魔王と女勇者の共闘戦線   作:藤咲晃

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 魔王レオと勇者リアが奇妙な共闘関係になってから二日目の朝。

 早朝に軽度の地震が起きた程度で、快適な目覚めを迎えた二人は、意気揚々と早速北へと向かうだった。

 二人は岩場に膝を抱えながら、広大な海を呆然と眺めていた。

 朝日が照らす崖の下は波打ち唸りを作る水面。

 遠くに魚が勢いよく跳ね波紋を作り出す。

 

「……まさか、このような結果になろうとは」

 

 フルフェイス仮面からぐぐもった声を鳴らすレオに、リアは涙目を浮かべた。  

 

「ど、どど、どうして私達は島に居るのよ〜!! 本当に此処は何処なの!?」

 

 海に向かって叫ぶリアと、盛大に岩壁にぶつかる波の音がレオの耳に響く。

 ログハウスからこの崖に到着するまで一時間弱。

 転移した砂浜から直線ルートで森を抜け、二時間弱で到着する事を踏まえると、この島は広くはないのかもしれない。

 レオはそんな事を考えながら、この島に転移した経緯をリアに話す事にした。

 

「……あの時使用した転移石は、ランダムで人間界の何処かに転移する代物だった。……つまりいま置かれている状況は俺の責任になるわけだ」

 

「……ううっ〜、でもレオが転移石を使わなかったら今頃私は捕まってたよね」

 

「弱体化した俺が王都に転移したとなれば、この首は処断されていただろう。……ふむ、そう考えると運は良いのかもしれんな」 

 

 海を眺めながら何処か楽しそうに語るレオに、リアは恨めがましい視線を浴びせた。

 この男のお陰で助かっている事実と転移石によって島に孤立してしまっている状況が複雑だ。

 宿敵であるレオと二人きり。一人ではない安堵感がより強い複雑さを与え、彼女は顔を顰めた。

 当の本人は海を静かにただじっと眺めるばかり。

 

「海を眺めるのも良いけど、その仮面は外したら?」

 

「断る、これは気に入っているんだ。それに海とは何処まで続くのか、お前は気にならないのか?」 

 

「バルディアス大陸の北西部を領土に持つレオがそんな事を気にするなんて意外ね」

 

「複数存在する大陸の内の一つの北西部だ。……魔族にとって海とは恋焦がれた景色の一つなんだ、それを俺は目の前にしている。海が何処まで続き、果てはあるのか、何処で終わるのか、その先には何が有るのか、海の底ではどんな生物が生き死に生物の糧になるのか、気にはなるだろう」

 

 魔族が恋焦がれた景色。

 リアはなぜレオがそんなにまで海に好奇心を抱くのか知っていた。

 三年前、去り際に彼自ら永久凍土に閉ざされた魔界には海と太陽が無い事を教えてくれたからだ。

 魔界の土地は大地も海も全てが凍土となり果てた過酷な世界。

 レオが海を見てみたいと憧れを口にしていたのをリアは今でも覚えている。

 その時彼が魔族である事をはじめて知ったが、リアにとってそれは些細な事でしかなかった。

 

「そう言われると気になるけど、レオは望みが一つ叶ったんじゃない?」

 

「……言われてみればそうだな。俺は漸く海に到着したというわけだ、昨日はゆっくり見る暇も余裕も無かったが……ああ、これは素晴らしい……」

 

 心の底から語られた優しい言葉。

 仮面に隠された素顔は、いまどんな表情を浮かべているのか。

 リアは心躍らせるレオに不満気な眼差しを向けた。

 

「……どうした?」

 

「なんでもない、それよりも次はどうするの?」

 

「次か……。そうだな、ここが島だったという収穫は大きい。では、次はあの山を登りながら食料と生物から魔核を獲るとしようか」

 

 二人は立ち上がり、森に聳える山へと向かう。

 

 岩肌に囲まれた山道を歩き続けていた、その時だった。

 

「ぎゃぎゃっ! 旨そうなご馳走が獲れた!」

 

 頂上付近から声が聴こえたのは。

 レオとリアにはその声に聴き覚えがあった。

 魔物の中で最弱と呼ばれる魔物の声、どうやら獲物を獲りご満足の様子。

 レオとリアは、錆び付いた魔剣と聖剣を手にゆっくりと山頂に近付く。

 すると、ボロボロの腰巻に緑の肌色、背丈は人間の子供程度の魔物が縄で縛り上げた山羊を片手に持っていた。

 空いた手に短剣を握り締めて。

 

「……ゴブリンか。……一匹だけの様だが」

 

「そうみたいね、でもどうしてこんな島に一匹だけで居るのかしら?」

 

「大方漂流したか、誰かの悪戯で転移させられたのだろうよ。……リアは、ゴブリンと交戦経験は?」

 

「有るわよ。こう見えて国王には勇者として困りごとに悩む民の力になって欲しいって頼まれて、いろんな依頼を受けてたんだから! それで畑を荒らすゴブリン退治も請けた事があったわ!」

 

「ふむ、流石は勇者リアと言ったところか。……しかし、俺とお前は魔力が回復せず弱体化したままの状態だ、油断はするなよ」

 

「分かってる! それじゃあ……行くよっ!!」

 

 リアの言葉に、二人は同時にゴブリンの前に踊り出る。

 


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