山分けされた財宝の中には魔物の魔核も有り、レオとリアはソレを貰い受けた。
ついでに金銭の持ち合わせがない二人に、海賊達が気を利かせてスピリア硬貨を持たせた。
バルディアス大陸のメンデル国で扱われている硬貨がスピリア硬貨だ。
大きさ九センチに中心に天秤が刻まれ、銅、銀、金の三種類の硬貨が有るが、何度も燻して使い回しているため他国の硬貨と比較すると価値が低い。
戦争の弊害はいつも民に向けられる。だから平民の貴族と騎士に対する当たりが強い。
船内の医務室の中で漏れたため息に、レオが顔を向けた。
「悩み事か」
「うーん? 戦争の弊害はいつも民が負うんだなあって改めて認識したところ」
ベットで眠るカリムの様子を見ながら答える。汗ばむカリムの汗をタオルで拭き取る。
「道理では有るが、一国を治める者として頭の痛い話だ。……と、どうやら目覚めのようだぞ」
「……うぅ……く、来るなあ……っ!?」
魘されていたカリムが目覚め、周囲を見渡しレオとリアに気が付く。
「……っ!? か、かわいい女の人と……なんだ! その怪しい仮面は!?」
リアに見惚れ、仮面を装着しているレオに驚く。
なんとも忙しい少年だ。
「だってよレオ?」
「やれやれ、このセンスの良さを理解できる者はグランバとペンゾウだけか」
「えっ? グランバとペンゾウ……!? もしかしてここは白鯨海賊団の船!」
「そうよ。私はリア、こっちがレオね」
リアはレオに手を向け、カリムは二人の名を記憶する。
島でも見ない可憐で華奢な女の子のリア。フルフェイス仮面に細身長駆の怪しさ全開のレオ。
カリムの目から見ても二人の組み合わせは、不思議なものだった。
「……オイラはカリム。……そうだ! 悠長に挨拶してる場合じゃなかった! 島の皆を助けて欲しいんだ……!!」
カリムの慌てる様子に、レオとリアは顔を合わせた。
「ふむ。急ぎの様子のようだが、グランバと話をするべきだろう」
「立てる? 手貸そうか?」
目覚めたばかりのカリムを気遣うリア、しかしカリムは差出された手を突っぱねて、ベットから降り立つ。
そのままドアまで歩くと。
「急いでるんだ、速くグランバの所に連れて行ってくれ!」
「さすが男の子ね、元気が良い」
二人は詳しい話を聞くべく、急ぐカリムを連れて船長室へと向かう。
「目覚めたかカリム。って、随分慌ててるな」
「グランバ! オイラの島を助けて欲しいんだ! そのためにオイラは小舟で海に出て……!」
「落ち着け、島に何が有った?」
グランバの論ずる声に、カリムは荒げた呼吸を整え、ゆっくりと語り出す。
「……数日前。オイラ達はいつも通りリヴァイアサンと共存しながら漁に出てたんだ。そしたら空から天使が舞い降りて……ソイツがリヴァイアサンをおかしくしちまったんだ!」
天使という聞き捨てならない言葉にレオとリアは眉を寄せた。
帰還途中の旅で天使が事件を起こした、天使の気紛れか、それとも。
「……天使? ソイツは何枚羽だった?」
「六枚だった! 六枚羽の天使! ソイツ、リヴァイアサンの額に変な結晶体を埋め込んで、それからリヴァイアサンが島の付近で暴れるようになったんだ」
「六枚羽の天使……大天使か。ルシファーであれば当たりだが、同時に最悪でも在るな」
「魔力が回復しない状態でルシファーと遭遇したら、勝てないもんね。というか大天使は何が目的でリヴァイアサンを? そもそもリヴァイアサンって魔物だよね」
「リヴァイアサンは確かに魔物だけど……他の魔物と違って優しいんだ。オイラも昔海で溺れた時に助けて貰った事だって有るんだ」
島のゴブリンの様な優しい魔物が他にも居た事にレオとリアは驚く。
「リヴァイアサンか……カリムは白鯨海賊団にリヴァイアサンを止めて欲しいってことか」
「当然だよ! リヴァイアサンはもう島の家族同然なんだ……!」
魔物を家族同然と断言するカリムの姿は、大人顔負けの風格を醸し出していた。
彼の様子にグランバは笑い、
「どの道島には寄る。相手はリヴァイアサンだが正気に戻すってだけなら、まあ何とかなるだろう」
「ふむ、話を聞く限り額に埋め込まれた結晶体とやらが怪しいな」
「それを砕いたら解決かな? 魔核も補充できたから今度は私とレオも戦力として数えてよね」
「良いだろう。今回もレオと嬢ちゃんの力が必要になりそうだ。……カリム、島に到着するまで三日は掛かる、それまでの間は大人しくしててくれよ? お前さんに何か有ればオヤジさんにドヤされるからな」
「……父ちゃんにドヤされるのは多分オイラだよ。父ちゃんの拳骨は死ぬほど痛いから」
遠い眼をしたカリムの様子にグランバが苦笑を浮かべる。
「ああ、心中察するよ」
帰ったら父にドヤされると分かっているカリムは、大きく肩を落胆させた。
ふと淡々とカリムの様子を観察している様なレオの姿に、リアが小首を傾げる。
仮面のせいで表情が判らないが、釈然としない、理解が及ばない事柄に直面した様な様子。
どうしてそんな理解できない者を観察する様子を見せるのか。
リアはこっそりと、彼の服の袖を引っ張り、
「ねえ、どうしたの? 様子が変だよ」
背伸びしてレオの耳元で囁く。
すると彼は、ぐぐもった声で小さく。
「"家族"という概念が理解できんのだよ」
寂しい事を淡々と告げた。
魔族は"家族"を作り生活を営む事をしない。"家族"を作るのは魔界貴族か少数派だけだ、とリアはフィオナの母から聴いた事が有った。
魔族の子供は、物心付いた頃に捨てられ育つのだとも。
だからレオは目の前のカリムと彼の父の愛情に付いて理解しようと悩んでいるのだ、とリアは直感的に判断した。
「レオは今の魔族を変えたい?」
「種と魔界を護るためならば変えねばならんよ。……ああ、しかし難しくも有るが、それはそれで価値があるのだろう──」
「だが、今は目の前の事に集中すべきだな」
レオは魔王らしく無い優しい声でそう語った。
「……あの二人は先から何の話してるんだ?」
「さあな。まあ、色々と有るんだろうから深入りはするなよ」
カリムは微笑むリアの姿に釈然としないながらも、グランバの言葉に頷いた。
その後グランバはカリムを船長室から退出させ、レオとリアを交え作戦を考案するのだった。