魔王と女勇者の共闘戦線   作:藤咲晃

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 レオとザガーンは合流した邪竜隊と共にユグドラシル宮殿へとやって来ていた。

 レオにとっては約五十年振りに訪れることになる。

 兵士に玉座の間に通されたレオは仮面を外す。魔王レオの姿に驚きどよめく家臣団。正体に驚いたのか、それとも消し忘れた特殊メイクに驚いたのか、彼らの様子にレオは小さく笑う。

 そして紅い瞳に翡翠色の髪に、まだ幼さを残した少女に視線を向け──ユグナ女王、彼女の祖母の面影を幻視した。

 

(セオドラもユリフィリアも居ない今、あの時円卓を囲った者はもう俺だけか)

 

 友の姿が浮かぶ。立場も種族も関係ない円卓を集った茶会の光景がレオに蘇る。

 今は感傷に浸っている場合ではない。広々とした空間、外の景色が良く見える解放的な玉座の間にレオとザガーンは、ユグナ女王に敬愛の礼を示す。

 そんなレオに対してユグナ女王は、

 

「あ、ソナタが魔王レオか。ザガーンと母から良く話は聴いているよ。……ザガーンも同行しているところを見るに鍵が見つかったのかな?」

 

 年相応とは不釣り合いな威厳を感じるさせる口調にレオは笑みを浮かべる。幼さと威厳が同居する奇妙な感覚を覚えるが、他国の王はみな曲者ばかり。彼女なりに舐められまいと振る舞っているのだろう。

 

「ああ、鍵の件についてだが、俺の配下がメンデル領内で回収したそうだ」

「メンデル領内……やはり天使が持ち出したと見て間違いのだな」

 

 ユグナ女王の推論にレオとザガーンは頷く。天使はどうあっても天界に来られると不都合が有るらしい。

 門の破壊は容易では無い。ならば鍵を何処かに隠してしまえば、人間界からは天界に入ることは不可能。

 

「連中はどうも随分前から人間界侵攻を計画していたようだ。ガルバディア大陸では大神官殺しが世間を騒がせていると聴く。同時に聖都でも似た事件が勃発したそうだ」

「うむ。その件なら此方も存じているぞ。鎖国しているとは言え、行商人の出入りは自由だからな。……しかし天使が大々的に侵攻してるとなると、ウテナ教会の信仰は下がる一方──」

「メンデル国には教会の数が少ない。そのためウテナ教会の抱える問題に気付くことが遅れた訳だが、この国の教会はどうなのだ?」

 

 レオは宮殿の近くに在る大聖堂を頭に浮かべながらも問うと、ユグナ女王は深いため息を吐く。

 

「天使の『助けて』という声を聴いた者は、その日の内に死亡。ああ、殺された訳では無いぞ、アヤツは老年故に老衰によるもの。……まあ、その件もあってな国内ではウテナ教会の立場が弱まりつつある」

「人間にとっては守ってくれる者が信仰の対象となるが、女神ウテナが解決すべき問題が放置されている以上は信仰低下は免れんさ。……だが、これもルシファーの策の一つと睨んでいる」

 

 人間界に宣戦布告するために、混沌という強大な魔力を得た。そして混沌結晶を作り出し各地に放ち、実験と並行して混乱を招く。

 更に同時に進行していたであろう天界の内戦。ウテナ派とルシファー派の争い。

 女神は人々の信仰が無くとも何も影響は無いが、謂わば神仏の信仰とは人と神の信頼関係を示すもの。それを失う、それは人間が神を信じなくなった、信用できないと判断した時だ。

 いま戦争を仕掛けているのは天使だ。何も事情を知らず、家族を奪われた者は、『天使に家族を! 連中に報復を!』と恨みが蔓延し、人類と天使の戦争へと繋がるだろう。

 

(リアはこの件を危惧していたが、天界の状況次第だな)

 

 女神ウテナが動けば人はすぐにまた神を信じる。その方が自分達の身を守る安全策にも繋がるからだ。

 レオは自身の推測をユグナ女王に伝え、彼女は顎に指を添え考え込む。

 

「ルシファーは既に各地の大陸にも天使兵を差し向けたと聴くが、各地の猛者達によって最悪の事態は免れたそうだ。……ただ、このまま状況が続けば魔族も人間も巻き込んだ大きな戦乱に繋がる。それを阻止するためにはソナタらを天界に通した方が最善のようだ」

「まあ、俺達が行って出来ることはルシファー勢力の一掃ぐらいだ。いや、待てアイツは天竜アルビオンの解放を目論んでいるそうだが、アルビオンに付いて何か知っているか?」

「……天竜アルビオン。女神が封印した災害級の魔物としか。そもそも何故倒さなかったのかな」

 

 簡単な話だ。倒せないから封印した。女神は神だ、そんな超常現象のような存在が倒せない生物などいない。

 だが、アルビオンは封印に留まった。レオは嫌な予感を抱きながらザガーンに視線を向ける。

 

「そもそも竜とは生物の頂点に君臨する存在。中には神に匹敵する竜が存在してもおかしくは無いのでは? 人間である勇者リアがレオ様に匹敵するように」

「うむ、それも道理か」

 

 しばしレオとザガーンはユグナ女王と今後に付いて話し合う。ルシファー勢力打倒後の情勢の変化をはじめとした取り組むべき課題に付いてを。

 

 

 ──一方その頃──

 

「それでザガーンと夫婦生活はどうだったの?」

「え、えっと……悪くは無いですよ。寧ろお料理の時なんかも色々と手伝って頂きましたし、重い物を持つと何も言わずに持ってくれるんですよ」

 

 無表情で何を考えているのかイマイチ判らないザガーンを、ナナは紳士的な男性だと評した。

 

「それにですね。竜化した彼の背中は温かくて、不思議と安心感を感じるんです」

「そうなんだ。竜に乗った事は無いけど、邪竜族って争いを好まない種族ってレオから聞いたことがあったわ。だからなんじゃない? 心が優しいからナナも惹かれたのは」

 

 リアの言葉にナナの頬が赤く染まる。彼女はもうザガーンに惚れている。それは仲間としても心から祝福べきだ。ただ、問題が在る。

 戦争が終わらなければ結婚もできない。最悪亡命も選択しなければならない。その事にリアとナナがため息を吐くと、フランが水晶玉を光らせ。

 

「安心せい。お主らの恋は成就する。そう占いの結果が出たからのう」

「お主ら? 待って、まだ私は誰かを好きになって無いわよ」

「ホッホッ、リアにとっては先の話じゃよ」

 

 そう言って笑うフランに釈然としないながらも、ナナと恋話に勤しむ。

 その翌日、レオとリアはザガーン率いる邪竜部隊とナナ、そして占い師フランと共に天界の門を通り抜ける。

 そこで彼らが眼にしたのは──

 

 

 

 


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