魔王と女勇者の共闘戦線   作:藤咲晃

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 既に陽は沈み月明かりが差し込んでいる。

 レオ達は【福音の館】の大客間に集まり、魔照明に照らされる室内の中、テーブルを囲い地図を広げていた。

 ここに居るのは雪羅族の部隊とキュアリアの村人達。まさか魔王と勇者が協議する日が来るとは、ここに集まった者達は考えもしなかっただろう。

 

「フィルドラン山脈には幾つか狭い谷間が在るな」

「魔物が多く出る谷間、行商ルートに登山客用から湖に繋がる谷間ね」

 

 レオは地図の谷間に羽ペンを走らせ、ハーゲンに眼を向けた。

 

「魔物の出没場所は崩すには適していたか?」

 

 天使兵を誘い込み、崩落で一気に戦力を削る。レオが策を取ること自体が意外だが、村人達の被害を考えれば自然のこと。そう判断したハーゲンは静かに首を横に振る。

 

「その先は崖となっており、誘導したとしても……」

「崩落に巻き込まれるか……いや、誘導は俺がやろう。魔王の首となれば天使も無視できまい」

「流石はレオ様。自らの首を危険に晒す真似を平気でお選びになろうとは。ですが足が早く、上手い具合に敵の意表を突けるのは、この場ではレオ様の他におりませんな」

 

 アルティミアをはじめとした雪羅族はレオなら心配ない。彼に絶対の信頼を寄せている者達はレオを信じて頷いた。

 しかしレオの考えは違う。何事も"絶対など無い"。例え天使諸共生き埋めになろうとも、自分なら生き長らえ脱出することが可能だ。

 自身が生きられるという事はそれは天使兵も同じ。ただ生き埋めにするだけでは足りない事は明白。

 

「ハーゲンよ、崩壊と同時に広範囲殲滅魔法を撃て」

「御意」

 

 レオの淡々とした指示に流石にリアは黙ってはいられなかった。

 

「そんな事をしたらレオまで巻き込まれるじゃない!」

「なに、構わんよ。魔力が半分戻ったのだ、単独転移など造作も無い」

「誘導だって一人でやるつもり? あなたは地理も把握してないでしょ?」

「どの道山脈の掃除はしておかねばならん。そのついでに細かい地形を把握するなど造作もない」

 

 そこまで言うレオにリアは黙るしかなかった。二人の様子を静かに見守る村人達は息を吐く。

 そんな中、一人パトラが笑みを浮かべながら口を開いた。

 

「リアはレオが心配なのね」

「え? ……べ、別に心配なんかしてないわよ。もう! パトラ姉も変なこと言わないでよ」

「ごめんなさいね。でもこの周囲に生息してる魔物は、比較的弱いけどほとんどが竜種と両翼種よ? 早朝に村を発ってその谷間の魔物を掃討するのは大変よ」

「ああ、だからお前達の力も借りたい。この村がそんな危険な種が蔓延る中、今日まで無事だったという事は自力で討伐できるのだろう?」

 

 レオの指摘にパトラは笑みを崩さず肯定した。

 比較的竜種の中で弱い分類に入るデュアル・ドラゴン。しかし弱いと言っても小隊が入念に準備を整えてよやっと討伐できるほど。

 

「デュアル・ドラゴン程度なら村のみんなは既に討伐してきたわ。当然だけどリアもね」

「だってデュアル・ドラゴンって双頭竜って呼ばれてるけど思考は別々に有してるから、ちょっと仕掛けると喧嘩し出すから」

「……一頭に苦戦を強いられる騎士団が聞けば卒倒ものだな」

 

 この村には一般人とかけ離れた猛者しかない。そう再認識したレオ達は乾いた笑みを浮かべていた。

 どうりでリア一人に損害を被るわけだ、と。こんな猛者ばかりの村で育った彼女もまた猛者だったということ。

 

「デュアル・ドラゴンの尾肉って美味しいって聴いたけど」

「ちょっと辛味があるけど、鍋で煮込むと良い味が出て美味しいわよ」

「そう。それだけでデュアル・ドラゴンを狩る価値は高いわね」

 

 美味い食事にあり付け、更に竜種の魔核を獲られるのだから討伐しない手はない。

 

「では、明日は俺と村人の数人で魔物の一掃に出るとしようか」

 

 魔物の一掃に戦力を回し過ぎては、いざ天使兵が攻めて来たに守りが手薄になる。

 雪羅族を残すのは天使兵の手鼻を挫く意味でも効果がある。特に連中は仕掛けた魔法陣の影響で()()()()()()()()()()()

 既にレオとアルティミアは手を一つ打った。あとは敵の指揮官がソレに気付くかどうか。

 気付かなければそのまま叩く。気付いたのではあればそれもまた良し。向こうが気が付こうが気付くまいが、既に次の手が作動するからだ。

 レオとアルティミアの悪い笑顔に、リア達は若干身を引いた。魔王が魔王らしく凶悪な笑みを浮かべ、その隣でアルティミアが愛刀を愛おしそうに、抱き締めながら妖美な笑みを浮かべる姿に恐怖を感じる。

 

「頼もしいんだけど……私達も二人に負けないように頑張ろ!」

 

 リアの言葉に村人達は一様に頷く。大切な村を守るために魔族の手を借りる。例え明日には敵になると理解しながらも、魔族と共に勇者の故郷を守った。その結果は後々に大きな影響を与えるだろう。

 特に国外問わず沢山の人が訪れるキュアリアは、まさに人々の心に与える影響は大きい。

 

 リア達がそんな事を考えてるとも知らずに、レオはアルティミアとハーゲンと共に詳細な戦略を詰めていく。

 

「天使兵が仕掛けた魔法陣を利用するタイミングは、ハーゲンに一任するが──敵主力はリアとアルティミアに担当してもらうことになるだろう。任せていいな?」

「ええ、レオ様の命令ですもの。必ずや遂行してみせますわ」

 

 こうして静かな会議は終わり、彼らは明日に備えるために各々動き出す。

 それは天使兵も同じこと──

 

 


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