レオ達が村全体に魔法陣を仕掛け終えた頃。
村人達は武器を手入れに勤しんでいた。
彼女達のその姿はまるで戦に向かう戦士のような面構えだ。この村にはただ守られるだけのか弱い女性はいない。
そう理解したレオとアルティミアは小さく笑った。
「ああ、辺境地とはいえ。こうも強い者達に出会えるとはな」
「そうね、我々もうかうかしてると本当に負けてしまいそうですわ」
人間の本領は守るべきもののために戦う時だ。彼女達は故郷を天使から守りたい。その一心で武器を手に取った。
こうなった人間は有した魔力以上の働きをする。それを身をもって体感した二人は闘争心を沸き立たせていた。
そんな二人を尻目にリアは、彼女達について呟く。
「みんなは、まだ私のお父さんとお母さんが元気な頃に剣技を習ってるから下手すると私よりも剣技は上かもね」
「あら、それは愉しみね」
剣の世界に生きる二人にとって実力者は良い刺激となる。特にリアよりも優れた剣の使い手が村に多いとなれば、アルティミアの闘争心が刺激されるのは当然。
魔王である自身よりもアルティミアの方が剣の腕は格上だ。自身が彼女より優っている点といえば魔力量だけ。
「うーん、剣の腕はアルティミアの方が遥かに上かも。だって普通は空間を斬り裂けないわよ? というかどうやって素の太刀筋だけで……」
「ふふん! それは魔剣にも劣らない自慢の愛刀のおかげよ。……とは言ってもね、私も昔はレオ様に敗北してるのよね」
「所有者の魔力に依存する魔剣と違い、お前の蒼天氷雪は使用者の腕に左右されるが──お前が愛刀を自慢したい気持ちはよく理解できる」
彼女の蒼天氷雪は魔界でも二振りと無い業物。レオは蒼天氷雪以上の業物を見たことが無かった。
それは人間界に訪れてもだ。数々の宝剣や聖剣の類を目にして戦ってきたが、蒼天氷雪より一歩劣ると言った印象だ。それは自身の魔剣フェルグランドも彼女の愛刀の前には価値が下がるほどに彼女の愛刀は美しい。
「レオの気持ち分かるかも。だって戦闘の最中でもつい見惚れちゃうもん……アルティミアがすごい美人ってのもあるけど、何というか蒼天氷雪は彼女のために有るって感じがするのよね」
実際に彼女が刀を振るう姿は、銀雪の中を舞う如く美しく見張れてしまう。
事実レオは、アルティミアとはじめて相対した際に彼女に見張れていた。命の奪い合い、極限の戦闘の最中ですら彼女の太刀筋には心が引き込まれる。
三百年経とうとも色褪せることが無い記憶だ。
「ふ、二人に褒められるとなんだか照れるわね……!」
意外にも彼女は褒められることに耐性が無い。彼女のそう言った一面も愛らしいのだが──
(余計な事は言わぬ方が吉か)
あまり褒めるとアルティミアは喜ぶ。それだけならまだ良いが彼女の行動は積極性を増すだろう。美女に言い寄られるのは悪い気はしないが、時と場所は弁えてもらわなければ困るのも事実。
「仕掛けも施した、そろそろハーゲン達と策を練るか」
「一応この村の地形は頭に叩き込んだと思うけど、見取り図を用意しておくわ」
「ああ、頼む。可能なら山脈の地図も有れば用意してくれ」
「分かったわ」
レオとリアは温泉宿【福音の館】を歩き出すと、
「あっ! レオ様お待ちください!」
一人で照れていたアルティミアが後を追いはじめた。
雪羅族とキュアリアの村人。天使兵の規模は不明だが、山脈の崩壊を企てる連中だ。まだ策略を忍ばせている事が予想できる。
(敵の指揮官は大天使クラスか?)
メルディア島に現れた大天使サタナキアは、リアに対してよからぬ事を思案していた。あの様子を考えるに指揮官はサタナキアの可能性が高い。
そう判断したレオは魔剣の柄に指を滑らせる。全ては居心地の良いキュアリアを守るために──