魔王と女勇者の共闘戦線   作:藤咲晃

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 ──フェルドラン山脈が爆発する少し前──

 

 月明かりに照らされた険しい山脈を駆け抜けるレオ。彼を討たんと追い掛ける天使兵が駆け抜けていた。

 天使兵が投球する槍をレオは紙一重で避け、真っ直ぐと進み続ける。

 

「逃げてばかりだ! ヤツは逃げてばかりだぞ!」

「腰抜けの魔王め! ヤツは腰抜けだ!」

 

 背後から飛ぶ天使兵の罵声にレオは決して足を止めない。それどころか顔を向け、

 

「どうした? 貴様らは弱体化した魔王一人に追い付けん腑抜けどもだったのか? 人間ならば追い付けるぞ……ああ、普段空を飛ぶ貴様らは走ることも辛いか、いやいやこれは失敬」

 

 にんまりと笑みを浮かべて挑発を挑発で返す。その姿に天使兵は空を飛び、魔王レオを追い駆ける。

 飛翔する彼らは背後から魔法を放ち、時に槍と魔法弾を放つ。しかしそのどれもが軽やかに避けるレオに擦りもしない。

 天使兵は迷う。このままヤツを追い掛けていいのか。これは罠なんじゃあないのか、と。

 

「罠……そうだ! 我々にはアレが在る!」

「サタナキア様の指示も無しにアレを起動させるのかい!?」

「構うものか!」

 

 そう言って一人の天使兵が空に手を挙げ詠唱した。

 

「《眠りし魔よ、我が言霊に従い目覚めよ》」

「《全ては天より裁き、全ては大いなる威光の下、彼方を崩落せよ》」

 

 長い詠唱を唱えった天使兵の掌から空に向かって光の柱が生み出される。光の柱はフェルドラン山脈全域に設置した魔法陣へと降り注ぐ。

 

「まさか! この地を崩壊させる気か!」

 

 魔物が多く生息していた谷間に到着したレオは、天使兵が発動させた魔法に足を止めて焦りの色を強めていた。

 余裕だった彼の表情が焦り、次第に絶望に染まる様子に天使兵達は愉悦に笑い声を噛み殺す。

 

「我々を舐めていたようだ! 貴様が我々を舐めた結果だ! 間も無くこのフェルドラン山脈は崩壊する!」

「我々には天を駆ける翼が有るが、お前達にはそれが無い! さあ! 絶望の地鳴りに恐怖しろ!」

 

 声高らかに勝利を宣言する天使兵に、レオはにやり、と嗤う。

 フェルドラン山脈を崩壊させる魔法陣は既に解体され、別の魔法陣にすり替わっている。特に意味の無い、天使兵が仕掛けた魔法陣を真似た別物。

 ハーゲンをはじめとした雪羅族の完璧な仕事にレオは改めて心から満足していた。天使兵は解除された事に一切気が付かず、それどころか大天使サタナキアまでも欺く始末。

 

「……貴様らの言う絶望とはコレか?」

「な、に? ……いや待って、何故崩壊が始まらない!?」

「種を明かす気は無いが、そうだな……貴様らがやろうとした事はこう言う事だろう」

 

 いつまで経っても魔法が発動しない事に驚き狼狽える天使兵に、レオは魔力を指先に込め指を鳴らした。

 すると谷間に施した無数の魔法陣が紅く輝き出し、

 

「ま、待て! 正気か──」

 

 "お前も巻き込まれるぞ"そう言い掛けた天使兵は時既に遅く、谷間が大爆発を起こす。

 耳をつん裂く轟音。硝煙が視界を呑み込み、激しい地鳴りに天使兵は空を飛ぼうと羽ばたく。

 だが彼らの行動は間に合わず、天使兵は谷間の崩落に呑み込まれていく。

 最後に彼らの耳に届いたのは、崩落の中で高笑いを奏でる魔王レオの声だった。

 

 

 ハーゲンを始めとした雪羅族は崩落した谷間を見下ろし、

 

「……天使兵はまだ生きておるか。やはりしぶとい」

「では、手筈通りに」

 

 雪羅族は生き埋めになった天使兵に向けて魔法を唱える。例えレオの脱出が間に合わなかったとしても、敵兵力は削る。それが魔王レオの命令だからだ。

 

「「「「《地よ灼熱の業火に溶けよ》」」」

 

 トドメは慈悲も無く入念に。広域殲滅魔法──【メギド】が崩壊した谷間を溶解させ、生き埋めになった天使兵は悲鳴をあげる事なく、肉体が岩盤と共に溶けていく。

 

「最期の仕上げだ。《憎き忌々しい吹雪よ、業火を凍て付かせよ》」

 

 ハーゲンが吐息を吐くとソレは激しい吹雪に変貌し、瞬く間に溶解した大地を凍結させていく。

 やがて処理が済んだ雪羅族は辺りを見渡す。主君の姿が何処にも無い。つまり、レオは転移が間に合わず天使兵と運命を共にした。

 雪羅族の面々が悲観する中、ハーゲンだけは何も無い空間に目を向けほくそ笑む。

 

「レオ様も悪戯が過ぎますな」

 

 その一声に、ハーゲンが見詰めていた空間が裂ける。そして虚数空間の中からレオが姿を顕した。

 

「やはりハーゲンは騙せんか」

「ああもう! レオ様の悪戯好き!」

 

 雪羅族が喜びを露に叫ぶ中、ハーゲンは最初から理解していた。魔王レオが魔力の半分を取り戻した時点で確実に生存することを。

 

「フッ、やはり自力での転移魔法は素晴らしいな。転移石による転移も悪くは無かったが──」

「場所指定できぬ転移ですからな。お陰で捜すのに苦労しましたぞ」

 

 軽口を叩き合う二人に雪羅族は息を吐く。なぜこうもレオとハーゲンは気が合うのか。

 疑問を浮かべる雪羅族にレオは一つ咳払いをして、

 

「さあキュアリア村に戻るぞ」

 

 キュアリア村を見下ろし、拡がる戦場に心躍らせた声で指示を発する。

 魔族と人間が共闘し、敵を討ち取る姿にレオとセオドラが待ち望んでいた光景が広がっている。彼が心躍らせるのも無理は無いと雪羅族達は納得しながら、フェルドラン山脈を下山すべく疾走して行く──

 

 

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