魔王と女勇者の共闘戦線   作:藤咲晃

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 メルディア島に近付くに連れ、それは起こった。

 唐突な嵐に荒狂う海。操舵手は船を転覆させまいと、舵を切る。

 激しく揺れる船体に、

 

「荒れてるな」

「海って荒れ易いって聞くけど、さっきまで晴れ渡っていた青空が嘘のようね」

 

 レオとリアは近場の手摺りに捕まっていた。  

 激しく揺れる船体から身を守るため、各々手摺りに捕まり耐える。手離したら最後、揺れに体が取られ壁に弾かれる事となる。

 

「リヴァイアサンは魔法で天候を操るって聴いた事がある」

 

 カリムが呟く。

 その話が本当ならリヴァイアサンと船で対峙するのは得策とは言えない。

 そういえば、グランバは作戦会議の折、『恐らく船は役に立たねえだろうな。出来ることは魔砲弾による援護射撃ぐらいか』と。

 

「でも、リヴァイアサンが天候を操る魔法を使うのは外敵を寄せ付けないためだって」

「ふむ、外敵か。……兎も角この嵐を突破すればメルディア島なのだろう。先ずは無事に辿り着いてからだな」

「そうね。無事に事が終わったらメルディア島の"花園"も見てみたいし」

「そ、その時はオイラがリアを案内するよ!」

「それじゃあ、その時はよろしくねカリム。あ、レオも"花園"見に行く?」

「ああ」

 

 短く答えるとリアが笑う。カリムが若干不貞腐れ気味だ。

 カリムが不貞腐れたのは、リアに良い所を見せたいという想いから来るのだろうか。彼の初恋という感情がそうさせるのか。

 なんとも不思議な感覚だ、とレオは仮面の下で笑う。

 

 これからリヴァイアサンを止めるというのに呑気だ。そう彼等の会話を近場で聴いていた船員が思う。

 カリムのリアに対する初恋は、半ば周知の事実となっている。しかし幸か不幸か、リアはカリムの想いに気付かない。

 鈍感というより天然で躱していると言った表現が正しいか。

 もちろん、白鯨海賊団もリアにアプローチを試みた者達が居る。彼等は宝石類でリアの気を惹こうとしたのだが、『えっ!? そんな高価な物は受け取れないわ! そういうのは心から愛した人に贈るべきよ』と返されたそうだ。

 無惨に散る船員達にリアは、小首を傾げたという。

 

「ふむ。カリムよ、腕は辛くないか?」

「全然平気だよ!」

「私はもう限界なのに、流石は男の子ね」

 

 見ればリアの腕が震えている。今にも手を離してしまいそうな程に。それはレオも同じだった。

 腕の筋力が限界を迎え、今にも脱力してしまいそうな程に。

 

「……やはり魔力が無ければ無力だな」

「……本当よね。世界から魔力が消えたら人類滅亡しちゃう」

「えっ? 二人は一体なにを言ってるのさ」

 

 二人の腕力が限界を迎え、遂に手摺りを離す。その時だった。

 揺れが止み、船体が安定したのは。

 

 

 甲板に出ると晴れ渡る青空が、船体を照らしている。

 そして目的地のメルディア島が視界に映り込む。

 船の残骸と思われる破片、人の水死体が波に流される様は、少なくともリヴァイアサンによって齎させれた被害だと推測できる。

 

「リヴァイアサンの影は無い様だな」

 

 肝心のリヴァイアサンの姿が見えない。痛む手首を摩るレオに、カリムは焦りと不安を隠しながら呟く。

 

「もしかしてレオってオイラより非力? リアは女の子だから分かるけど──」

 

 カリムの平静を装う姿が傷ましく見える。それでもレオには掛ける言葉が無く、敢えて彼の軽口に乗った。

 

「否定はしないが、一度魔力切れに陥ればこの辛さも理解できよう」

「はあ、年下の男の子に非力扱いされる私って……存在価値皆無じゃない」

 

 甲板の手摺りに、手を掛けるリアの哀しげな声が響く。

 彼女の様子にカリムは慌てる。

 

「だ、大丈夫! リアが非力でもオイラが守るから」

「えっ〜? 私はカリムに守られるほど弱くないわよ。今は凄く非力だけど」

 

 カリムの気遣いが空振りに終わる様子に、レオはため息を吐く。

 

「難儀だな」

 

 カリムには彼女が勇者である事を伝えてはいない。少年の夢を壊したくないリアの頼みも有ってだ。

 しかし仮にリアは勇者だ、と伝えた所でカリムは信じないだろう。

 今のリアは非力な少女でしか無く、カリムもそう信じ切っている。ならば行動で示すしか他に無いのだ。

 二人の様子にレオはそんな事を思っていると、

 

「お頭が上陸するから準備しておけってさ」

「うむ、承知した。……ところでペンゾウはどうした?」

「アイツは……」

 

 甲板に集まる船員の中にペンゾウの姿が見えず、尋ねると彼は浮かない表情を浮かべた。

 ペンゾウに何か有ったのか、とレオに緊張が走る。

 

「ペンゾウは……倉庫の床にクチバシが刺さって動けなくなってる」

 

 ペンゾウのあんまりな状態に、レオは天を仰ぎ見た。

 

「くだらぬが、ペンギン族にとっては死活問題か」

「いま何人かが、ペンゾウを引っこ抜こうとしてるらしい。クチバシが折れないといいけどな」

 

 冗談を飛ばす船員にレオは小さく笑う。そして上陸の準備へと移る。

 近くに僅かな魔力の残滓を感じ取りながら──

 


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