魔王と女勇者の共闘戦線   作:藤咲晃

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 衝突の果てにリア達はレオを下敷きに、打ち付けた箇所を摩る。

 

「うう、痛いなあ……君達は大丈夫?」

「お星様ぐるぐる〜」

「顔が鎧にぶつかって痛い……」

 

 二人に対した怪我がないことにリアは、安堵し下敷きになったレオから体を退けた。

 

「いつまで倒れてるの?」

「き、貴様……」

 

 レオは蹌踉めきながら立ち上がり、再度カイウスに体を向ける。

 

「まだ続けるか?」

 

 カイウスにようやく気が付いたリアは、聖剣の柄に手を伸ばした時だった。

 

「あっ! グレイお兄ちゃん!」

「違うだろ、仮面を付けてる時はカイウス兄ちゃんだろ」

「そうだった」

 

 ルウとリクの言葉にリアはカイウス改めグレイに視線を向けながら、既に追い付いた騎士団に警戒を向ける。

 

「……ふーん、グレイね。難民キャンプに居たあなたがどうしてこんなところに? それにレオも! 一体何処に行ってたのよっ!」

「……今は呑気に話してる場合か? いや、悪かった、そう睨むな」

 

 睨むリアにレオは顔を背け、魔剣を構い直す。

 そんな中グレイは騎士とリアに目線を向け、

 

「どういうことだ? なぜルウとリクが此処に……」

「分かんない、気が付いたら人質にされてた」

「此処の領主様がね、お姉ちゃんを食べたいんだって……凄く怖かったの」

「……本当なのか。……貴様らの狙いはこの仮面の男ではないのかっ!?」

 

 二人の言葉に事の重大性を悟ったグレイが騎士に向けて吠えた。

 激昂するグレイに騎士が嗤う。

 グレイは彼らの反応を肯定と捉え、二本のダークを騎士に向ける。

 この状況では昨晩招待されたリムルの行方が気掛かりだ。グレイは彼女の行方を知るべく冷ややかに問う。

 

「リムルはどうした! アイツは此処に呼ばれていた筈だ!」

「おやおや察しの悪い暗殺者だ。そんなもの、とっくに食べたに決まっている。もっともその遺体を利用し、難民に罪を着せようと企てたのだが……」

 

 何処までも腐り切った騎士の言葉に、

 

「クッハッハッ! 騎士ともあろう者が魔族よりも劣る外道に成り果てるとは何たる滑稽! これではギリガンのヤツもさぞかし苦労してるだろうな」

 

 レオは高笑いと共にギリガン王に哀れみの言葉を吐き捨てた。

 騎士の一団の後方で静観していたハングが国王に対する不敬に、顔を怒りに歪める。

 

「貴様アアアアッ! 国王侮辱するかっ!!」

「いやいや、国王を侮辱され怒るのは道理だがな? 貴様らがその名を汚したのではないか、アルバート領主の片棒を担ぐ形でな」

「……っ!? 黙れ! 黙れ! 美味な食事に舌を肥やして何が悪い!」

 

 ハングの国王への忠誠心は有る。だが、それが有ったところで彼らはアルバート領主の罪に加担した言い逃れもましてや否定する道理もない。

 レオはハングから視線を外し、リアとグレイに向ける。

 

「さて、他勢に無勢だな」

「そうね、やるべき事は決まってるわね」

 

 乱戦に持ち込むには狭過ぎる廊下、加えてルウとリクの二人が居る。 

 ましてやリアがストックしていた魔物の魔核はさっき砕いたので最後、正に不利な状況と言えるだろう。

 しかしレオは懐から魔核を一つ取り出し、リアに手渡すと魔剣を中段に構え左掌を騎士に向ける。

 

「ふむ、グレイと言ったな? 貴様はどうする?」

「悪いが連中に従う義理は無くなったが、この子達の安全を優先させてもらう」

「それが良いだろう、くれぐれも激情に駆られ短慮は起こしてくれるなよ」

 

 レオの忠告にグレイは、悔しげに唇を噛みながらルウとリクを抱えると、【瞬身】を駆使してその場から姿を消した。

 

「これであなた達を潰せるわね」

「屋敷は巻き込むなよ?」

「分かってる、レオこそ屋敷ごと破壊しないでよね!」

 

 魔核を砕き駆け出すリアと、魔力を発するレオにハングが吠える。

 

「前衛部隊は勇者を抑えろ! 後衛部隊はアレに備えろ!」

 

 ハングの指示に騎士は即座に反応し、リアの前に立ち塞がり阻む。

 そして後衛部隊がレオに掌をかざし、

 

「「「《我らの身を守りたまえ!》」」」

 

 同時に防御魔法──【シールド】を展開した。

 それに対してレオが駆け出すと同時にリアが前衛の剣を弾き、前衛部隊に展開された防御魔法に、

 

「《我が拳に鋼を砕きし業よ宿れ》」

 

 渾身の魔法技──【鋼破掌】を放つ。破壊に特化した衝撃波が【シールド】を砕く。

 しかし騎士団は慌てる様子も無く、レオの【ドレイン】に注視する。

 ハングは【ドレイン】で魔力さえ回復しなければレオは無力だと、そう信じて疑わなかった。

 しかしハングの想いとは裏腹に、レオは魔剣に陽炎の炎を宿らせ前衛の騎士団に一閃放つ。

 魔剣に斬られた騎士団の体から魔力が吸い取られレオに魔力が集まる。

 

「バカなっ!?」

「ふむ、即興とはいえ中々使い勝手のいい魔法技を思い付いたな」

 

 吸収魔法──【ドレイン】の基礎魔法理論と構築式を武器に付与し、魔法技に応用した。結果斬った対象から魔力を吸い取る魔法技──【吸魔一刀】が完成した。

 しかしこれでも魔法の魔法技への応用は魔族にとっては当たり前の技術だ。

 

「思い付きだと! 思い付きで魔法技を扱うとは! 貴様は一体何者だ!」

 

 闇の魔力が溢れ出るレオにハングは狼狽える。

 

「訳あって勇者リアと共闘関係に在る者だ。それ以上でもそれ以下でもない」

 

 レオは左掌を騎士団に向ける。それに対していち早く察知したリアが、後方へと身を低く。

 

「お前達が次に目覚める時は全てが終わった頃だろうな、『ウィンド・ストライク』ーー!!」

 

 無詠唱からの魔法行使にハングは一瞬驚愕し、すぐさま騎士団に防護魔法の指示を。

 しかし経験の浅い騎士達は動揺し防護魔法の詠唱が間に合わず、騎士団の中心に風圧の衝撃波が襲う。

 狭い空間内で襲う衝撃波に騎士団は薙ぎ倒され薄れゆく意識の中、

 

「……貴様らは……食われて、しまえば……」

 

 ハングは呪詛を吐き捨てた。

 その言葉にレオとリアはため息を吐き、アルバート領主を下を目指した。

 

 

 隈なく屋敷を内を捜索し、何処にも姿が見えないアルバート領主。

 初心に帰りレオとリアはアルバート領主が先程まで居た執務室へと向かうと。

 そこにはアルバート領主の姿が無く、残されていたのは乱雑に書類や宝石が散乱した部屋だった。

 そして机の上に放置された混沌結晶のペンダント。

 

「逃げられた!?」

「ふむ、目的の物は手に入るのだ、放置しても構わんだろうよ」

「そんな! 沢山の犠牲者を出して……っ」

 

 今は彼を追い掛けても仕方ないことだと、理性が呼び止める。結局の所彼はどんな罪を犯そうとも事実、法では裁けない。代わりの領主と騎士団が派遣される。この事件はそうして静かに終わる。

 自身の悔しさに顔を歪めながら混沌結晶のペンダントを摘み上げた。

 

「……これは物的証拠品として派遣される王都の騎士団に調べて貰うけどいいかな?」

「いや、それに付いて問題が有る。……混沌結晶が魔核研究所へ運び込まれたそうだ」

「……ねえ、絶対にロクなことにならないと思うんだけど。というかコレも騎士団に渡したら誰かが悪用するよね」

 

 砕けば一部の魔力が取り戻せる。しかしそれでは混沌がどの様に作用するのか理解する機会が遠く。

 ましてや国内にばら撒き何かに使っている。単純に考えれば国内を内部から混乱させ崩壊させること。しかしそれではあまりにも周りくどすぎる。

 レオはそう感じながらリアに一つ提案をした。

 

「ソイツに付いては俺が調べるが、お前は騎士団に上手く誤魔化しておいてくれ」

「……分かったわ。ねえ騎士団が到着するまでの間、この街で出来ることをしていいよね?」

「……まあ良いだろ。どの道コイツを調べるのに最低三日は欲しいところだ」

「ありがとう、早速行動に移すわよ!」

 

 リアの勢い付いた言葉にレオは、仮面の下で笑みを浮かべ彼女と共に行動に移す。

 それが責めて事件に関わった者の責任と務めだからだ。

 

 

 それから三日後──

 

 レオは調べた混沌結晶について大まかに説明し、より詳しい事はハーヴェストの落ち着ける場所に着いてからと語った。

 そしてその日、王都から派遣された新たな領主と騎士団をレオとリアは彼らを出迎えていた。

 王都に勤めていた騎士団というだけは有り、誰もが屈強な兵士でレオの仮面に驚くことは無かった。むしろ彼の仮面に興味を示す者も……

 

「勇者リア様、ご無事で何より」

 

 青年の領主とその彼に率いられた騎士団がリアの無事に安堵し、

 

「あはは、まあなんとかね。それより事件の事なんだけど」

「それに付いて後は我々にお任せを……捕縛された騎士、いえ、ハング達は自問の末に王都中央裁判所に護送されるでしょう。ですがアルバート元領主については──」

 

 あれから行方を眩ませたアルバート元領主を発見するに至らず、結局彼が何処へ行ったのか分からずじまいとなった。

 ただ、あの日の晩に屋敷から馬車が出発する姿が目撃されていたそうだ。

 そして彼が乗っていたと思われる馬車が平原で発見されたのだが、そこにはアルバート元領主の姿は何処にも無く、おびただしい血痕のみが残されていたという。

 

「私が気にしても仕方ないわね。後は任せるわね」

「はっ! しかしよろしいのですか? このまま王都へ向かわなくても」

「うん、魔核に関して調べたい事が有るから魔核研究所にね」

「……研究者の街ハーヴェストですか。馬車をお出ししますので、道中お気を付けて!」

 

 結局の所、今回の事件は被害者の遺族達に深い傷痕を遺し、レオを襲った暗殺者グレイは何処かへ姿を眩ませた。

 グランガルはこれから新たな領主の政策によって運営されていくだろう。そこに勇者の出る幕は無く早急に立ち去るのが得策だ。

 もっとも今回の事件は騎士団が関与していたため、彼らにとっても非常に面白くない結果だろう。

 

 リアとレオは騎士から馬車を借り受け、次の街ハーヴェストへと馬車を走らせる。

 機能不全に陥った魔核に付いて調べるため、そして運び込まれた混沌結晶を破壊するために──

 

 

 

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