魔王と女勇者の共闘戦線   作:藤咲晃

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 両軍の魔法が飛び交う中、リアは聖剣の一閃で敵陣形に穴を開けて行く。そこにレオの魔法が飛来し、陣形を立て直す暇も無く天使兵が地はと落ちて行く。

 その様子にセリナは息を呑む。人間界に数多く居る大天使にすら匹敵する魔力の持ち主。それが金髪を靡かせながら舞う様に斬撃を繰り出す彼女に見惚れてしまう。

 

(しゅ、集中! またヴァルナに怒られる)

 

 セリナは魔力を込めながら旗を振る。すると淡い光が味方部隊に降り注ぎ、戦意を高揚していく。

 神殿に飾られていた旗をルシファーの反乱時に、偶然手に取り応戦。その結果、何故か臨時の部隊長に任命されるまでに至るが、今でもセリナは大天使ミカエルの采配に納得が行っていない。

 彼女のあの指示にも。と、戦闘の最中集中力を欠いた彼女に敵軍が掌を向ける。無言から放たれた不意打ち。

 真っ直ぐと鋭く飛来する光の矢がセリナに飛ぶ。

 光魔法──【セイントアロー】がセリナに迫る中、彼女は右に身体を逸らし、僅かに頬に矢が掠める。

 

 セリナは魔法を放った天使に息を呑む。彼は聖院学校で同級生だった男の子だ。それが今では戦場で相対した敵。

 

「冗談キツいッス」

「チッ! 外したか。鈍臭いお前に避けられるなんてな……!」

 

 殺意を向ける同級生だった天使。だが、その彼は右側から飛来した灼熱の業火に呑み込まれていった。

 灼熱魔法──【アグニの業】を放ったヴァルナがセリナを睨む。

 

「まだ顔見知りを討てないのか、とんだ甘い隊長だ」

「ごめん」

「……隊長が軽々しく部下に頭を下げるな。ほら、魔法が来る」

 

 自軍に向かって飛来する数多の魔法を前にセリナは、旗を地面に突き立てた。そして、

 

「《紺碧の守護壁よ我らを脅威から護りたまえ》」

 

 詠唱を唱えると旗を起点に紺碧の守護壁が自軍を包み、飛来する数多の魔法が着弾していく。

 

「守護壁を砕け! 火力を全面集中……!」

 

 聴き覚えの在る声が響く。学校の教員の声だ。それを合図にまた魔法が増す。襲撃が守護壁を激しく揺らす、徐々に亀裂が走る。

 このままでは守護壁が砕けるのも時間の問題だ。冷や汗を流すセリナを他所に、敵軍から悲鳴が聴こえる。

 

「や、闇がぁぁ!! た、たすけ……っ!」

「バカな! 光が効かない人間だと!?」

 

 守護壁の外で敵軍を蹂躙するレオ達の姿に、自軍からどよめき声が上がる。戦を知らない自分達にとって、手勢が五十にも及ばない彼らが敵軍に対して優勢に出ている。一体どんな指揮と采配を取ればあんな動きができるのか。

 

「すごいッスね」

「兵一人の動きが違う。違いすぎる、俺達のやっている事は喧嘩に武器を与えただけだ……女神解放と謳い始まった内戦だが──」

「それは言っちゃダメ。意味が無くなる、戦って死んでいった仲間も敵も……意味が無くなっちゃう」

 

 セリナの弱々しい声にヴァルナは眉を寄せる。部隊長としてあろうと無理をする彼女の姿が余りにも痛々しい。かつての同級生として責めてあの時と同じように接して来たが、内戦が彼女の心を苦しめる。

 ヴァルナはセリナに何も言わず視線を外す。掛ける言葉が無い。今は魔王レオと勇者の動きから学ぶべき事を学ぶ。そのために彼は戦場に眼を向けた。

 

「……爆音が止んだ。俺達も攻勢に出るべきだ」

「分かってるッス。敵と味方を間違えない様に! それから彼らに誤って攻撃されないように……!」

 

 セリナは守護壁解除と同時に仲間に伝えた。自軍は頷き、武器を構え直す。

 そして守護壁解除と同時に自軍はまた敵軍へ駆け出していく。

 響き合う金属音と轟音。あんなに穏やかな天界が、ルシファーの反乱によって戦火によって都市が燃やされた。少なく無い犠牲と人間界と天界を繋ぐ大神官殺しが勃発し、今も混迷を極めている。

 

(同族同士が殺し合うなんておかしい、如何して隣人だった天使も、友達だった天使も敵対し合い殺し合えるの?)

 

 セリナの疑問は戦場では意味を成さない。彼女は戦場に蔓延する悲しみを堪え、支援魔法を自軍に施していく。負傷者には迅速に治療魔法を、その中で神官服の少女──ナナが倒れた仲間を治療する姿が視界に入る。

 少し視線を逸らすと自軍と協力して敵部隊を攻撃する邪竜族達の姿が映る。

 そんな時だった、不利を悟った敵軍が撤退していく。

 

「……撤退したッスね。あっ、そこの茶髪の人、仲間を治療してくれてありがとう」

「いえ、わたしにできる事をしただけですから」

「……そういえば、あの老人は?」

 

 突然の戦闘の始まりに避難させる余裕は無かったはず。そう考えていたセリナにナナは微笑んだ。

 

「フランさんならあそこの物影に、ほら魔力結界が張って有るでしょう?」

 

 言われた場所に視線を向けると、そこには無傷の魔力結界と戦闘によって破壊された通路の残骸が見える。

 それだけで激しい魔法が飛来したと理解できるが、それ以上に魔力結界が強力だった。

 

「ヴァルナ、この人達を拠点に案内したいんッスけど……」

「セリナ隊長が決めたんなら指示に従う。総司令には報告を入れておけよ?」

「分かってる」

 

 セリナは頷くと、拠点に念話と目の前の光景を投影。

 

『セリナ部隊長……こちらでも戦闘を観測していましたが──』

『それなら大丈夫ッス。……天界の門から人間界の来訪者が到着。彼らのおかげで危ないところを助けられたッス。今後の為に拠点に連れて行っても……?』

『ええ、ミカエル総司令からセリナ部隊長の要望は通すようにと。まだ市街地にはルシファー勢力が蔓延ってますから道中気を付けて』

 

 その言葉を最後に念話が切れ、セリナは話し合うレオとリアの下に歩み寄る。

 

「是非とも我々の拠点に同行して欲しいんッス」

「良いの? それは願ってもない申し出ね」

「ああ、俺達も天界の情勢を知りたい。詳しく教えてくれ」

 

 セリナは二人に微笑み、部隊に撤退を指示する。

 そして天門広場から離れ、美しい街並みから崩壊した市街地へと進んで行く。

 


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