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メンデル国のとある森の中で鈴を転がしたような声が響く。
「レオ様、レオ様、レオ様、レオ様、レオ様〜!! 何処に居られるのですかあああ!」
魔界では絶世の美女の一人として名高いアルティミアは、何処かに居る主君を想い叫んだ。
愛おしいそうに魔刀を抱き締めながら。
そんな彼女にマキアと騎士団、アルティミアの配下──雪羅族達がまた始まったと言わんばかりにため息を吐く。
レオが行方不明となって一ヶ月余り、アルティミナは毎日のように主君を想い叫ぶ。謂わばこれは彼女の日課であり儀式なのかもしれない。
マキアはアルティミナにジト目を向けた。
「どんだけ魔王の事が好きなんだよ」
「当然全てよ。あのお方ほど理性的で夢に真っ直ぐなお方はそうそう居ないもの、それに時折見せる優しい笑みとか、力強さはもちろんだけど力の弱い子供をよく気遣い、あまつさえ配下一人一人に見せる細かい気遣いから魔界のために苦悩する──」
一呼吸で語り出す彼女にマキアは若干引いた。
「あ〜、はいはい。聴いたあたしがバカだったよ。……それよりもこれからどうるんだい?」
マキアの問いにアルティミアは、先程とは打って変わり真剣な眼差しを結晶体に向けた。
「……あなたが魔王城から盗み出したソレ──混沌結晶はルシファーにとって大事な物のようね。当然と言えば当然、何せソレはレオ様とリアの魔力を融合させ封じ込めた一種の魔核──」
アルティミアは言葉を区切りながら愛おしく抱き締めた魔刀を引き抜く。
鮮やかな蒼天の刃が煌き、マキアの喉元が鳴る。
あの刀は並の武器よりも優れた業物だ。恐らく魔界に一振りしか存在しない貴重な刀。マキアは刀の価値を盗賊の勘から見抜く。
「私達の行動は単純よ。レオ様とリアを捜すついでに追手を撹乱しつつ連中の計画を阻むこと。今頃ザガーン達も難民と魔族を連れながら動いてるでしょ……!」
言い終えると同時に、魔刀──蒼天氷雪を茂みに一振り。
斬撃が直線に弧を描きながら茂みに飛ぶ。
「ぐわあああっっ!? う、腕がああああーー!!」
茂みから弾け飛んだ腕が血を噴き出しながらマキアの足下に転がる。
そしてアルティミアは不敵な笑みを浮かべ刀身を向けた。
「さあ、私の可愛い同族達よ。連中を捕らえなさい」
静かに命令をくだした。
彼女の言葉に雪羅族達は一斉に茂みに踊り掛かり、辺り一体から悲鳴が聴こえる。
そして羽が宙に舞う。ついでに次々と捕縛された天使達が捕らえられ、茂みの中からアルティミナの眼前に差出される。
「捕らえました!」
「速っ!? ……あー、あたしらってとんでもない連中を相手にしてたねえ」
「……マキア殿。確かに敵にすれば恐ろしいですが、今は心強い味方ですな」
頬に刃傷が刻まれた騎士団の隊長の一人──カムランが軽快な笑みを浮かべる。
マキアは呑気なオッサンだと思う。
それでも体と大剣一つで隊長格まで成り上がった武人だ。きっと今も絶えず周囲に警戒を飛ばしていることだろう。
そもそも既に十名からなる天使の一部隊が差し向けられている。
「さあて天使がわざわざこちらに来たという事は、それだけでコレが大事な物だという確証を裏付ける証拠になるわね」
捕らえた天使達は己の失態を呪いながらアルティミアを睨む。
アルティミアの刀身が天使の頬を抉る。
「拷問は趣味じゃないけど、早く白状した方が身のためよ」
優しく促すアルティミアに天使は嘲笑う。
「我々が情報を話すとでも……っ!?」
頬を抉られた天使の表情が凍る。アルティミアに対する恐怖心では決してない。
何か体温が奪われるような感覚が天使を襲っているのだ。
「早く話さないと傷口から、どんどん凍っていくわよ? 最期には天使の氷像がそこに出来上がってるかもね」
急速に体温が奪われる様子に天使の頬が引き攣る。それでも天使は決して話そうとはしない。
数分と続く沈黙を天使は頑なに拒む。
やがてそうこうしている内に、一人の天使は全身が凍り付き氷像と成り果てた。
「あら残念」
「なあ、そいつは死んだのか?」
「簡単に殺すヘマはしないわよ。寧ろ喋る必要は無いもの……それに天使よ? 人間と違ってこの程度では死なないわ」
そう言ってアルティミアは部下に目を配る。
「出番よハーゲル」
「御意」
雪羅族の老人ハーゲルは短く頷き、氷像となった天使の頭部に掌をかざす。
「な、何をする気だ!」
「《記憶よ、我らに真実を》!!」
ハーゲルは記憶魔法──【メモリーロード】を唱えた。
するとハーゲルの頭の中に、天使が持つ記憶が情報として流れ込む。
「アルティミア様、こやつらは何も知らないようです。なぜ人間を襲っているのかも」
「まあ、そんなところでしょうね。用意周到なルシファーが部下に話すとは思えないし、二枚羽の天使なんて所詮捨て駒よ」
「それじゃあ、コイツらはどうするんだい?」
「このまま放置よ。天使を斬ったって面白くもないもの、せいぜい
アルティミアはいたずらっぽく身を翻し天使にそう告げた。
魔界の門は鍵を持たなければ開けない。当然ルシファーには魔界の門を開く術はない。
「アンタも随分いじわるだね」
「分断された仕返しぐらいわね」
舌を小さく出して笑うアルティミアに、マキアは笑みを返す。
「そうだねぇ、この財布で美味い料理にありつくとしよう」
「マキア殿……盗賊稼業から足を洗ったのでは?」
「昔の癖だよ」
マキアは屈託のない笑みを浮かべながら、捕縛した天使達から盗った財布を大手に振るった。
「丁度保存食には飽きてきたしシャワーも浴びたいからねえ」
こうして捕縛した天使を放置したまま、アルティミア達はその場から離れるのだった──