魔王と女勇者の共闘戦線   作:藤咲晃

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 夜空に浮かぶ星々が輝く下では、メルディア島で宴が開かれていた。

 島民達がリヴァイアサンを救ってくれた白鯨海賊団とレオとリアに感謝の意を示して。

 村の広場に造られた焚火を囲み、踊り子達がメルディア島の伝統の踊りで場を盛り上げる。

 中には宴会芸と評し、グール顔で現れる船員に島民だけでなくレオとリアは度肝を抜かれた。

 

「アッハッハッ! どうだい? 本物そっくりだろう」

「驚いたな、変身魔法か?」

 

 レオの質問に船員は胸を張り、得意げな顔で語った。

 

「違う違う。コイツは特殊メイクさ……変身魔法だと看破の魔法で見抜かれるだろう?」

「確かにそうだな」

 

 レオは思う。彼の技術は様々な面で大いに役に立つと。

 まず魔王城で毎年十二月に開かれるパーティーの席、配下を労う催し物に必須だ。

 そこからレオの行動は速かった。

 

「なあ、その技術を俺に伝授してくれないか?」

「おっ? 魔王さんも特殊メイクに興味が有ったか! いいぞお! 折角の宴の席だ、後で教えるよ」

 

 レオは船員と約束を取り付け、仮面の下で満足気に笑う。

 そんなレオを少し離れた所から見ていたリアは、小首を傾げる。

 

「なんか、レオが楽しそう」

「宴だからじゃないかしら? それとも麗しい踊り子に見惚れてるのかもね」

「……レオも男ってことねえ」

 

 彼が誰に見惚れようが構わない。それよりもレオが人らしい一面を見せたことにリアは嬉しさを感じた。

 もっともリアが思っているような事をレオは決して思ってはないのだが──

 ふと、リアはカムイとゼストに目を向けた。

 二人も宴を楽しみ笑っている。カムイの瞳に復讐の念を感じられないことから杞憂だった、とリアは安堵の息を吐く。

 

「これで心置きなくメルディア島を出発できるわね」

「そうねえ、村に被害も無ければ特別治療が必要な島民も居るわけじゃないわ。明日は少しゆっくりしてから出航になるわね」

「うん、それじゃあ時間までは何か手伝おうか? 魔力が少しだけ回復したからちょっとは動けるけど」

 

 ゆっくり休めとカトレが朗らかに語り、リアは言葉に甘え、明日はレオとカムイの案内で"花園"に向かおうと思案した。

 メルディア島の"花園"は昔、この島を訪れた王女と彼女を憎みながらも護衛として付き従う騎士が結ばれたという言い伝えがある。

 そんな伝承が残る"花園"に恋の一つもしてみたい年頃のリアは、是非とも一度は観てみたいと考えていた。

 

「ふふっ、随分と頬が緩んでるわね」

「そりゃあね、料理は美味しいし明日の楽しみが有るから! ……まあ、あの天使に付いては考えないようにしてるけど」

「……アレは本当に天使なのか疑いたくなるわね」

 

 天使とは謂わば女神ウテナに仕える神聖な存在。特に大天使はそれぞれ一人に特別な役職が与えられるほど。

 時に女神ウテナの言葉を神官に代弁し、人間の繁栄や苦難の解決の糸口を授ける。

 

「……天界で何が起こってるのかな。ルシファーをどうにかしただけで根本的な解決にはならない気がする」

 

 仮にルシファーを排除することで簡単に解決できる問題なのか。

 それどころか大天使が人間界で討たれとなれば他の天使がどう動く予想も付かない。

 そもそも天界の意志でルシファーが動いているか、単独行動なのかさえ今は分からないのだ。

 天界に向かうには天界の門を通らなければならないが問題が在る。

 リアは天界の門が何処に在るのか知らないのだ。

 あれから考えていると。

 

「天界の動向に付いては白鯨海賊団も調べてみるわ。あたし達が向かう国には名高い大神官が居るから」

「ほんと? 直接天界に乗り込むことも視野に入れてたけど……あっ、連絡の交換はどうすれば……」

「そうねえ、村か街の酒場──【水竜の寝床】を尋ねなさい。あの酒場はどこにでも在るから」

 

 カトレは、【水竜の寝床】は海賊同士の連絡網や情報を取り扱っているという。

 時にそこで陸で起きた事件も調べるのだと。

 

「うん、それじゃあ頃合いを見て尋ねてみるわね」

 

 そしてリアは、優しい目付きで島民達を眺めるリヴァイアサンに眼を向けた。

 

「キュルル」

 

 嬉しそうに鳴き、島民の子供達と戯れるリヴァイアサンの姿に、改めて救えてよかったと思う。

 リヴァイアサンが人間と家族のような間柄になったのは、メルディア島の先祖が瀕死の重傷を負った彼を救ったという経緯がある。

 きっと人間が持つ温かさに触れ、彼らは敵ではないとこの島のリヴァイアサンは本能的に理解したのだとリアは推察した。

 

 

 翌日の朝。レオとリアはカムイに連れられ、メルディア島の中心に在る"花園"に案内されていた。

 澄み切った空気が流れ、多種多様の花々が群生する光景にレオとリアは目を奪われた。

 四つの季節花が一斉に咲き乱れ花弁が空を舞う光景に。

 

「これは……見事としか言いようがない。いや、それ以上の言葉は早速不要だ」

 

 どんな言葉を尽くそうとも目の前の光景を、言葉一つで表現できないとレオは思う。

 それほどまでに美しく咲き乱れる花々に声を失う。

 

「……昔、王女と彼女に対して恨みを抱いた騎士が此処で結ばれたんだって。……たぶん、この光景を前にして恨みとかどうでもよくなちゃったのかな」

「その話知ってる。オイラ達が住むメルディア島は、最初は名も無い無人島だったんだ。でも"花園"で結ばれた二人が此処に人を集めてメルディア島って名付けたんだってさ」

 

 メルディア島の起源にレオとリアは納得し、カムイが二人の前に立つ。

 そして誇らしげに胸を張って──

 

「オイラ達の自慢の"花園"はすごいだろう」

 

 満面の笑みを浮かべたのだった。

 

 

 程なくしてレオとリアは海賊船に乗船し、バルディア大陸を目指して旅立った。島民とリヴァイアサンの声援を背にして──

 

 

 

 

 

 




三章も無事完結でちょっとお知らせ
今週の12日に資格習得のために試験が有るので、更新は13日までお休みします。
13日からまた四章の更新を開始するのでそれまでお待ちください

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