魔王と女勇者の共闘戦線   作:藤咲晃

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 辺りを見渡せば鋼鉄の通路が広がり、床に敷かれた線路が在る。

 上を見上げれば一面に拡がる星空に太陽と月、決して同時に見られない天体が存在している。

 しかし太陽の温かさを感じ無い。つまりアレは魔法で模した偽りの太陽と月だという事が判る。

 

「えっと……此処が拠点?」

「そうッス! 天界の地下に存在する我々の拠点【メトロ】にようこそ!」

 

 セリナの天真爛漫な表情にリアとナナの二人は笑みを浮かべた。

 微笑ましい光景に天使と邪竜族は頬を綻ばせる中、レオは周囲を見渡す。

 

「ふむ……広い通路に両壁。上の光景は魔法だと理解しているが、此処は何かの通り道か?」

 

 床の線路はトロッコを走らせる鋼鉄の道。それが長く続き広い空間一面に見える。レオの興味は少女の笑顔よりも技術の方に向けられていた。

 

「何かを運搬するための通路か? だとすれば魔界の鉱山都市を結ぶ大掛かりな……」

「むぅ……如何にしてあの氷結した地面に走らせるか。毎日吹き荒れる吹雪、地面に敷いた線路は直ぐに埋もれてしまうな。やはり、宙を走る線路の方がカッコいいか?」

「それは……カッコいいでしょうな」

 

 大掛かりな工事が必要だが、いずれは魔界の氷を溶かす。その日が来れば折角の工事も全て文字通り水の泡になる。

 

「やはり、何を始めるにも太陽の創造が先か。いや、線路の件に関しては人間界で実行すれば問題は……」

「我々の魔法技術に感心を示して貰って嬉しいッスけど、ミカエル様を待たせているんで先に進むッス。しばらく線路の上を歩く事になるけど我慢ッスよ」

 

 セリナに急かされ、レオは一度考案した計画を頭の隅に追いやり、フランの前に屈む。

 

「老人の足では辛かろう」

「助かるのう」

 

 フランをおぶり、そのまま歩き出すと背後から感じる生暖かい視線にレオは息をため息を吐く。魔王が人間の老婆を気遣う姿が珍しいようだ。

 

「ねっ? 魔王の癖に物凄く優しいでしょ」

「魔王の意外な一面に驚きッス」

 

 そんな時だった、ふとナナが疑問を口にしたのは。

 

「ところでこの線路? には何を走らせているんですか? それに先程は地下と言いましたよね」

 

 天使の拠点であるメトロは地下に存在していた。空を浮遊する大陸の地下にだ。

 天界は魔界や人間界とは違い、大陸そのものが空を浮き、その真下に海だけが拡がっている。その海にはリヴァイアサンとベヒモスをはじめとした強力な魔物が生息。浮遊大陸から落ちれば当然命は無いし、仮に助かったとしても強力な魔物の群れに襲われ、どの道助からないだろう。

 

「……大陸の強度はミカエル様のお墨付きだ。例え魔族が【フレア】を放ったところで天界の大地には傷一つ付かん」

 

 ナナの疑問を払う様にヴァルナが答えると、彼女は安心したのか安堵の息を吐いた。彼女の心配も理解できる、戦時中の地下に潜む事はそのまま生き埋めにされる危険性を孕むこと。

 特にリアとナナの二人は人間界以外の世界を訪れた事が無い。だからそんな心配も及ぶし、危険性にも目が行く。

 

「それならレオとザガーンが本気出しても安心かな。巻き込まれちゃうかもだけど」

「味方を巻き込む様な下手は打たん。味方ごと巻き込むのは三流以下だ」

 

 ザガーンの言葉に確かにとリアは頷く。先程の戦闘も敵味方の区別を付け、攻撃に巻き込まずにいた。

 それはレオも邪竜族のみんなもだ。そして此処に居る天使も全員が配慮していた。

 

「本当に心強いわね」

 

 彼女の紡がれた言葉に耳を傾けながらレオは歩き続ける。

 此処で人間、魔族、天使の三種族が共闘している。全くもって不思議な事だ。幾ら魔王の歴史を遡ろうとも、勇者と天使と手を取り合った魔王は存在しない。

 存在しなかったがこの日、この時に前例が生まれた。これは良い傾向とも言えるだろう。

 

 

 しばらく歩き続け、壁伝いのドアを開け階段を降り、また線路を歩き、また階段を降る。それを四度程繰り返してやっと天界が集まる広々とした空間に到着した。

 中央に在る円形のカウンターで魔力盤を忙しなく叩き、宙に映し出される地上の様子を観察する女天使達にレオ達は息を呑んだ。

 

「凄い光景……投影魔法であんな事もできるんだ」

「フィオナちゃんに見せたい光景ですね」

 

 魔女を志す彼女にとって正に天界の魔法技術は、眼にするだけでも良い刺激を与える。かく言う自分も目の前の技術に興味が尽きない。

 

「時間が有ればゆっくりと解析したいのだが」

「……技術を盗むか。それも統治者として必要な事なのか? 魔王よ」

 

 目を瞑り静かに問い掛けるヴァルナ。彼にレオは口元に笑みを浮かべ、

 

「ああ、あの投影魔法は空の果てを観測するには打って付けだ。魔界には星読みが無ければ星占術も無い、今も暗き果てを彷徨う魔狼の同行を監視するには……」

「魔狼……太陽さえ飲み込んだというあの?」

 

 レオは静かに肯定の意味を示す。太陽を人工的に創り出したところで、また魔狼に喰われては意味が無い。寧ろヤツに極上のエサを与えるだけに終わる。

 

「……女神様を救えば褒美を頂けるかもしれないが?」

「褒美が欲しくて天界に来た訳では無い。そこは勘違いされては困るな、あくまでも目障りな敵を討つため……そうだな、あとは楔を外すためでもあるな」

 

 レオの言葉にセリナとヴァルナは、それでも心強い味方と位置付け、中央カウンターまで歩き出す。

 しばらくして戻って来た二人が、

 

「ミカエル様はすぐに会って来れるッス」

「セリナ隊長が彼らとミカエル様と面会するが、俺達は装備を整え地上に戻るぞ」

 

 そう告げ、ヴァルナ達と別れミカエルの執務室を目指す。

 


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