昼時にリアは難民が集まる広場へと足を運んだ。
そこは所狭しに難民用のテントが張られ、水路に近い位置に面している。
難民達が一箇所に集まり、中心に居る若い男性に眼が行く。
灰色の髪に紅い瞳と金色の瞳のオッドアイ、鍛えられた痩躯の体が特徴的な男性だ。
「もう少しだ。もう少しで纏まった金が得られるから我慢してくれ」
「そうは言っても……わたしらはお前さんに無茶だけはして欲しくないんだよ。特にお前さんに流れる血を知られたら」
老婆の言葉に灰色の男性は何でもないと笑みを浮かべる。
リアは集まる彼らに声を掛けようか、と一瞬躊躇しては、このままでは無駄足になると考え踏み込んだ。
「あの、ちょっと話いいかしら?」
リアの声に気付いた難民達は一様に驚き、灰色の男性が訝しむ。
「キミは……勇者が何か用でも?」
勇者と知って警戒されている様子にリアは苦笑を浮かべる。
誰しもが勇者を歓迎するとは限らない。特に難民という立場に追いやられた者達は、『どうして自分達を守ってくれないんだ』と怨みがましい眼差しを向けることも有る。
今もここに居る難民達は、敵意までとはいかないが疑念とぶつけたい不満を必死に堪えている。
勇者は人々の象徴であると同時に行き場の無い憤りの吐口だ。それを受け入れた上でリアは勇者であろうとする。
ただ、時折りそう言った感情と向き合う事が恐くて仕方ない。
「ちょっとこの街で起きた事件に付いてね、あとは昨晩から所在が掴めない私の連れの行方捜し」
「………連れの所在? 見ての通り此処は難民キャンプだ。キミの連れが居るとは思えないけどね」
灰色の男の言葉に、改めてリアは辺りを見渡す。
そこにはレオの姿が無いことは確かだ。
「どうやらそうらしいわ。……全くよりもよって殺人犯に担ぎ上げられるなんて」
「殺人犯? キミの連れは誰かを……?」
「ううん違うわ。容疑を掛けられているだけ、でもこのままじゃ犯人にされそうでちょっと困ってるのよ」
「因みにどんな人なんだ?」
「フルフェイス仮面に白髪の男よ」
灰色の髪の男性は眼を細め、ほんの僅かに身じろいだ。
彼の様子にリアは小首を傾げると、老婆が口を挟む。
「グレイは今から仕事なんだろう? 話はわたしが引き継ぐから行ってきな」
「ああ、後は任せた」
そう言ってグレイは足速にその場から立ち去って行く。
「えっと、それでおばあちゃん?」
「わたしらはそんな怪しい男は見ちゃいないけどね……ああ、そういえば孫のリムルが領主の屋敷に行ったきり帰って来ないんだ。何か知らないかい?」
その名は昨晩殺害された娘の名だ。
リアは眉を顰め、
「うーん、ちょっと判らないわ」
嘘を吐いた。
まだ何も掴んでいない、それにある場所に一報入れなければならない。
そうでなければ目の前の老婆の何も真実を伝える事ができない。
真実を告げればどうなるか。周囲に耳を澄ませると、リムルを心配する声が多数聴こえる。
きっとリムルはここの人達に愛されていたのだろう。
そんな彼女の死を伝える事がリアにはできない。
「そうかい、いつになったら帰って来るんだろうねえ」
「私はもう少ししたら領主の屋敷に顔を見せるけど、その時にそれとなく聴いてみるわ」
「……そうかい、ならもう少し待ってみるよ」
「ええ、何か分かったらまた来るわ」
そう言ってリアは逃げるようにして難民キャンプから立ち去った。
後から自分がリムルがどうなったか知っていると知った彼らは、きっと怨むかもしれない。
それでも怒りの矛先が自分に向けられるだけまだ良い。リアはそう感じながらながら空を見上げた。
(ままならないなあ)
こんな事は何度も経験してきた、その度に恐怖で足が竦んでしまう。