魔王と女勇者の共闘戦線   作:藤咲晃

76 / 125
7-5

 行商人に扮した翼竜車がフェルドラン山脈の国境境に近付く。

 メンデル領とユグドラシル領を隔てフェル関所に降り立つ。

 様々な商隊や行商人が並ぶ最後尾にジドラは翼竜車を付け、空から降り立った魔族の行商人ジドラに商人達はどよめき声を上げた。

 

「空飛ぶ行商人ジドラ……ってか」

 

 馬車からリアが顔を出すと更に行商人のどよめきは強まり、困惑へと変わる。

 何故勇者リアが魔族と共に居るんだ、と。遠く離れた地方からやって来た商人、隣国から遥々ここまで来た商人にとってリアと魔族が共に居る光景は、異様に見えることだろう。

 リアはそう理解しながら行商人達に微笑んだ。

 

「今は行商人見習いのリアよ」

 

 行商人にとって情報は最大の武器だ。特に大陸を取り巻く情勢は商人の売買に大きな影響を与える。今はどの国も魔王ルシファーの対応に覆われ、武器と鉄が高値で売れると誰もが睨んでいる。

 だが、勇者リアが行商人を装いユグドラシルへ入国しようとしている。つまりこの国には何かが有る。行商人は頭の中でユグドラシルの長期滞在は危険だと判断し、各々行商ルートを変更していく。

 行商人があれこれ試行錯誤する中、フルフェイス仮面を装着したレオは、行商人の商品に目を向ける。

 様々な武器種に防具の数々。中にはガルディアス大陸から仕入れたと思われる銃器の数々。更に大所帯の行商人は大砲まで扱っている始末。

 

「連中は武器商人か?」

「いんやぁ、顔馴染みも居る。……上質な毛皮を扱っていた商人なんですがね、どうやら武器が売れどきと考え変更したのでしょう」

「ふむ、ユグドラシルの通貨はユグド硬貨だったな。確かスピリア金貨はユグド銅貨二枚程度の価値しかないと」

 

 燻して使い回したスピリア硬貨の下落。それに対してユグド硬貨は質も信頼度もバルディアス大陸で一、ニを争うほど。

 

「うーん、ユグドラシルでメンデル国の商品を売っても利益には繋がらないんじゃない?」

「いやあ、メンデル国からユグドラシルへ商売に向かう商人は、国から信用された保証付きだ。商人はユグドラシルで売るだけでも利益に繋がるものさ。顔馴染み、新たな仕入れルート、更にユグドラシル国内の特産物なんかもな」

 

 ジドラの言葉にリアは成る程と理解する。

 ユグド硬貨はメンデル国の何倍も高い価値が有るが、ユグドラシルで仕入れた商品自体にも相当な価値が出る。そこまで理解したが、細部の流れは理解できず、

 

「難しいのね」

「そりゃな。行商人をはじめて八十年に成るが、妻子を成しなうだけで………」

 

 そこまで言いかけたジドラは突如口を閉じ、僅かなポケットの膨らみとずっしりとした重みに息を呑む。

 彼の様子にリアは小首を傾げると、レオは仮面越しで瞳を閉じた。

 

「ふむ。俺達は何も気付かなかった、でいいな」

 

 レオは静かに水晶玉を見詰めるフランに視線を送った。

 

「ワシは水晶玉に気を取られて何も気付かんかったよ。例え誰かが転移魔法で荷物を飛ばしたとしても、そりゃあ不慮の事故じゃって」

 

 フランの言葉にジドラは苦笑を浮かべ、積荷のチェックに回る門兵に視線を送る。

 いよいよこちらの順番が周り、レオは馬車の奥に引っ込み、リアは顔が見えない様に疼くまる。

 

「む? 魔族の行商人か……お引き取り願おうか。我々は魔族の行商人は通さない、そもそも特別許可証を持っているとは思えんしな。それに随分と連れが居るようだが、魔族が居るだけで不許可だ」

 

 横暴な態度を見せる門兵にジドラは強気な笑みを浮かべ、懐から特別許可証を突き付けた。

 ギリガン王の署名入りの特別許可署に門番は、目を見開く。

 

「こ、これはギリガン王の直筆……! い、いや、まだだ! まだ積荷のチェックが済んでおらん!」

「へいへい、こっちも急ぎなんだ。なるべく早く頼むぜ」

 

 門兵は荷車の藁を捲る。そこに並べられたのは酒瓶の数々だ。葡萄酒、林檎酒、蜂蜜酒に白ワインと赤ワインが取り揃えられた品数に門兵は息を呑む。

 扱う商品に何も問題は無い。麻薬の類も違法品の類も見当たらない。幻覚魔法も仕掛けられた痕跡も無い、門兵は唇を噛み締めながら。

 

通ってよし

 

 小さな声を発した。それに対してジドラは悪い笑みを浮かべ、

 

「なんだって? 聴こえねえなぁ!」

「通って良いと言ったんだ!」

「へっ! ご苦労さん!」

 

 ジドラは翼竜車を走らせフェル関所へと入る。

 そこでレオ達は一晩宿泊し、翌日に国境を超え樹海国家ユグドラシルに入国することに──


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。