リアが目覚めた後、二人はファウスト博士に案内される形で地下研究施設へと向かう。
レオはファウスト博士から聞かされた計画に、彼女を向かわせて良いのかと思い悩む。
そこで並走するリアに問い掛けた。
「良いのか? 地下施設ではお前の心に苦痛を与えるような実験がなされているそうだが」
「だって私に関することなんでしょ? だったら私が止めないと! というか何よR計画って」
「彼らが超えてはならない一線を超えてしまった結果、誕生した計画さ。これも全て混沌結晶が原因だけど」
混沌結晶は人が心に秘めた強い欲や悪意を浮き彫りにする性質を持っている。
つまりここの研究者達は心の奥底に、とんでもない計画を胸に秘めていたということになる。
流石に計画の全容を聞かされたレオも驚いたが、何より実験対象がリアということ。
責めてこの手で計画を阻止したいが、リアは付いて来ると聞かない。
こういう所は頑固だとレオは思う。
「やれやれ、国家施設で大立ち回りを演じればリアの身が危ないというのに」
「うっ、そうだけどさ! もしもそのR計画が戦場に導入されたら魔族だって困るでしょ? 具体的な内容は分からないけど」
「そこは安心したまえ。リア様が帰還しても良いように、常に不幸なシナリオは出来上がっているからね」
「用意がいいな」
ファウスト博士に感心した様子を見せると、彼はにやりと笑みを浮かべた。
「この気に内部改革もしたいからね。たかが混沌結晶で理性が暴走するなんて研究者として三流さ。我々は常に渦巻く欲望を抑えなければならないのだから」
「そう言ってる割には、私達の体を随分調べてたわよね」
「……おっと、それはそれこれはこれだよ。何せ君達の魔核は人の数倍の魔力量を誇っているんだから、人類の総合魔力量を増やす好機を逃す手は無いよ」
ファウスト博士の言葉にリアは、深いため息を吐く。
彼らの実験の内容を概ね知っているレオからすれば狂気だ。
リアは不老に成りつつ有る。腹部を貫かれ即死しない辺り、生命力も強化されていると見るべきか。
メンデル国が目指すものは不老不死の勇者。それではリアの心は民衆によって壊されてしまうだろう。
人とは時に愚かで怖い生き物だ。魔女狩りによって魔女の排除。魔族との戦乱、混血児の迫害がそれを証明している。
中にはそんな彼らに寄り添う者も居るが、果たしてリアはその時耐えれるのか。
「どうしたのレオ? なんだか考え込んでるようだけど」
不意にリアの声に思考の渦から現実に戻され苦笑する。
「お前は随分と俺の思考が読めるようになったようだな」
「仮面越しだけど、レオって考えごとしてる時ってさ、指で魔剣の柄を叩く癖があるのよ」
「……治そうとはしているんだがな、どうにも治らんようだ」
無意識の内に出る癖をリアに看破されていたのには驚かされたが、一ヶ月以上も行動を共にしていればそれぐらいは普通なのか。
それとも彼女がどんな時でも観察しているからだろうか。
監視を含めたリアの観察は不思議と不快にはならない。
誰かに理解されていることが嬉しいからだ。
「おやおや、リア様は随分とレオにお熱のようですね」
「そう? こっちの思考は見透かしたような態度も取るから、これぐらいは仕返ししないと負けた気分になるじゃない」
「……二人の関係は不思議ですね。私はレオの正体は魔族ということ以外は決して知りませんが……ああ、そこの突き当たりを真っ直ぐ進むと地下施設への入り口です」
ファウスト博士の言葉に従い突き当たりを真っ直ぐ進みながら、リアは彼がレオの正体を察しているとみていた。
変態という一面が目立つが、観察眼に関しては研究者としても優れている。
そんな彼が眠っている間にレオと話していたのだから、正体を見破っても不思議ではない。
そんなことを思っていると地下施設の入り口を目前にして足が止まる。
地下に続く階段が分厚い鋼鉄の扉に閉ざされていた。
「こんな扉……あったかな?」
「いえ、私もこんな扉は知りませんよ。……ん? よく見ればこれは地属性魔法を硬質化させた物のようですね」
「……破るには魔力が足らんが、博士ならどうだ?」
その問い掛けにファウスト博士は顔を顰める。
「私の魔力量は元々あなた達ほど多くはありませんよ。それに攻撃魔法は不得意なので」
今の状況では扉を破れない。リアの魔法技──【鋼破掌】も残りの魔核が無い状態では破れない。
ここはククル達と一度合流する必要が有る。そう考えた二人は所長室へと足を向ける。
「ああ、待ってくださいよ! 私も最後まで付き合いますよっと!」
できればここにファウスト博士を待機させたいが、言って聞くような輩ではない。
僅かな交流、しかしそれだけでレオはファウスト博士という人物をある程度は理解していた。