レオは調べた混沌結晶について話を切り出した。
「調べたところ、混沌の魔力が魔物なら洗脳を、人間ならば悪意を浮き彫りに暴走させるというものだった。器となる結晶に小さな魔法陣が描かれていたが恐らくは天界に伝わる魔法式だろう」
レオは砕かれた混沌結晶の一部分に指差す。そこにリアとフィオナが眼を細めると、確かに人の肉眼で辛うじて見えるサイズで魔法陣が刻まれている。
そしてレオとククルは魔族にしか見えない魔界式の魔法陣の痕跡に気が付きながら、敢えてその事は伏せた。
というもの在ったという痕跡だけが残されている状態であり、どんな効果を及ばす魔法陣なのかが判別できないからだ。
「細かっ!? もしかして一つ一つにこんな細かい魔法陣を……」
「感心してる場合では無いぞ? 所持しているだけで危険なのだからな。かくいう俺も混沌に囁かれたが……まあ心を強く保てば防げるようだ。現にリヴァイアサンが抵抗して見せたからな」
リヴァイアサンは心を強く保つことで混沌に抗った。しかし一体どれだけの生物が混沌に抗えるのか。現に人々と繋がることで心の強さを示した人間は混沌に支配された。
レオは、アルバートとは一度も顔を合わせることも無かったが、彼が弱者だったとは思わない。それ以上に人間にとって混沌の囁きは危険極まるものだった。
そしてフィオナとククルに視線を向ける。
「調べて理解したのはここまでだ。お前達はこれ以上の情報を持ち合わせているのか?」
「ううん、だいたい魔王と同じぐらい。……でも天使が各地にばら撒いているみたいで、それにロランの動向も気になるかな」
「アイツの事だから、策を何重にも張り巡らせて妨害してくるんと思ったんだけどさ、何もして来なかったんだよ」
二人の言葉にレオは眼を瞑る。
天使が各地で混沌結晶をばら撒いている。それは実験のため、問題は何故実験をする必要が有るのか。
あの占師が見せた災害の竜アルビオン。アルビオンは魔物だ、それを制御するための実験なのか。そうで有るとすればルシファーとアルビオンを同時に相手にすることとなる。
(天使の計画とはそういう意味を指すのか? いや違う。それは工程に過ぎん、最大の目的は何だ? ……女神の座を奪うことか? それとも……)
レオはそこまで考え、一度思考を止める。今は混沌結晶と魔核の問題を解決するのが先決だ。
「二人は気付いていると思うが、俺とリアの魔核はほとんど機能していない。今は取り戻した僅かな魔力が有るが全快には程遠い状態だ」
「……まさかこのちんちくりんの推理が当たるなんて思わなかったよ」
「むっ、そのちんちくりんのお陰でいち早く魔王と再会出来たのは誰のおかげかな?」
フィオナはククルに強気な姿勢を見せ、彼は罰の悪そうな表情を浮かべた。
「お前のおかげだよ! それでちゃんとレオ様の魔核を治す方法は知ってるんだろうな!」
「魔核を観て見ない事には何も言えないよ。それにボクとリアは何度も魔核の検査をされてるけど、魔核分野に明るい訳じゃないからそこは専門家を頼らないと」
結局はこの街の魔核研究者を頼らなければならない。そのためには魔核研究所に入る必要が有り、混沌結晶も砕く必要が有る。アレを研究者が所持しているだけで不気味という個人的な問題も有るが。
レオはそこまで考え、フィオナに眼を向ける。
「……一先ずリアの魔核を視るだけみてやってくれ」
「そのつもり、次は魔王のも視るから……でも二人はお腹空いてるよね」
丁度良いタイミングでアンナが部屋に料理を運び込んだ。
湯気が立ち上がるシチュー、焼き立てのパンに雑に焼かれた怪鳥の丸焼きがたちまちテーブルに並べられた。
「待たせたね。魔界式と人間界式の料理、おかわりも有るからたくさんお食べ」
「……食べてからでも遅くはないな」
「賛成、お腹空いてもう死にそうだったし」
二人は早速アンナの料理に手を付ける。
リアにとっては懐かしい味が口に広がり、レオにとっては味わい深い、人間界でしか食べられない温かな食事を堪能した。
同時にレオは思う。母親の料理とはこういう物を差すのだろうか、と。
二人は温かな食事を心ゆくまで堪能し、フィオナに魔核を調べて貰うことに──