魔王と女勇者の共闘戦線   作:藤咲晃

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 R計画阻止をした翌日。透き通った青空がハーヴェストを照らす。

 そんな中、【魔女の治療薬邸】でアンナがフィオナと共に薬の調合をしていると呼び出し鈴が鳴る。

 

「まだ開店前だ……うそ」

 

 来客に眼を向けたアンナは口元を覆い隠し、眼を見開く。次第に彼女の瞳から涙が流れ頬を伝う。

 フィオナは母アンナの様子に戸惑いながら来客に視線を向けた。

 フードを外した来客の頬には魔人族の証である紋章、そして菫色の髪が顕となる。

 レオから聴いていた父親の人物像そっくりな魔族の男性にフィオナは戸惑いと困惑を向け、

 

「……お父さんなの?」

 

 弱々しい声で尋ねた。そんなフィオナに彼──ジドラは頬を吊り上げ笑った。

 

「ああ、お前の父ちゃんだ。アンナも随分待たせちまったな」

 

 目の前に長年待ち続けた夫がやっと帰って来た。アンナは両手を広げる彼に駆け出す。

 そしてジドラはアンナを愛おしそうに抱き締めたのだ。

 そんな中、一人フィオナは戸惑う。長年の目的の一つだった母と子を捨てた男を空の果てまでぶっ飛ばす。そんな目的はジドラを目の前にしてどうでも良くなっていた。何よりも母が彼の腕の中で嬉しさで泣いてる姿を見ているとなおさら実行できない。

 

「やっぱ父ちゃんって言われても理解が追い付かねえよな」

「……そりゃあ、アンタはフィオナが産まれてすぐに飛び出したからね」

「でもボクが娘ってだって事は理解してるんだ」

 

 フィオナは口を尖らせると、ジドラは豪快に笑った。

 

「そりゃあ目元はアンナそっくりだからな。愛した女の面影を継いだ子だ、子として認識できねえ訳がねえだろう」

 

 彼の言葉にアンナは腕の中で恥ずかしそうに顔を赤く染めている。母の珍しい姿にフィオナは、本当に二人は愛し合っていると理解した。

 まだまだ言いたいことは沢山有るが、

 

「……じゃあ、おかえりなさいお父さん」

 

 先ずは父として彼を受け入れることから始めよう。そのためには自分から歩み寄らなければならない。そう決意したフィオナは父と母の下へ駆け出す。

 

 

 偶然にも親子の再会を目撃したレオ達は階段で身を潜めていた。

 

「あの人……まさかとは思ったけどフィオナのお父さんだったんだ」

「あれー? どっかで見た覚えが有ると思ったらロランの腹心じゃないか」

「おい、此処に居ては親子の再会に水を差すことになるだろ。俺達は大人しく部屋に戻るとしよう」

 

 レオの言葉にリアとククルは頷き、部屋に引き返すと。

 

「レオ様、ククル様に勇者……火急の知らせが」

 

 階段に身を潜めていた三人に気付いてたジドラが声をかける。

 邪魔しては悪いと思いつつ、火急の知らせにレオ達は一階に降り立つ。

 すると十分に甘えたアンナはジドラから離れ、小瓶にポーションを入れ始めていた。

 

「……邪魔したな。それで火急の知らせとは?」

「ええ、お嬢ちゃんの故郷に天使兵が進軍する模様……同時にこの街にも侵攻の動きアリ」

 

 リアの故郷の村キュアリアに天使兵が進軍しようとしている。だがリアはその報せに焦らず冷静に返す。

 

「私の故郷に天使兵。それにこの街にも……それって前線の防衛線が突破されたってこと?」

「いんや、転移魔法による直接侵攻さ」

「転移魔法……本当に敵軍が使うと厄介な魔法よね」

 

 転移したい場所の座標さえ知っていればどんな距離でも魔力一つで移動可能にする魔法。軍隊にとってこれほど厄介であり利点だらけの魔法はそう多くはない。

 だが、それは魔族と天使が使用する場合に限る。人間が扱う転移魔法では、消費魔力の多さから一度で最大で四人までしか転移できないなど、人間にとっては少数精鋭の侵入以外に使い道が少ない。

 

「ふむ、ではククルは部隊と共にハーヴェストの防衛に当たれ」

「レオ様のお供ができず残念でなりませんが、人間の街の一つや二つ護ってみせましょう」

 

 レオの判断にリアは良いのか、と目線で問うと彼は笑う。

 

「構わんよ、我が同胞の家族が暮らしている。それだけで守る価値は在る……まあ、魔核研究所に守る価値があるとは思えんがな」

 

 民思いのレオがジドラの家族が住むハーヴェストを見捨てる選択肢は既に無い。

 防衛困難となれば住民を避難させる必要もある。そのためには鬼人族をはじめとした魔族の力が必要になってくる。

 それに魔族が人間を護る姿を見せ付ければ、いずれ魔族を理解して受け入れる人間がまた現れはじめる。レオは二つの目的のために四魔将軍ククルをこの街に残すことを決めていた。

 

「ボクはリアと一緒に行きたいけど……ここに残ることにするよ」

「分かった。それじゃあ王都でまた再会しよ」

「天使の軍勢を退けたらすぐに王都に向かうね。だからリアも気を付けて」

 

 再会の約束を交わした二人。リアはレオに向き直り笑みを浮かべる。

 

「それじゃあ故郷に帰りましょうか」

「確かお前の故郷は温泉が有名だったな……いや、入浴は天使を片付けてからの楽しみに取っておくとしよう」

 

 次の目的地が決まった二人は、早速出発の準備に取り掛かる。

 そしてアンナから回復ポーションを数個受け取り、

 

「ありがとう! 大切に使わせて貰うわ!」

「幾ら回復力が凄いとはいえ油断は禁物だよ。それからレオ、アンタも魔族だからってケガを舐めるんじゃないよ」

「ああ、肝に命じておこう」

 

 

 二人は出発前に老婆の占い師に別れを告げに行ったのだが、彼女の店は既に無く。周囲の人々に何処へ行ったのかと尋ねると、『()()()()()()()()()()()()()()()()()()』と返された。

 確かに占い師の老婆は二人の目の前に存在し、アルビオンに付いて予言を与えた。だが、誰も老婆を知らないという。この事に二人は白昼夢でも見ていた可能な衝撃を受け、なんとも言えない表情を浮かべた。

 

 その後、レオとリアはフィオナ達に見送られる中、ハーヴェストを出発した。あの老婆について後髪が惹かれながらも。

 この街から馬車で東に一週間。樹海国家ユグドラシルとの国境が隣接するフェルドラン山脈の麓に、リアの故郷キュアリアが在る。

 リアは手綱を引き、馬車を走らせ故郷を目指す──


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