魔王と女勇者の共闘戦線   作:藤咲晃

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 ユグドラシルの中間に位置する商業区。そこでレオ達は二手に別れた。

 ジドラとフランが商業組合に申請書を提出しに、その間レオとリアの二人は軽い街の観光に駆り出す。

 風に大樹の葉が騒めく中、人混みに紛れ聴こえる声に耳を傾ける。

 

『あの二人って夫婦らしいけどよ。なんつうか美少女と野獣?』

『熊と美少女だろ、いやどっちでも良いけどよ。あの娘の方は神官だろ? それが何でまた行商人の真似事なんか』

『神官って言えばルシファーが人類に宣戦布告した影響で、色々と大変らしいな。なんでもっと早く察知できなかったのかとか、グルなんじゃないか、とかさ』

 

 レオとリアは"熊と美少女の夫婦"に首を傾げる。

 熊は兎も角、神官の娘という言葉にナナの顔が浮かぶ。

 

「まさか、いやいや……そんな、ナナが」

「確かザガーンと行動しているらしいな。……む? 熊と言えば、アイツは熊の様な体躯──」

 

 言葉を失うとはまさにこの事。自分の配下がいつの間にか敵でもある神官ナナと結婚していた。これには幾ら魔王レオであろうとも驚きを隠せず、仮面の下で空いた口が塞がらない。

 噂が人違いかどうか、確かめずにはいられなかったのかリアは近場の男性に声をかけた。

 

「あ、あの……その噂の美少女って長い茶髪でスタイルも良い娘?」

「ああ、君と違って胸が大きい非常に美しい娘だったよ」

 

 ケラケラと笑う男性の言葉にリアは胸元を隠しながら、

 

「えっと、その娘って今どこに居るか知ってるかしら」

 

 居場所を尋ねた。すると男性に心当たりが有ったのか、彼は迷いも無く指先を向ける。

 

「それなら、あそこの角に小さな露店が見えるだろ? その娘ならそこに居るはずだ」

 

 露店が並ぶ角に、一際小さな露店が一つ。そこにザガーンとナナの魔力を感じる事から確かに彼らはそこに居る。

 レオは随分速い合流だ、と息が漏れる。同時に部下の結婚祝いの一つでも見繕わなければ。この場合魔王として魔界のベヒモスの肉でも贈りたいところだが、生憎と魔界には帰れない状況。

 

「兎に角結婚祝いが先か」

「そ、そ、そうね! 大切な仲間の幸せだもの、ちゃんとお祝いしないと……!」

 

 レオとリアは近場の露店から、肉と干し魚に加えて酒を数点取り急ぎ購入し、言われた角の露店に歩き出す。

 露店の前で掃除に勤しむナナの姿がそこには有った。リアは感極まりながら彼女に、

 

「ナナ! やっと会えた!」

「えっ!? り、リアさん……! ど、どうしてこちらに……!」

 

 抱き着くリアをナナは驚きながらも抱き留める。弾む胸にリアは顔を埋め、

 

「あぁ、この安心感を与える母性……! 本物のナナだぁ」

「あ、あはは……安心してくださるなら何よりです」

 

 これでマキア以外の仲間とは再会できた。だが、その前にレオは彼女に告げなければならない。

 

「まさかお前とザガーンが結婚していたとは……! うむ、これは選別というヤツだ」

 

 差し出される食料にナナは戸惑いながらも受け取り、漸く仮面の男の正体に気がつく。あの物言いとザガーンを知っている。何よりもリアと行動している、かつ仮面で素顔を隠す必要が有るのは魔王レオぐらいだ。

 

「ま、魔王レオ……えっ? 待ってください! 誰と誰が結婚って……えっ? "まだ"結婚してませんよ……!」

「えっ? さっき噂で夫婦だって聴いたけど」

 

 レオは露店の奥から顔を出したザガーンに視線を向け、

 

「その仮面。……良いセンスですなレオ様」

「うむ。やはり魔族はこの良さが分かるか、いや、それよりもお前達は結婚してなかったのか?」

「それは……偽りの夫婦。大変心苦しくは有ったが、訳有りの商人見習いを演じるには必要な事でしたので」

 

 ザガーンの言葉に成る程と納得がいく。だが、例え偽りだとしても彼は生真面目だ。ナナは"まだ"と言った、つまり彼女にはそれなりにザガーンに気が有るということ。

 あの戦闘からもう二ヶ月が経過しようとしている。その間にザガーンとナナの間に愛が芽生えたとしても不思議ではないのかもしれない。

 レオは未だ理解が及ばない愛に、苦心しながらもザガーンとナナに理解を示す。

 

「まあ、俺からは言うことは無いが……しかし、他の邪竜族はどうした?」

「彼らなら情報収集へ。天界の門を開く鍵が何者かに盗み出され、今は鍵捜しに追われている」

 

 ユグドラシル王家が管理していた鍵が何者かに盗み出された。それは紛れも無く天使の仕業だろうとレオは推測する。

 鍵を盗み出してまで誰かを天界に入れさせないため。しかし例の鍵は、

 

「……ザガーンとナナよ。鍵捜しの件だがな──」

 

 これまで鍵捜しに奔走していた彼らに事実を伝えるのは若干憚れる。レオが言い淀んだその時だった。

 

「あれ? ザガーン将軍に神官ナナ……鍵なら此処に有るんで早速天界へ……なんすかい? その眼は……?」

 

 苦労して鍵の行方を捜していたと言うのに、ジドラがポケットから天界の鍵を取り出しながらレオに語り掛ける姿に、ナナは膝から崩れ落ちた。

 

「わ、わたし達の苦労は一体……!」

「あ、あのね! 私もジドラが鍵を持ってることなんて知らなかったの。というか何で鍵を?」

「あっ、ああ……そりゃあ。アレだ、間抜けな天使が誤って他人のポケットに転移させちまったんだろう」

「ほっほっ、何やら苦労したようだねぇ」

 

 ザガーンは深いため息を吐き肩を竦めた。

 

(鍵はヤツから?)

(そう捉えて間違いが、ヤツが動き出したとなると危ういかもしれんな)

 

 アイツに関しては何も心配は要らないが、と小さく呟くレオにザガーンは頷く。

 

「では、部下を収集しユグナ女王にも報告を」

「ああ、ジドラは待機だ。向こうの門が破壊されんとも限らんからな」

「ええ、承知しました」

 

 レオは崩れ落ちたままのナナに視線を向け、

 

「リアよ、あとは任せた」

「う、うん。それじゃあ近くの宿酒場で部屋を取っておくから」

「ワシも門が開くまでは、休ませて貰おうかねぇ」

 

 ナナを連れ歩くリアとフランの背中を見送り、レオとザガーンは宮殿へと歩き出す。


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