汗が流れる。
隣には魔力を失い、気を失いながら腹部から出血するリア。
レオは指先一つ動かすのがやっとの状況。
レオに焦りの色が浮かぶと、ルシファーが上機嫌に笑う。
「いやあこれは困った! 実に困った! 実力主義者の魔族が、魔王が力を失ったと知れば彼等はどんな行動に出るのか、我でも少々予想がつかぬなあ……!」
「ぬ、ぬかせ。……貴様、魔族が見境も無く謀反に走ると踏んで、俺だけに飽き足らず勇者の魔力も奪ったな……! その目的はなんだ!」
大天使ともなれば魔族の貴族達よりも破格の魔力をその身に宿している。
それこそ人間は蟻同然の生物なほどに。
レオにはルシファーの目的に予想も付かない。
魔力を奪って、その魔力をどうする気なのか。
他者から奪った魔力をその身体に取り込んだところで、奪った魔力は徐々に自然消滅する。
逆に奪われた魔力と力は人体に備わる魔核によって徐々に回復する。
それは三界世界に生きる生物の理であり絶対的な法則だ。
しかしレオは違和感に気がつく。
自身の魔力が一向に回復する素振りを見せないことに。
魔族であるならば、少量の魔力なら数秒と経たずに回復する。
半日もあれば全快するほど魔族は魔力生成量が高い。にも関わらず一向に魔力が回復しないのはなぜか。
疑問を浮かべるレオを見下すルシファーが。
「あれこれ思考しているようだがな、答える必要は無いだろう? これから死ぬかも知れん者に情報を与えるほど我は甘くない」
勝ち誇った彼の言葉を境に、広間に魔族達が駆け付ける。
「ま、魔王様?」
「……おい、魔王様から魔力を感じないぞ……!」
「本当だ……何故かは知らんが魔力を感じない。……なあ、これは、ひょっとして……」
「ああ、この中の誰かが魔王に成り代わる絶好のチャンスだ……!」
武器を握り締め、徐々にレオに躙り寄る魔族達の姿に、レオは心の底からため息を吐く。
思考回路が戦闘と力の二色の脳筋に呆れ言葉も出ない。
レオはこの状況を打開した後、徹底した魔族全土における意識改革を実行すべきだ、と内心で決意する。
詰め寄る魔族達にこのまま倒されるわけにもいかない。
そう判断したレオは、懐から小石サイズの宝石を取り出し床に落とす。
掌から落ちた宝石が床に落ちると、床に溶け込む様に消えた。
「……ルシファー。貴様は俺と勇者の決着に泥を塗った、それにだけに飽き足らず平和の道筋を遠のかせた! その行いは万死に値する……!」
レオとその近くで気を失っていたリアが、床に現れた転移陣に包まれ始める。
「ほう? 負け惜しみとは魔王としていよいよ落ちぶれたな。……ふむ、これはこれは……」
何か呟きを始めるルシファーの姿に、レオは訝しげに睨む。
「これからは俺様が魔王だああああー!」
そして近付いた魔族が雄叫びとともに、レオの首を討ち取ろうと剣を振り下ろした。
その瞬間──レオとリアは忽然と広間から姿を消した。
その場に残された者達は困惑に暮れる者と嘲笑う者だけ。
おお〜魔王と勇者よ! 奇襲を受けるとは情けない!
今作品は王道のライバル同士が強敵に立ち向かうをコンセプトにした作品となります。