魔王と女勇者の共闘戦線   作:藤咲晃

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 「おにいちゃん……りあをいじめないで……っ」

 

 幼いR達は魔剣を構え歩き出すレオに向かって悲痛な表情で訴えた。

 不味い、意外と子供好きなレオにはアレは効く、とククルは内心で冷や汗を浮かべる。

 

「朽ちろ」

 

 闇を纏った魔剣を大振りに左薙から一閃。

 魔法技──【常闇ノ一刀】が幼いR達を薙ぎ払う。

 斬られた箇所から幼いR達を闇が飲み込んでいく。あとに遺されたのは朽ち果てた人形の残骸のみだった。

 ククルの杞憂はレオの容赦ない攻勢によって終わった。しかし、そこに安堵は無い。有るのは魔王レオに対する畏怖だ。

 彼は知っている。レオが容赦しないということは、静かな怒りを宿しているということに他ならない。

 

「レオ様……ばんざい」

 

 震える口から紡がれたレオに対する賛美の言葉。

 ククルは改めて後方から続々と現れるRに身構える。

 

「しつこいなあ! だいたいコイツらの魔力は何処から……っ!?」

 

 頬を掠める斬撃にククルは眼を見張る。

 先程とRの動きが違う。

 そんな時だった。グルド博士が不敵な笑い声をあげたのは。

 

「外部から魔力を供給される限りR達は戦い続けられる! あなた方に魔力の供給が断てますかな」

「……ククル! 供給ラインはこの室内全体だよ……!」

 

 静かに援護している間、ずっと魔力の流れを探っていたフィオナが鋭く叫ぶ。

 ククルはその言葉に自然と動き出した。掌に風を集め圧縮させる。

 やがてそれを研究室の中心に向けて放つ。

 同時にレオ達はその場に伏せると、

 

「『バースト・ストリーム』」

 

 荒狂う暴風が解き放たれ、衝撃波が研究室全体を襲う。

 壁に刻まれる無数の破壊痕、吹き飛ばされるRと研究者。その中でグルド博士は余裕の表情を浮かべていた。

 

「無駄ですぞ! 室内全域には魔力結界が……っ!?」

 

 グルド博士は眼を見開く。【バースト・ストリーム】によって魔力結界が破壊されたことに。

 だが、衝撃波は供給ラインまで届かない。研究者達はR達がレオとリアに飛び掛かるのを見て、勝利を確信する。

 魔力が減り消耗した二人には、もうRを迎撃する余力は無い。

 しかし、勝利の確信はすぐさま消え去った。

 

 室内の中央に業火球が形成され、フィオナが魔法を唱える。

 

「《業火よ降り注げ》」

 

 広域爆炎魔法──【フレイムバースト】が四方に向かって業火を放つ。

 床、壁に着弾と同時に爆ぜる。すると砕かれた箇所に供給ラインの要である魔法陣が顕となった。

 全部で八箇所の魔法陣をファウスト博士が視線を巡らせ、

 

「《魔よ我が魔力によって砕けろ》」

 

 解除魔法──【スペルブレイク】が八箇所の魔法陣を同時に解除していく。

 魔力の供給が止まったR達は剣をレオに突き刺す──寸前の所でその機能を停止させた。

 次々と停止するRに研究者は悲鳴をあげ、グルド博士が困惑を浮かべる。

 

「我々の計画は完璧だったはず……何処で間違えた? いや、そうだ……最初から計画は間違っていた。人形などでは無く、完璧なリア様の複製! それこそが真のR計画……!」

 

 狂ったように口早に述べるグルド博士に、起き上がったレオが歩く。

 

「おお? キミも我々の計画に……ごふっ……はっ?」

 

 グルド博士は吐血した自身に理解が追い付かず、呆けた表情を浮かべた。

 ゆっくりと視線を落とすと、グルド博士の胸を魔剣の刃が貫いている。

 

「ば、ばかな……我々の計画は人類の……た、め……」

 

 眼を見開きながら鮮血が流れる中、グルド博士は事切れた。

 レオはそのまま魔剣を引き抜き、

 

「まっ、待ってくれ! 我々のR計画は人類に必要なものなのだぞ!」

「そうだ! もはや不老化した勇者一行の次に必要な戦力は……っっ!?」

 

 御託を並べる研究者の声に耳を貸さず、レオはその場に居た研究者達の首を刎ねた。

 そしてリアに振り向き、

 

「不服か?」

「……さっき、不老化した勇者一行って言ってたけど」

 

 間違いであって欲しい。不安に歪んだ表情を浮かべるリアにレオは口を開く。

 

「コイツらの戯言だろうよ」

 

 いずれは知る真実だが、今は知るべきでは無い。そう考えたレオはリアに嘘を吐く。

 

「……それならいいけど。でもレオが殺す必要はなかったんじゃない」

「お前は連中を斬れたのか」

「うん、あの人達の計画は後世に遺すべきじゃないわ」

「それはこちらも同じだ。俺は魔王として魔族の障害を排除したに過ぎん。お前が気にかける必要など無いのだぞ」

 

 遅かれ速かれグルド博士をはじめとした研究者は、レオ、リア、ククルの誰かに殺されていた。魔族にとってR計画は脅威であり、リア達にとっても悍ましい計画は阻止しなければならない。もっともリア達が動けたのはセレス所長から大義名分を与えられたことが大きいが。

 

「そう、またレオには助けられちゃったかな」

「俺は助けたとは思ってはいないがな」

「じゃあ、私は助けられたって思うことにする」

 

 軽口を叩きながらリアはグルド博士達の遺体に歩き出す。

 今回の一件を全ては混沌結晶の影響と簡単に片付けていいのかと迷うリアに、ファウスト博士がゆっくりと告げる。

 

「元々彼らは平常から人体実験を繰り返す外道達の一人です。我々も含めていずれはこうなる、彼らはそれが速かったというだけのこと」

「それって……」

 

 ファウスト博士の言葉の意味を問おうとした、その時だった。

 魔法器具が爆発したのは。

 

「ふむ、脱出が先決だな」

 

 ファウスト博士の言葉は気になるが、ここで問答を繰り広げている場合では無い。

 そう判断したリアは脱出を決意し、グルド博士の側に転がっていた混沌結晶を回収。その後全員で地下研究施設から脱出するのだった。

 幸い火災を感知した魔法器具が、隔壁を降ろしたことによって被害は地下研究施設のみに留まり、今回の一件はセレス所長の手によって永遠の闇に葬られることになる。

 既にセレス所長がR計画の資料を破棄し、隠蔽したことでグルド博士達は事故死として片付けられる。これがファウスト博士達が事前に用意したシナリオだったとは、リアとフィオナが気付くことは無い。

 あの爆発もセレス所長の指示を受けた研究者が仕掛けた爆弾によるもだということも、彼女達が知る機会は来ない。

 

 

 その日の晩。リアはベットに腰掛け、静かな寝息を立てるフィオナの髪を撫でる。

 まさか自身を量産する計画が進行していたとは思っても見なかった。それほどまで特別な存在では決してない、とリアは重いため息を吐く。

 そもそも計画自体が混沌結晶を入手する前だったと、記録資料に記載ていたことが判明。つまりグルド博士達は全て混沌結晶の影響と偽っていたということになる。

 

「本当にそうなのかな? でもあのRに対する狂気性はアルバート元領主と通じるところがあったのは間違いないわね」

 

 もしもあのままグルド博士達を生かせば、R計画を知ったギリガン王は迷わずに戦線導入を決行するだろう。

 騎士の代わりになる消耗品として、同時に戦時中において戦力として有用と確立されてしまえば、他国に売り利益を得る可能性もある。

 現に戦争国家は自国で開発した銃を様々な国に流し、利益を得ている。その得た利益でまた戦争を始める。

 その意味でもレオの魔王としての判断は正しい。

 レオと自分ではそもそも立場が違う。レオは民を守る立場にある。その違いはあまりにも大きすぎる。

 

「悔しいな……本当なら私が蹴りを付けるべきだったのに」

 

 リアはまたレオに任せてしまったと、息を吐き眼を瞑った。

 やがて深い眠りに就く。

 


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