魔王と女勇者の共闘戦線   作:藤咲晃

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 ──リアが少女と少年を連れ逃亡してる頃──

 

 レオは地下水路の抜け道から厨房に入り込むと、調理台を囲む数人の料理人が居る。

 しかし彼らは気付かないのか鉈を研いでいる。

 気付かないのら好都合。このままさっさと通過してしまおう、レオは抜け道から這い上がると不意に視界に映り込む。

 そこには狂気的な光景が繰り広げられていた。

 調理台に磔にされた裸の娘に、数人の料理人が狂気を宿した虚な瞳で鉈を振り上げる光景が、本来遭ってはならない光景がレオの目の前で行われようとしている。

 

「い、いや……し、死に……死にたくないっ!」

 

 口を震わせ叫ぶ娘の声にレオは魔剣を引き抜き踏み込んだ。

 魔剣の柄を料理人の後頭部に叩き付け、漸くこちらに気付いた料理人に掌を向ける。

 

「眠れ、『スリープ』」

 

 睡眠魔法──【スリープ】が料理人達の意識を奪い床に倒れ込む。血と油に汚れた床でいびきを奏でる料理人はしばらく起き上がれないだろう。

 レオは周囲を見渡し、シルクの布を手に取り娘に掛ける。

 拘束具を外しながら、恐怖に顔を歪ませる娘に静かに語り掛けた。

 

「そこの抜け道は地下水路に続いてる。あとは第四区画まで行けば難民キャンプに出られるが……一人で行けるな?」

 

 今にも泣き出してしまいそうな娘は頷き、拘束具が外れるとすぐに地下水路へと駆けて行く。 

 彼女の背中を見送ったレオは、厨房を堂々と抜け廊下へと出る。

 清掃に勤しむメイド達が、厨房から出て来たレオに一様に目を向け、

 

「し、侵入者?」

「いえ、違うわ! 見て、あの堂々とした佇まいを……!」

「侵入者ならあんなに堂々としないわ……!」

 

 堂々とした姿勢に眼を見張るメイド達にレオは声を掛けた。

 

「ふむ、清掃か。時にこの厨房で何が行われていたか知っているか?」

 

 ぐぐもった声にメイド達は体を強張らせ、厨房の方へ視線を向ける。

 

「元々厨房の立ち入りは調理人のみに限定されているで……」

「そうか、ならいい。そのまま清掃に励むがいい」

 

 そう言ってレオはそのまま歩き出し、メイド達は言われた通りに清掃の続きに移った。

 立ち去る彼の背中に騎士に伝えるか迷うが、最近の騎士は何処か異質でおかしいのも事実。

 メイド達はレオの存在に目を瞑る。もしかしたら最近おかしい旦那様が治ると信じて。

 

 屋敷を進むに連れて響く騒ぎ声にレオは、近いと感じながら声の方向へと進む。避けて通るべきだが、目的はリアと合流して混沌結晶を砕くこと。

 廊下の右角を曲がると、刃が風を斬り真っ直ぐと首筋を狙う。

 それにいち早く気付いたレオは強引に体を引き刃を避ける。

 そして真正面に視線を向けた。

 そこには先日、遭遇したカイウスが気配を殺し佇んでいた。

 

「やれやれ、またお前か」

「言っただろ、次は殺すと」

「……金で雇われているのなら悪い事は言わん、今すぐに手を引け」

「一度請け負った依頼、簡単に破棄できる訳がないだろう」

 

 カイウスは姿勢を低くダークを構えながらレオに駆ける。

 魔剣を引き抜くと、カイウスが突如してレオの視界から消えた。

 代わりに四方から弾むような音が響く。

 レオは音を頼りに体を捻り背後に魔剣を振るう。

 廊下に刃が弾かれる音が響く、しかしそこにはカイウスの姿が無い。

 

(……これは)

 

 魔力回復の隙を与えず、四方から襲い来る刃。そして姿が見えない。

 そこに残されたのは音だけ、しかし完全に消えた訳では無い。

 そこからレオは一つの結論を導き出す。これは歩法魔法技──【瞬身】だと。

 【瞬身】は短距離の【縮地】とは違い、音速で移動し続けられる魔法技だ。

 下手に移動できない、特に狭い廊下ではなおさら。

 

(今は魔力が足らんか)

 

 レオは周囲の音、魔力の残滓から次にカイウスが現れる方向を計算し、魔剣を振るい、彼のダークの軌道に合わせ刃を弾く。

 一ヶ月も魔力が回復しない状況が続けば、嫌でも体をどう動かせば最善に動けるか理解できる。しかし経験だけで防ぐには限界があり、更に速度が上昇するなら反応しようがない。

 と、レオはそこまで考え、彼に一つ伝え忘れたことがあった事を思い出す。

 

「ここの領主が人間を人肉に加工していると知っているのか?」

「……なっ! 戯言だ……!」

 

 感情の乗った声が真横から聴こえ、走る刃を魔剣で受け流す。

 少なからず彼は真実を知らない様子だが、レオの言葉を信じる要因には成り得ない。

 仮面で素顔を隠し、勇者リアと共に行動しているだけの男の言葉は人間には信用されない。

 レオはその事を理解しながら敢えて一つの事実として伝えた。

 

 廊下でレオとカイウスの攻防がしばらく続く。

 カイウスの猛攻とも言うべき苛烈な剣戟に防戦一方のレオ。

 次第にレオの体に刃傷が刻まれ劣勢に追い込まれていくが、依然としてレオは焦らない。

 カイウスの魔力が減り続けている。無理もないことだ、それだけ連続で【瞬身】を使えば魔力がやがて底を尽きる。

 レオは次の一手に動く。

 そんな時だった、廊下の先から慌しい足音が響いたのは。

 

 それにレオとカイウスは気を取られ真正面に姿勢を向けた。

 

「ああ、もう! しつこいなあっ!」

 

 両脇に少女と少年を抱えながら騎士団に追われるリアの姿に、

 

「リア!」

「ルウ、リク……っ!?」

 

 それぞれ反応を示し、互いの刃を弾く。

 するとリアはその声に気付き、レオに一瞬驚く。

 

「えっ!? ちょ、急には止まれ……!?」

「なにっ!?」

 

 走った勢いから止まろうとするも、勢い余ったリアはルウとリクを巻き込みながらレオに衝突し、リアの膝がレオの腹部に重く突き刺さることに──

 

 

 


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