魔王と女勇者の共闘戦線   作:藤咲晃

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 満点の星空が輝く中。 

 キュアリアを上空から見下す一軍の姿が有った。

 人間の無駄な足掻きを眺め、一人また一人と天使は失笑を浮かべる。

 

「……」

 

 天使兵が失笑する中でサタナキアは一人、眉を寄せていた。彼の様子が気になった一人の天使が恐る恐る尋ねる。

 

「あ、あの……何か問題でも?」

「……いや、問題は無いが疑問が有る」

「ぎ、疑問ですか? 先日斥候部隊を蹂躙したアルティミアが率いる部隊の姿が無いことでしょうか」

 

 キュアリア村からフィルドラン山脈、更に国境の関所に至るまで雪羅族の姿は一切確認できなかった。毎日欠かさず監視されている中で、魔力の高い雪羅族が発見できないのも不可解な話だ。

 

「連中は村に立ち寄ったのは確か……しかし姿が見えないのは気掛かりになりますねえ」

 

 苛立ちを抑えるように丁寧な口調で語り出すサタナキアに、天使兵は身震いした。今は非常に機嫌が悪い。彼が丁寧な口調で話す時は決まって機嫌が悪い時だ。

 サタナキアは青ざめる天使兵に視線を送り、静かに問うた。

 

「……馬車の出入りを目撃した者は?」

 

 すると五百人の天使兵が同時に手を挙げ、サタナキアは思案する。

 キュアリア村に一個部隊が出入りするには十分な馬車が出発した。その入れ違いになる形で一台の馬車が村に到着。それに乗っていたのはメルディア島の実験を阻んだ仮面の男とリアの二人。

 自身の見た光景に偽りは無い。天使を幻覚に嵌めるなど人間には決して不可能。しかし魔族ならば、そこまで考えたサタナキアは自身の考えを否定した。

 

「魔族がわざわざこの村の人間を助ける義理など無いか。雪羅族は既に撤退したと見て良いでしょう。では、何処に向かったのか……大方レオを探しているのでしょうね」

 

 アルティミア達が騎士団を救ったのは、ルシファー打倒のため仕方なくだ。それは自然な考えで有り、ましてやあの状況でも無ければ誰も好き好んで人間と手は組まないだろう。

 人間とは下等生物であり、愚かな生き物。それでいて身の程も弁えず底無しの欲望を抱えた恐るべき生物だ。

 

「ルシファー様の【昇華】が完了次第、人間殲滅計画は本格的に動き出す、その前に勇者という障害は人形として手中に収めなければ──」

 

 そう呟いた時だった。サタナキアの目の前に六枚羽の大天使が現れたのは。

 サタナキアは眼を細め、忌々しげに睨む。

 

「睨んでばかりのサタナキア」

 

 薄い水色の髪、金色の瞳でこちらを見つめる彼女にサタナキアは槍の矛を向ける。

 

「何しに来たアガリアレプト」

「独断先行。ルシファー様の計画と大きく外れる行動をされるとこちらも困る」

 

 ルシファーの右腕、軍師気取りのアガリアレプトにサタナキアは眉を吊り上げた。

 

「必要な事、それに今回はルシファー様から許可も得ている」

「ならいいけど……それよりも一つ忠告。一人の人間に執着すると身を滅ぼすよ」

 

わざわざ忠告を告げに来たこと彼女にサタナキアは僅かに驚く。

 普段なら彼女は自分に対して動かない。こちらに嫌われていると理解してるからこそ、全てやり取りは部下を通じてだ。しかし、だからと言って彼女の忠告を聞く義理など無い。

 

「ふん。言われなくとも……そんな事よりロランの監視の方はどうだ?」

「……アイツねえ。心はルシファー様への忠誠一色、そこにかつての主人に対する心なんて無い。そんなヤツを監視し続ける必要が何処に有ると」

「ルシファー様、お前、そして私の眼に奴の心がそう映り込む。いいや、私だけでは無い。天使の皆に奴の心は完全にルシファー様に心頭していると分かる……だが、魔族の忠誠など不要」

 

 サタナキアの冷え切った声に、アガリアレプトは底知れぬ笑みを浮かべる。

 恐ろしい会話だ。大天使の二人はいずれ魔族も滅ぼすつもりだ。そう理解した天使兵の一人は、自分達のしてる事が正しいのか疑問が湧く。

 疑問を浮かべた瞬間、その天使兵の身体を槍が貫き青い炎が身を焼く。

 一瞬の事に天使兵は悲鳴を挙げる暇も、恐怖も懺悔を浮かべる暇さえ与えられず散って逝った。

 

「ルシファー様の行動に疑問を感じるなど愚か!」

 

 目の前で同胞が一人散った。しかし彼に誰の一人も理解を示すことも嘆くこともない。

 人間界に居る天使全員がルシファーに絶対の忠義を誓った兵士だからだ。主を疑うことは明確な裏切り行為だ。

 

「……そういえばアレは何処に?」

 

 彼女の言うアレについてはサタナキアも未だ所在が掴めずにいる。

 

「さあ? 何せよ器無き者に何もできない」

「……そうだと良いね」

 

 杞憂な表情を浮かべるアガリアレプトにサタナキアは息を吐く。もうこれ以上は顔も見たくない、そう示すように手を振ると彼女は、静かにその場を去って行く。

 白い羽が舞い散る中、サタナキアは再びキュアリア村に意識を向けた。

 一瞬では終わらせない。あの村の人間には勇者の心を砕くための人柱になって貰わなければ困る。

 サタナキアは満点の星空の下で顔を歪めながら嗤った。

 

 

 


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