魔王と女勇者の共闘戦線   作:藤咲晃

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3-2

「野郎ども! 砲撃用意! 当てるなよ」 

 

 グランバの怒声が甲板に響く。

 砲手達は砲身が敵船の左右の海面に向けて、標準を合わせた。

 大砲に魔力を込め、

 

「ようし! 撃て撃てえええ!」

 

 砲身から圧縮された魔力の砲弾──魔砲弾が海面に落着し、大きな水飛沫をあげる。

 敵船は仕返しと言わんばかりに砲身を向け、魔砲弾を放つ。狙いは正確で直撃コース。

 

「カトレ、跳ね返してやれ」

 

 飛来する魔砲弾にカトレが両掌を向け、

 

「《盾よ、力強く、打ち返せ》」

 

 防御魔法──【ラウンド・シールド】を唱えた。

 円卓の盾が船の前方に展開され、敵の魔砲弾を弾き返した。

 弾き返された魔砲弾は、敵船のメインマストに向けて飛来し、メインマストの上部をへし折り敵船の後方の海面に着弾した。

 海戦によるメインマストの破損は、船の推進力を喪うと同義。

 

「このまま全速前進! 敵船に乗り込むぞ……!」

 

 グランバの怒声伴う指示に船は、真っ直ぐと敵船に向かう。しかし敵船も近付けさせまいと魔砲弾による牽制射撃を繰り出す。

 だが、操舵者の鮮やかな舵捌きが軽々と飛来する魔砲弾を躱していく。

 

 レオとリアから感嘆の息が漏れる。

 海賊同士の海戦、グランバの見事な指揮。経験の無い素人から見ても分かる練度の高い一団。

 正規の軍隊とは違い、彼等は自ら考え戦術を編み出す。それがどれだけ難しい事か、ましてや天候と風向きに左右される海上戦で最適解を瞬時に導き出す手腕が問われる。

 

 そして、レオとリアを置いて両海賊団の激突は激しさを増す一方だ。

 敵船に隣接した白鯨海賊団が、マストのロープから次々と敵船に移り込む。

 防衛に残った海賊達が、レオとリアの周囲で護りを固める。

 

「お二人さんはここで大人しくな」

「そら、奴さんのお出ましだ!」

 

 海賊の言葉を皮切りに、敵船からブラックホーク海賊団が乗り込み、サーベルを片手にレオ達に突っ走る。

 

「よくも船を傷付けてくれやがったなあああ! 白鯨海賊団!」

 

 サーベルを振り抜く敵海賊に海賊の一人が銃口を向ける。 

 

「さよならだ」

 

 一言発した海賊は引き金を引き、銃口から魔弾が発射され、敵海賊の頭部を容赦なく撃ち抜く。

 一人の敵海賊の死を皮切りに、敵海賊が次々とサーベルで斬りかかる。

 それに対して白鯨海賊団の海賊達は、冷静にカトラスで刃を受け流し、サーベルを弾いていく。

 弾かれたサーベルが虚しく甲板に突き立つ様子に、敵海賊の額から汗が噴き出る。

 背を向ければ魔弾が、組みかかればカトラスで斬られる。ならばどうするか。魔法を唱えるより速く魔弾が頭部を撃ち抜くだろう。

 ブラックホーク海賊団は一様に周辺に目を向ける。すると、そこにレオとリアの姿が映り込む。

 

 魔力が感じられない二人。白鯨海賊団に守れている姿を見るに戦う能力が無いのだろう。

 無力な二人を人質に取るには、先ずは目の前の海賊達を排除しなければならない。それは本末転倒だ。

 今までは魔砲弾を船体に喰らわせ、混乱に乗じて襲撃してきた。しかしブラックホーク海賊団は、今まで経験になかった状況に追い込まれている。

 敵海賊が攻められず、かと言って後退もできない状況に陥っていると。

 ブラックホーク海賊団の船から狼煙が挙がった。それは正に彼らを袋小路から脱出する合図だった。

 

「撤収の合図!? くそ! 何も出来ずに撤収かよ!」

「こっちとら数々の商業船を襲ってきたってのに!」

「こんな義賊紛いの海賊に敗走するなんて!」

 

 逃げる敵海賊達は、そう吐き捨て海賊船に引き返す。

 それと入れ違う形でグランバ達が甲板に降り立った。一人の少年と数々の戦利品を手土産に。

 

 

 撤退するブラックホーク海賊団を遠目に、レオは気を失う少年に目を向けた。

 

「その子は?」

「こいつはメルディア島の子供だ。確か──」

「カリムよ。メルディア島はあの海賊達に襲われたのかしらね?」

「掠奪ついでに連れ去られた。……連れ去れたのはカリム一人だけなのか?」

「いや、ブラックホーク海賊団の船長曰く、海を小舟で漂流している所を捕まえたそうだ。前から海賊に憧れちゃあいたが、まさか小舟で島を出るとはな、中々見込みがあるじゃないか」

 

 カリムの度胸と勇気にグランバが笑みを浮かべる。

 

「それも気になるけどね、こっちの()()()()()()()()

 

 カトレが取り出したのは丸められ封がされた羊皮紙

 一塊の海賊団が手にするにはあまりにも質の良い羊皮紙だ。

 そして一番眼を惹かれるのが、大鷲が刻まれた封だ。

 大鷲を象徴として扱う国家は少なくともバルディアス大陸には存在しない。

 バルディアス大陸外の国家からの親書であるのは明白。

 

「とんでもないお宝を持ち帰ったようだな」

「問題は何処の国がどの国に宛てたのかだ」

「ああ、この象徴はエンドラス王国ね。ガルディアス大陸の国ね」

 

 カトレが一眼で象徴を言い当てる様子に、

 

「詳しいな」

 

 レオは感心の眼差しを向けた。

 

「海を旅してると色んな国の商業船を助けることが多いのよ。でも、船長であるアナタが忘れるのはねえ? その様子じゃああたしの故郷の象徴も忘れてそうね」

「……あの大陸は国が多いんだよ! それに妻の故郷ぐらいちゃんと憶えてるさ。国名はクルゾナ、象徴はスズランだろ」

「あら、ちゃんと憶えてたのね」

「クルゾナ? 数年前に姫君が船旅の最中、海賊に攫われたと風の噂で聴いたな。以来第一王子が国を纏めているとも」

「……あー、その話は良いだろ」

 

 あまり話したくはない事なのか、グランバは眉を寄せ話題を切り替えた。

 すると大人しくカリムの様子を見ていたリアが、

 

「それで親書もそうだけど、この子はどうするの?」

「メルディア島に送り届けるさ。丁度バルディアス大陸の航路上に在る島だ。どの道島には食糧補給のために寄る予定だったからな」

 

 グランバの言葉にレオとリアは頷く。

 詳しい話はカリムが目覚めてからとなり、海賊から奪った財宝を山分けすることに──

 


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